都内中心に麻疹(はしか)が急増 昨年の約3.9倍に拡大 見えない「免疫の落とし穴」とは
麻疹(はしか)の感染者が、日本国内で急増しています。最新の報告では、全国の麻疹患者数は昨年の約3.9倍に達し、特に東京都内を中心に広がりが目立っています。インフルエンザの約10倍ともいわれる強い感染力を持つ麻疹が、なぜ今、国内で再び問題になっているのでしょうか。
この記事では、現在の麻疹流行の状況や、なぜ感染が広がっているのか、その背景にある「世代ごとの免疫の違い」という落とし穴、そして私たちが今できる対策について、わかりやすく解説します。
麻疹(はしか)とはどんな病気?
麻疹は、麻疹ウイルスによって起こる急性のウイルス感染症です。高熱、咳、鼻水、結膜炎(目の充血)といった風邪に似た症状で始まり、その後、全身に特徴的な発疹が広がります。特に問題となるのは、合併症の多さと重さです。
- 肺炎
- 中耳炎
- 急性脳炎
- ごくまれに数年後に発症する重い神経障害(亜急性硬化性全脳炎:SSPE)
世界的に見ると、麻疹は今も子どもの命を奪う重大な感染症とされています。日本では予防接種の普及により患者数が大きく減ったため、「昔の病気」「もう心配いらない病気」と思われがちですが、今回のような流行が示す通り、油断はできません。
インフルエンザの10倍の感染力 なぜここまで広がりやすい?
麻疹が恐れられる理由のひとつが、その桁違いの感染力です。専門家の間では、麻疹ウイルスの感染力はインフルエンザの約10倍とも言われています。
感染の仕方は主に空気感染・飛沫感染・接触感染です。特に空気感染が問題で、咳やくしゃみで飛び出した微細な飛沫(飛沫核)が空気中に長く漂うことで、同じ室内にいただけでも感染してしまうことがあります。
- 同じ空間にいるだけで感染する可能性がある
- マスクや手洗いだけでは完全には防ぎきれない
- 免疫のない人が接触すると、非常に高い確率で発症する
このように、麻疹は「一人の患者から多くの人にうつる」性質が非常に強いウイルスです。そのため、少しでも免疫を持たない人が集団の中に増えてくると、あっという間に感染が広がってしまいます。
昨年の約3.9倍に増加 都内を中心に“再流行”の様相
最新の統計によると、国内の麻疹患者数は前年の約3.9倍に増えています。特に患者の多くは東京都内から報告されており、首都圏を中心に流行が拡大している状況です。
背景には、以下のような要因が重なっていると見られています。
- 海外からの持ち込み症例の増加(海外で感染した人が日本で発症)
- 人の移動の増加により、都市部で一気に広がりやすい環境になっている
- 予防接種率のわずかな低下により、「免疫のすき間」が生じている
特に海外由来のウイルスが国内で広がっていることが指摘されており、「海外で感染したと思われる患者をきっかけに、国内で二次感染・三次感染が起きている」との報告も出ています。
ワクチン接種率は92.7% 流行阻止ライン95%を下回る
麻疹を食い止める最大の武器が、予防接種(ワクチン)です。麻疹ワクチンは、風しんワクチンと合わせたMRワクチンとして使用されており、通常は2回接種が推奨されています。
麻疹が流行しないようにするためには、「集団免疫」という考え方が重要です。これは、社会全体の中で十分な人数が免疫を持っていることで、ウイルスが広がる余地をなくすというものです。この麻疹の集団免疫の目安は、接種率95%以上とされています。
しかし、現在の日本の麻疹ワクチン(MRワクチン)の2回接種率は約92.7%と報告されており、流行を防ぐラインである95%には届いていません。このわずか数%の差が、実は非常に大きな意味を持ちます。
- 95%以上:ウイルスが入り込んでも広がりにくい
- 92.7%:免疫を持たない人が一定数おり、その集団の中で一気に感染が広がる可能性がある
今回の流行は、まさにこの「わずかな隙」を麻疹ウイルスに突かれた形だと見ることができます。
世代で違う「免疫の落とし穴」 自分は大丈夫と思っていませんか?
麻疹の流行が問題になるたびに指摘されるのが、世代による免疫の差です。「子どもの病気」と思われがちな麻疹ですが、実際には、大人の世代にも“免疫の抜け”が存在しています。
特に注意が必要とされているのは、以下のような世代・状況の人たちです。
- ワクチンが1回接種だった時期に生まれた世代
- 学校や自治体の集団接種の機会を逃した人
- 「子どもの頃にかかったと思う」と記憶しているが、実際に麻疹だったか不確かな人
- 海外滞在が長かった人で、接種スケジュールが日本と異なる場合
ワクチンは1回でもある程度の効果はありますが、感染力の非常に強い麻疹に対しては、2回接種してはじめて十分な免疫がつくとされています。そのため、1回しか接種していない人や、接種歴が不明な人は、本人が気づかないうちに「麻疹にかかりやすい状態」になっている可能性があります。
また、年代によっては「自然感染で免疫を獲得した」と考えられてきた人もいますが、実際には別の発疹の病気だった可能性もあり、「麻疹にかかったつもりで、実は免疫を持っていない」というケースもあり得ます。
海外由来のウイルスが国内で猛威 グローバル化の時代ならではの課題
今回の流行で特徴的なのが、海外で広がっている麻疹ウイルスが日本国内に持ち込まれ、それが国内で広がっているという点です。人や物の行き来が活発な現在、感染症の拡がり方も国境を簡単に越えてしまいます。
- 海外旅行や海外出張から帰国した人が、帰国後に発症
- 空港や駅、観光地など、人が密集する場所で二次感染
- 都心部を中心に、通勤・通学を通じて短期間で広範囲に拡大
特に、麻疹の潜伏期間は10日前後と比較的長く、その間も発症前後から他人にうつす可能性があります。このため、「どこで感染したのか分からない」事例が出やすく、結果として感染経路の追跡が難しくなることも、流行拡大の一因となっています。
専門家が呼びかける「ワクチン2回接種を」
今回の記録的な流行を受け、感染症の専門家や自治体、メディアからは「ワクチンを2回接種してほしい」という呼びかけが相次いでいます。「すでに1回接種しているから大丈夫」と考えている人や、接種歴がよくわからない大人の世代に対しても、今一度確認し、必要に応じて追加接種を検討するようにと促しています。
特に、次のような人は、早めに自分のワクチン歴をチェックすることがすすめられています。
- 母子手帳が手元になく、自分の接種回数がわからない人
- 1970年代~90年代前半頃に生まれた人で、制度の移行期にあたる世代
- これから海外旅行や海外出張を予定している人
- 医療・教育・保育など、多くの人と接する仕事に就いている人
医療機関では、ワクチン接種歴が不明な場合や、1回のみと考えられる場合には、追加でMRワクチンを接種することで、2回接種相当の免疫をつけることができると説明しています。すでに2回接種している人が、誤って3回目を接種しても大きな問題になることは通常少ないとされるため、「分からなければ相談のうえで接種する」という考え方も選択肢になります。
もし麻疹が疑われる症状が出たら?
発熱や発疹が出た際、「風邪かな」と自己判断して出勤・通学を続けてしまうと、知らないうちに周囲へ感染を広げてしまう危険があります。特に麻疹の場合、免疫のない妊婦さんや乳児、持病のある人が感染すると、重症化しやすいことが知られています。
次のような症状があり、麻疹の可能性が心配な場合は、いきなり医療機関に駆け込むのではなく、事前に電話で相談することが重要です。
- 38〜39度以上の高熱が数日続く
- 強い咳、鼻水、目の充血などがある
- 数日後、顔から始まる赤い発疹が全身に広がってきた
- 最近、麻疹患者と接触した可能性がある、または国内外で流行している地域に滞在していた
医療機関に電話で連絡すれば、院内感染を防ぐための受診方法(時間や入口の案内など)を教えてもらえる場合が多く、ほかの患者さんへの感染拡大を防ぐことにもつながります。
日常生活でできること 過度に恐れず、正しく備える
麻疹は確かに重い感染症ですが、ワクチンで防ぐことができる病気でもあります。過度に恐れて不安を大きくするのではなく、次のような点を意識して、日常生活の中でできる対策を取ることが大切です。
- 自分と家族の予防接種歴を確認する(母子手帳や接種記録をチェック)
- 接種回数があやふやな場合は、かかりつけ医や自治体に相談する
- 乳児や妊婦さん、基礎疾患のある家族がいる場合は、周囲の大人がしっかり免疫をつけておく
- 流行地域への不要不急の外出や、人が密集する場への参加を控えることも選択肢にする
- 発熱や発疹などの症状があれば、自己判断せず早めに医療機関に相談する
麻疹は一度流行が起きると、その強い感染力のために短期間で多くの人に広がる特徴があります。しかし同時に、「社会全体でワクチン接種率を上げる」ことで、確実に抑え込むことができる感染症でもあります。
今回の記録的な流行は、私たちに「麻疹はまだ終わっていない」「ワクチンで守れる命がある」というメッセージを突きつけています。自分自身だけでなく、大切な家族や社会全体を守るために、今一度、麻疹とワクチンについて考えることが求められています。


