国立競技場、初の民営化決算は「28億円超の赤字」も想定より小さく 収益構造と今後の課題とは

国立競技場の運営会社が公表した2025年度決算によると、経常利益は28億2379万円の赤字となりましたが、運営側はこの赤字幅について「当初の想定より少ない」と説明しています。
2025年4月の民営化後、初めての通期決算となった今回の数字は、スタジアムビジネスの現状と今後の可能性を示す重要な指標となっています。

2025年度決算の概要:売上高と赤字額

まず、今回発表された決算のポイントを整理してみましょう。

  • 経常利益:28億2379万円の赤字
  • 売上高:22億5357万円
  • 期間:2025年4月の民営化以降、初めての決算期
  • 主な増収要因:音楽イベントなどの開催増加

一般的に「赤字」という言葉を聞くと、経営がうまくいっていない印象を持ちやすいですが、運営側は今回の赤字について「想定より少ない」と評価しています。
これは、民営化直後の投資負担や維持管理費が大きい中でも、収益の柱となるイベント開催が順調に増えていることを背景にした見方だといえます。

なぜ「赤字なのに想定より少ない」と評価されるのか

今回の決算が注目を集めた理由のひとつが、「28億円超の赤字」というインパクトのある数字でありながら、運営側がそれを前向きに捉えている点です。

民営化したスタジアムの場合、初期段階では次のような理由で赤字が見込まれることが多くあります。

  • 新たなイベント誘致に向けた営業活動や設備投資
  • 施設全体の維持管理費、人件費の負担
  • 利用者を増やすための料金設定やキャンペーンによる収益圧迫

国立競技場も例外ではなく、初年度はある程度の赤字を前提とした運営計画が立てられていたとみられます。その中で、想定していたよりも赤字幅が小さかったということは、売上高が順調に積み上がり、イベント運営がうまく回り始めている可能性を示しています。

特に、音楽イベントの増加は売上高22億5357万円という数字を支える大きな要因になっています。
スポーツだけでなく、コンサートやエンターテインメントイベントの会場として活用することで、年間を通じた稼働率を高め、収益基盤を広げようとする戦略がうかがえます。

音楽イベント増加で見える「多目的スタジアム」としての役割

国立競技場といえば、これまでオリンピックやサッカー日本代表戦、各種陸上競技など、スポーツの聖地としてのイメージが強くありました。
しかし、2025年度決算では、音楽イベントの増加が売上高を押し上げた要因として報じられています。

大規模スタジアムを運営する上で、スポーツイベントだけに依存すると、どうしても開催数が限られてしまいます。そこで、世界的にも

  • スタジアムをコンサート会場として活用する
  • フェスティバルや大型イベントを誘致する

といった形で、「多目的スタジアム」化を進める流れが一般的になっています。
国立競技場もこの潮流に乗る形で、音楽イベントの誘致に力を入れており、その成果が売上高に表れてきているといえます。

若手アーティストも「国立競技場」を目標に

一方で、「国立競技場に立つ」ということは、アーティストにとっても特別な意味を持ち続けています。
男性ダンス&ボーカルグループ「M!LK(ミルク)」の後輩にあたる8人組グループ「ICEx」も、アルバム発売日のイベントでファン約2000人と交流した際に、「国立競技場に立つために頑張っています」と語っています。

このコメントからは、国立競技場が単なるスポーツ施設ではなく、アーティストが「いつか立ちたい」と憧れるステージとして強い象徴性を持っていることがわかります。
近年は、人気アーティストによるスタジアムライブが数多く開催され、音楽ファンにとっても国立競技場は「特別なライブ会場」として定着しつつあります。

ICExのような若手グループが「国立競技場」を目標に掲げることは、将来のイベント誘致にとってもポジティブな要素です。
人気が高まり、スタジアムクラスの動員が可能になれば、彼ら自身が国立競技場の新たな収益源となる可能性もあります。

国立競技場が抱えるコスト構造と難しさ

一方で、いくら音楽イベントが増えたとしても、国立競技場のような巨大施設を黒字運営することは簡単ではありません。
SNS上の反応やコメントなどでも、「何年使えば建設費を回収できるのか」「維持費が高すぎるのでは」といった声が上がっています。

国立競技場のような大規模スタジアムには、次のような特徴的なコスト構造があります。

  • 維持管理費:芝生の管理、施設の清掃・修繕、電気・水道・空調などのインフラ維持
  • 人件費:常勤スタッフに加え、イベント開催時の警備・案内・運営スタッフ
  • 設備投資:音響・照明、デジタルサイネージ、バリアフリー対応などの継続的な改善

こうしたコストは、イベントがない日でも基本的に発生し続けるため、施設をいかに高い稼働率で運用できるかが経営の鍵となります。
2025年度決算ではまだ赤字ではあるものの、音楽イベントの増加などによって売上高が22億円を超えたことは、今後の改善余地を示す材料となっています。

民営化の狙いと今後の注目ポイント

2025年4月に国立競技場が民営化された背景には、民間のノウハウを活用して収益性を高めたいという狙いがあります。
民営化によって、イベントの誘致や施設の活用方法において、より柔軟で自由度の高い運営が可能になりました。

今後の注目ポイントとしては、次のような点が挙げられます。

  • スポーツと音楽イベントのバランス:競技場としての機能と、コンサート会場としての役割をどう両立させるか
  • 地元・周辺環境との共生:騒音や交通混雑など、地域住民への配慮とのバランス
  • 収益多角化:ツアー、グッズ販売、スタジアム見学、企業タイアップなど、新たな収入源の開拓
  • 若手アーティストやスポーツイベントとの連携:ICExのような新世代アーティストや、国内外の大会とのコラボレーション

特に、ICExが語ったような「国立競技場に立ちたい」という夢は、スポーツ選手だけでなく、音楽アーティストにとっても広く共有されつつあります。
こうした「憧れ」をうまく取り込みながら、スタジアムのブランド価値を高めていけるかどうかが、長期的な収益改善の鍵になるでしょう。

ファンと利用者目線で見た国立競技場

利用者やファンの立場から見ると、国立競技場は次のような魅力を備えています。

  • 圧倒的なスケール感:満員の観客で埋まったスタジアムならではの一体感
  • アクセス:首都圏からのアクセスが良く、観戦やライブに行きやすい立地
  • 象徴性:日本を代表するスタジアムで、特別なイベントが行われる場所というイメージ

スポーツ観戦に訪れる人だけでなく、コンサートやイベントで初めて国立競技場に足を運ぶ人も増えています。
こうしたファンの体験がSNSなどを通じて広がることで、「一度は行ってみたい場所」としての国立競技場の人気がさらに高まる可能性があります。

赤字から黒字へ:持続可能な運営に向けて

2025年度決算では、まだ28億円を超える赤字が出ていますが、運営側は「想定より少ない」としており、一定の手応えも感じているとみられます。
今後、どこまで赤字幅を縮小し、持続可能な運営モデルを築いていけるかが問われます。

そのためには、

  • さらなるイベント誘致による稼働率の向上
  • コストの見直しや効率化による支出削減
  • スタジアムブランドを活かした新たなビジネス展開

といった取り組みが不可欠です。
ICExをはじめとする若手アーティストが「国立競技場に立ちたい」と公言し、ファンと共に夢を膨らませていることは、このスタジアムが今後も多くの人を惹きつける舞台であり続けることを示しています。

スポーツの聖地として、そして音楽やエンターテインメントの大舞台として、国立競技場がどのような進化を遂げていくのか。
2025年度決算で見えた「想定より少ない赤字」という結果は、その歩みの出発点として、今後の動きを見守るうえで重要なマイルストーンといえそうです。

参考元