ネパールからの留学生も増加へ 外国人留学生40万人の時代に、日本と世界の「学び」が変わる

日本の大学や専門学校で学ぶ外国人留学生が40万人を突破し過去最多となる一方で、日本人の海外留学はピーク時から約2割減少しています。円安や物価高の影響で日本人学生が海外に出にくくなる中、アジアを中心とした多くの若者が日本を目指しており、そのなかにはネパールから来日する留学生も少なくありません。日本社会は今、「留学生が過去最多」という新しい局面を迎え、そのメリットと課題が同時に浮き彫りになっています。

外国人留学生40万人超えという転換点

まず押さえておきたいのは、日本における外国人留学生数が40万人を超えたという事実です。これは、政府が掲げてきた留学生受け入れ拡大の目標を予定より早く前倒しで達成した水準とされています。アジア諸国からの留学生が大きな割合を占めており、その流れの中でネパール人留学生も着実に増加してきました。

日本の大学や専門学校、語学学校には、中国、ベトナム、ネパール、インド、インドネシアなど、多様な国・地域から若者が集まり、講義やゼミ、研究室、アルバイト先、地域コミュニティの中で日本人と交流しています。これは、教室の中だけでなく、地域社会や職場にも多文化の空気が広がっていることを意味します。

この40万人超という数は、「日本はもう、学生の現場レベルでは国際化している」と言える象徴的な数字です。国際都市だけでなく、地方の大学や専門学校でも、ネパールを含む多国籍の留学生を見かけるのは、もはや珍しい光景ではなくなりました。

日本人の海外留学はピーク比2割減 円安と物価高の影響

一方で、日本人の海外留学はピーク時と比べて約2割減少

  • 円安:日本円の価値が下がり、海外での授業料や生活費の負担が重くなった
  • 世界的な物価高:滞在費・家賃・食費など、以前よりも総費用がかかるようになった
  • 家計への不安:奨学金や支援制度があっても、長期留学に踏み切る心理的ハードルが高い

その結果、「海外に行って学びたい」という意欲があっても、費用面の理由で断念する学生が増えています。日本の大学や企業が求める「国際的に活躍できる人材」を育てるうえで、これは大きな逆風となっています。

本来であれば、日本人学生がネパールをはじめとするアジア諸国や欧米に留学し、現地で生活しながら学ぶことで、多様な価値観を身につけることができます。しかし現状では、「日本に来る留学生は増えているのに、日本から外へ出る学生は減っている」というアンバランスな国際化が起きているのです。

「留学生」が過去最多という明るい側面

「留学生が過去最多」というニュースは、日本社会にとって多くのポジティブな面を持っています。主なメリットを整理すると、次の通りです。

  • キャンパスの国際化:授業やゼミ、サークル、寮など、日常の中で異文化交流が生まれる
  • 地域活性化:地方の大学に通う留学生が増えることで、人口減少地域での消費や雇用が生まれる
  • 労働力としての貢献:コンビニや飲食店、介護、製造など、多くの業種で留学生がアルバイトや就労で支えている
  • 卒業後の国際人材:日本で学んだ留学生が、日本企業や母国の企業で重要な役割を担う可能性がある

ネパールの若者にとっても、日本で学ぶことは、専門的な知識だけでなく、日本語やビジネス文化、技術、ものづくりなどを直接体感できる貴重な機会です。日本の大学で情報技術や観光、看護、介護、ビジネスを学んだネパール人留学生が、卒業後に日本で働いたり、ネパールに戻って日本企業とビジネスをしたりするケースも増えています。

つまり、留学生の増加は、単に「人数が多い」という話ではなく、日本とネパールを含む諸外国との人的な架け橋が着実に太くなっていることを意味します。

一方で見えてきた課題:生活・労働・教育の三つのギャップ

しかし、「留学生が過去最多」となる中で、多くの課題も明らかになっています。今野晴貴さんによる「留学生が過去最多 課題は」という論点でも、留学生を取り巻く問題が指摘されています。ここでは大きく三つに分けて整理します。

1. 生活の課題:日本での暮らしの難しさ

日本に来る留学生は、言葉・文化・生活習慣が異なる環境で、勉強と生活を両立させなければなりません。ネパールを含む多くの学生が直面するのは、次のような困難です。

  • 家賃や生活費の負担:都市部では家賃が高く、物価も上昇傾向にある
  • 日本語の壁:日常会話はできても、専門分野の授業やレポートは難しい場合がある
  • 孤立感:言語や文化の違いから、友人ができにくい、相談相手がいないと感じることがある
  • ビザや手続きの複雑さ:在留資格の更新、アルバイト時間の管理など、ルールを理解しづらい

とくにネパールなど物価水準の低い国から来た学生にとって、日本の生活費は大きな負担です。仕送りや奨学金だけでは足りず、アルバイトに頼らざるをえないケースも多く見られます。

2. 労働の課題:学業とアルバイトのバランス

留学生には、在留資格上のルールとしてアルバイト時間の上限が設けられています。これは本来、学生が「学業を主」にして生活できるようにするための仕組みです。しかし現実には、次のような問題が指摘されています。

  • 長時間労働:生活費を稼ぐために、規定に近い、あるいはそれを超える時間働いてしまうケースがある
  • 低賃金・不安定な雇用:安い時給や不安定なシフトで働かされることがある
  • 学業への影響:深夜勤務や長時間労働で、授業に集中できない、欠席が増えるなどの弊害

ネパール人留学生の中には、日本語学校から専門学校、大学へとステップアップする過程で、昼間は学校、夜はアルバイトという生活を数年にわたって続ける人もいます。そこでは、「働きながら学ぶ」ではなく、「学びながら働かされる」ような状況に陥ってしまうリスクがあります。

このような「労働への依存」は、留学生本人の健康や学業の質だけでなく、日本の受け入れ制度のあり方も問う問題です。

3. 教育の課題:本当に「学べているか」

留学生数が増える一方で、「その学生たちが本当に質の高い教育を受けられているか」という視点も重要です。課題として挙げられるのは、次の点です。

  • 日本語能力に合わせた授業設計が十分でないまま、難易度の高い講義が行われている場合がある
  • 留学生向けサポート(学習支援、レポート指導、就職支援など)が大学や学校によって差がある
  • 定員確保のための受け入れに偏り、教育内容が追いついていないケースがある

ネパールからの留学生の中には、日本語習得と専門科目の勉強を同時にこなさなければならない学生も多くいます。そのような学生にとって、きめ細かな日本語教育や、母語や英語も活かした多言語でのサポートが充実しているかどうかは、学びの成果を大きく左右する要素です。

日本人とネパール人留学生が「一緒に学ぶ」ことの意味

ここまで見ると、「日本人は外に出なくなり、外国人留学生だけが日本に増えている」と、どこか歪な構図にも見えます。しかし視点を変えると、これは日本国内で国際経験を積むチャンスが広がっているとも言えます。

たとえば、日本人学生が海外留学をしなくても、同じキャンパスやクラスの中にネパール人をはじめとする多国籍の友人がいることで、次のような学びが生まれます。

  • 日常会話やグループワークを通じて、自然と英語や日本語以外の言語に触れる
  • ネパールの文化、宗教、家族観、キャリア観などを知り、異なる価値観を理解する
  • 将来的に、ビジネスや研究で協力しあえる国際的な人的ネットワークができる

このように、キャンパス内の多文化環境をうまく活かすことができれば、日本人学生も留学生も、お互いにとって「国内留学」とも言える経験を積むことができます。

特にネパールは、観光資源が豊かで、多くの日本人がトレッキングやボランティア活動を通じて訪れてきた国です。日本で学ぶネパール人留学生との交流は、将来の観光事業や国際協力、ITビジネスなどの分野で、新しい連携のきっかけにもなりえます。

求められるのは「量」から「質」への転換

外国人留学生40万人という数値目標を達成した今、日本に求められているのは「量から質へ」の転換です。具体的には、次のような方向性が重要になります。

  • 生活支援の充実:住まい、生活費相談、心のケア、医療アクセスなど、安心して暮らせる環境づくり
  • 公正な労働環境:アルバイト先での長時間労働や不当な扱いを防ぐ仕組みづくり
  • 教育の質の保証:日本語教育の強化、少人数のサポート、実践的なカリキュラムの整備
  • 卒業後のキャリア支援:日本企業への就職支援、母国でのキャリア形成を見据えたマッチング
  • 日本人学生との交流促進:合同プロジェクト、チューター制度、イベントなどで相互理解を深める仕掛け

ネパールからの留学生にとっても、これらの環境が整えば、日本での留学経験は「お金のために働いた数年間」ではなく、「学び・成長・交流に満ちた時間」として記憶に残るはずです。その経験は、将来、日本とネパールの関係をより豊かにする土台となります。

日本人の海外留学減少をどう乗り越えるか

同時に、日本人の海外留学の減少に対しても、工夫が求められます。円安や物価高という経済的な要因は簡単には変えられませんが、次のような取り組みが考えられています。

  • 短期・オンライン留学の活用:長期留学が難しい学生でも、数週間の短期プログラムやオンライン授業で海外大学とつながる
  • 奨学金・支援制度の拡充:経済的な負担を軽減するための公的・民間の支援
  • 企業との連携プログラム:就職と結びついた留学プランを設け、キャリア形成の一環として海外経験を位置づける

ネパールの大学や教育機関との交換留学や共同プロジェクトも、こうした動きの中で重要な選択肢となりえます。たとえば、日本の学生がネパールの大学で環境問題や観光、IT、社会課題について学び、ネパールの学生が日本で技術や経営、看護などを学ぶ、といった双方向の交流が広がれば、両国にとって大きな財産になります。

ネパールと日本、留学生がつなぐ新しい関係

ネパールからの留学生が日本で学び、日本人学生や地域の人々と出会うことは、単なる個人の経験にとどまりません。それは、次のような長期的な波及効果を生み出します。

  • 日本企業がネパールに進出する際の橋渡しとなる人材が育つ
  • ネパール国内で日本語や日本文化への理解が深まり、観光やビジネスの交流が増える
  • 災害対策や環境保全など、両国が共通して抱える課題について、共同研究や共同プロジェクトが進む

その意味で、「留学生が過去最多」というニュースは、日本とネパールを含む多くの国々にとって、新しい時代への入り口だと言えます。今必要なのは、40万人を超える留学生一人ひとりが、その可能性を最大限に発揮できるような環境づくりです。

日本社会が、ネパールをはじめとする留学生を「労働力」としてだけではなく、「ともに学び、ともに未来をつくる仲間」として迎え入れることができるかどうか。そこに、これからの日本の国際化の質が問われています。

参考元