「介護は偉い」だけでは語れない現場のいま――処遇改善加算と人手不足のリアル

「介護は偉い」「介護職は尊い仕事」。そんな言葉がメディアでも繰り返される一方で、現場で働く人たちの心には、どこかモヤモヤした違和感が残っています。
近年は処遇改善加算による賃上げが進み、2026年6月からは新たな制度改定もスタートしました。それでも「人手不足」は解消されず、辞めていく仲間が後を絶たない――このギャップはどこから生まれているのでしょうか。

この記事では、介護職として3年半働いた声や、2026年6月から始まった新しい「介護職員等処遇改善加算」のポイント、そしてケアマネジャーなど一人職場の算定状況など、最近話題になっているニュースをもとに、分かりやすく丁寧に解説していきます。

「介護は偉い」への違和感と現場のリアル

介護の仕事は、食事・排泄・入浴などの身体介助から、生活の見守り、家族の不安への対応まで、多岐にわたる業務を担います。心身の負担が大きく、責任も重い仕事です。
それゆえに「介護は偉い」「よく頑張っているね」と言われることも増えましたが、現場で3年半働いた介護職の声として、「その言葉で終わってしまうこと」に違和感を抱く人が少なくありません。

・ほめられるけれど、給料は他産業と大きく変わらない
・賃上げがされても、生活の安心にはまだ足りない
・人員が増えないまま、業務の負担はむしろ増えている

こうした感覚は、今の介護現場では決して珍しいものではありません。
「偉い」と称えるだけでなく、賃金・労働環境・キャリアの見通しといった、具体的な条件が変わっていかなければ、人材は定着しない――これが現場からの率直なメッセージだといえます。

2026年6月からの「介護職員等処遇改善加算」改定のポイント

その課題に向き合うため、国は2026年度の介護報酬改定で「介護職員等処遇改善加算」を見直し、6月から臨時施行を行いました。今回の改定には、いくつか大きな特徴があります。

対象が「介護職員」から「介護従事者」へ拡大

これまでの処遇改善加算は、主に「介護職員」が中心でしたが、2026年の改定では対象の範囲が拡大されました。
新しい制度では、現場で介護に携わる幅広い職種――具体的には、介護支援専門員(ケアマネジャー)や看護職員、事務職員を含む「介護従事者全体」が対象に含まれる方向で整理されています。

これにより、「ケアマネは対象外」「事務職は評価されにくい」といった不公平感を軽減し、在宅サービスや事務・支援部門の人材確保も強化することが狙われています。

月額約1万円の賃上げと上乗せ評価

今回の改定の大きなポイントは、賃上げの水準が明確に示されたことです。
介護従事者全体に対し、月額約1万円(約3.3%)の賃上げを可能とする加算が講じられています。さらに、生産性向上(ICTの活用や業務の協働化など)に取り組む事業所には、約0.7万円の上乗せ、民間企業同等の定期昇給分として約0.2万円が想定され、最大で月約1.9万円(約6.3%)の賃上げにつながる仕組みです。

・全ての介護従事者:月約1万円の賃上げ
・生産性向上への取組がある事業所:さらに約0.7万円
・定期昇給を考慮:約0.2万円
・合計:最大約1.9万円(約6.3%)の賃上げ

これまで「介護は賃金が低い」とされてきた状況を、他職種と遜色ない水準に近づけることを目指した改定といえます。

新たな区分「加算Ⅰロ」「加算Ⅱロ」などの創設

2026年6月から、既存の加算区分の上位に「加算Ⅰロ」「加算Ⅱロ」などの新しい区分が設けられました。
これらは、生産性向上や協働化に積極的に取り組む事業所をより高く評価するための区分で、取得できれば月額最大1万9,000円規模の賃上げにつながるとされています。

加算区分ごとに、以下のような要件が設定されています。

  • 月額賃金改善要件:加算額の一定割合以上を、基本給や毎月支払われる手当の改善に充てること
  • キャリアパス要件:昇給制度、研修機会、資格取得支援などを整備すること
  • 職場環境等要件:腰痛対策、メンタルケア、ICT活用による負担軽減など、働きやすい環境づくりに取り組むこと

特に「加算Ⅰロ」「加算Ⅱロ」を取得するには、生産性向上や協働化に関する取り組みや、ケアプランデータ連携システムへの加入などが評価対象となります。

必ず「職員の賃金改善」に充てるルール

重要なルールとして、処遇改善加算として給付された加算額は、その全額以上を職員の賃金改善に充てることが義務付けられています。
事業所が受け取った加算は、介護報酬の上乗せ分であり、事業所の利益ではなく「賃金改善の原資」として位置づけられています。

・国は事業所に「加算」として原資を支給
・事業所は独自のルール(賃金改善計画)に基づき職員へ配分
・個々の職員への配分方法は、資格・勤続年数・役職などに応じた傾斜配分も可能

このため、「国が個人の支給額まで決めている」という誤解もありますが、国が決めているのは事業所に渡す総額(原資)のみで、具体的な配分は事業所の責任で設計されます。

介護事業所が準備すべき実務対応

2026年6月からの新しい処遇改善加算を算定するためには、事業所側の準備が欠かせません。
厚生労働省の通知や各種解説では、次のような実務ポイントが示されています。

  • 賃金改善計画書の作成:どの職員に、どの賃金項目で、どれくらい改善を行うかを明確化する
  • キャリアパス要件の整備:昇給制度、職位ごとの役割、研修体系を文書で整理する
  • 職場環境等要件の取り組み:健康管理、メンタルヘルス、業務の効率化などを具体的に進める
  • ICT・DXの導入:記録システムやケアプランデータ連携システムへの参加など、生産性向上の取り組み
  • 体制届・計画書の期限内提出:4月・5月分を算定する場合は4月15日まで、6月分以降のみの場合は6月15日までに提出すること

特に新たに対象となる訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援などでは、介護職員等処遇改善加算Ⅳに準ずる要件として、キャリアパス要件と職場環境等要件の整備が求められます。
こうした準備が不十分だと、加算を算定できず賃金改善に結びつかない可能性があるため、経営者や管理者は早めの対応が重要になります。

一人ケアマネ事業所の約半数が「算定予定あり」

ニュースでは、「処遇改善加算、一人ケアマネの算定予定は47%」という読者アンケート結果も報じられています。
居宅介護支援事業所の中には、ケアマネジャーが1人だけで運営している「一人ケアマネ」事業所も少なくありません。こうした小規模事業所にとって、処遇改善加算の算定は大きな負担にもなり得ます。

アンケートによると、一人ケアマネ事業所の約47%が「処遇改善加算を算定する予定がある」と回答しており、約半数が新制度に乗り出す意向を示しています。
これは、ケアマネ自身の処遇改善を図りつつ、在宅サービスの人材確保を進めようとする動きを反映したものといえます。

一方で、残りの事業所には、

  • 書類作成や要件整備の負担が大きい
  • 賃金改善計画の作成に不安がある
  • 制度が複雑で、情報を十分に得られていない

といった理由から、算定を見送る動きも見られます。
この点は、制度側だけでなく、支援体制や情報提供のあり方にも課題があるといえるでしょう。

「賃上げでも人手不足」が続く背景

ここまで見てきたように、2026年6月からの処遇改善加算の改定は、介護従事者全体の賃金引き上げと、ケアマネ・看護職・事務職員なども含めた対象拡大を進める重要な一歩です。
それでもなお、「賃上げをしても人手不足が続く」という声がニュースでも取り上げられています。

その背景には、次のような要因が重なっていると考えられます。

  • 賃金水準と他産業との比較
    賃上げがあっても、介護以外の業界に比べるとまだ差があるケースもあり、「同じ負担なら別の仕事を選びたい」と感じる人もいます。
  • 業務量と責任の重さ
    入浴介助・排泄介助・認知症ケアなど、日々のケアの負担が大きく、事故防止やクレーム対応などの精神的ストレスも含めて、賃金だけでは説明しきれない大変さがあります。
  • 人員不足による悪循環
    人が足りないために、一人ひとりの業務量が増え、疲弊して離職につながり、さらに人手不足が深刻になるという悪循環が現場で起きています。
  • キャリアの見通しが立ちにくい
    昇進・昇給のルートや、資格取得に対するサポートが十分でない場合、将来像を描きにくく、「長く続けよう」と思いにくい状況もあります。

今回の改定では、賃金改善だけでなく、キャリアパス制度の整備や職場環境の改善が要件として求められていることが重要です。
つまり、処遇改善加算は単なる「手当アップ」ではなく、「働き続けられる環境を整えるための仕組み」として位置づけられているといえます。

これからの介護現場に求められる視点

「介護は偉い」という言葉は、介護職の努力や尊さを認める大切なメッセージです。
ですが、その言葉だけでは、現場の課題は解決しません。
必要なのは、具体的な賃金改善と、働きやすい環境づくり、キャリアの見通しを含めた総合的な支援です。

2026年6月からの処遇改善加算の改定は、その方向に一歩踏み出した施策と言えます。
介護従事者全体への対象拡大、賃上げの明確化、生産性向上へのインセンティブ付与、ケアマネや看護職など在宅サービスの人材確保――こうした政策が、現場の声とどれだけ重なっていくかが問われています。

介護の仕事を続ける人たちが、「偉い」と言われるだけでなく、安心して暮らせる収入と、誇りを持って働き続けられる環境を手に入れられるように。
制度の活用と改善、現場からの声の発信、そして社会全体の理解が、これからさらに重要になっていくでしょう。

参考元