群馬・前橋特別支援学校の「まえとくアートバス」引退 子どもたちが最後の乗車体験で思い出づくり
群馬県前橋市の前橋特別支援学校で、子どもたちが自分たちの手でペイントした路線バス「まえとくアートバス」とのお別れ企画が行われました。
老朽化により今年の夏で運行を終了することになったこのバスに、児童たちが乗車して、最後の思い出づくりをしました。
子どもたちの手形で彩られた「まえとくアートバス」とは
「まえとくアートバス」は、前橋特別支援学校の児童が車体をペイントした路線バスです。
このバスは、学校近くの前橋市石関町とJR前橋大島駅を結ぶ路線で運行されてきました。
車両は、前橋市内でスクールバスなどを運行する永井運輸(永井バス)が用意し、子どもたちが思い思いに色をのせていきました。
児童たちは、手のひらを車体に直接押し当てたり、ローラーを使ったりして、のびのびとした表現でバスをカラフルに彩りました。
ボディーに描かれたモチーフのひとつが、学校の校歌の歌い出し「おひさまキラキラ光ってる」です。
明るい歌詞のイメージに合わせて、大きな太陽や光、カラフルな模様が描かれ、見ているだけで元気が出るようなデザインになっています。
子どもたちの手形もたくさん押されていて、「このバスはみんなでつくった」という温かさが感じられる姿です。
制作は2025年10月 特別支援学校ならではの取り組み
このアートバスがペイントされたのは、2025年10月のことです。
前橋特別支援学校の児童が参加し、先生や関係者に見守られながら、1台の真っ白なバスが少しずつ「子どもたちの作品」へと変わっていきました。
特別支援学校では、子ども一人ひとりの特性に合わせた学びが大切にされています。
今回のバスアートでも、
- 筆やローラーを使って、じっくり絵を描く子
- 手のひらでペタペタとスタンプのように色を重ねる子
- 外からバスを眺めて、完成していく様子を楽しむ子
と、それぞれが自分なりの関わり方で参加しました。
「描くこと」だけではなく、バスに触れること、色を感じること、人と一緒に作業することなど、さまざまな経験がこの取り組みの中に含まれています。
アートバスはその後、「まえとくアートバス」という愛称で、地域を走る路線バスとして活躍しました。
通学や日々の移動で目にする地域の人たちにとっても、子どもたちが描いたデザインは、前橋特別支援学校と地域をつなぐシンボルのような存在になっていました。
老朽化で運行終了へ 夏で引退が決定
長く地域を走ってきたこのアートバスですが、車両の老朽化により、今年の夏をもって運行を終了することになりました。
路線バスとしての役目を終えることは、安全面や運行上やむをえない判断ですが、子どもたちが手がけた「作品」が道路を走る姿が見られなくなるという意味でも、大きな節目となります。
運行終了の知らせを受け、学校とバス会社は、「子どもたちに、最後にこのバスとの時間をプレゼントしたい」という思いから、乗車体験会を企画しました。
前橋特別支援学校での「最後の乗車体験会」
乗車体験会が行われたのは、6月22日です。
この日、アートバスは学校の敷地内にやってきて、小学部1年生から3年生までの児童を中心に、最後の時間を一緒に過ごしました。
子どもたちは先生に手を引かれながら、ワクワクした表情でバスに近づきます。
自分たちがペイントしたカラフルな車体を見上げて、指をさしながら何かを話す姿も見られました。
バスの中に入ると、子どもたちは
- 座席に座ってシートの感触を確かめる
- 窓から外を眺め、いつもとは違う視点を楽しむ
- 自分の手形や絵を背景にして記念写真を撮る
といった形で、それぞれの時間を過ごしました。
中には、何度も座席を移動してお気に入りの場所を見つける子や、外から家族のように手を振る子の姿もあったといいます。
子どもたちにとって、このバスは単なる「乗り物」ではなく、自分たちが参加して作り上げた特別な存在です。
だからこそ、最後の乗車体験は、笑顔の中にも少しだけさびしさが混じった、特別な時間になりました。
「お別れ」だけではない、心に残る学び
特別支援学校の教育では、「体験」を通して学ぶことが大切にされています。
今回のアートバスの取り組みも、
- 色や形を感じる表現活動
- 公共交通にふれる社会体験
- 仲間と一緒にひとつのものを作る協働の経験
といった、さまざまな学びの機会になりました。
そして、運行終了にあわせて行われた乗車体験会は、「お別れの仕方」を学ぶ場にもなっています。
長く身近にあったものが役目を終え、感謝の気持ちを持って見送る――この経験は、子どもたちの心に静かに刻まれていきます。
「まえとくアートバス」はまもなく道路を走る役割を終えますが、
車体に残された手形や絵、そして乗車したときの感触や景色は、子どもたちにとってかけがえのない思い出の一部となりました。
地域とともに走った特別支援学校のアートバス
このアートバスは、前橋特別支援学校と地域、そしてバス会社との連携から生まれた取り組みです。
前橋市の道路を走るたびに、地元の人たちはカラフルな車体を目にし、子どもたちの存在や活動を自然と意識することにつながりました。
特別支援学校は、どうしても一般の人からは日常的に様子が見えにくい場所でもあります。
しかし、子どもたちの手で彩られたバスが市内を走ることで、
- 「どんな子どもたちが通っているのだろう」
- 「こんな素敵なバスを作ったんだ」といった関心
- 特別支援教育への理解や温かいまなざし
が少しずつ広がっていきました。
また、バス会社にとっても、子どもたちと一緒にバスを作り上げることは大きな意味を持っています。
「運ぶ」だけではなく、子どもたちの成長や学びに寄り添うパートナーとして関わることで、地域の交通事業者としての役割を新たに見つめ直す機会にもなりました。
「特別支援学校」と地域をつなぐ、これからのかたち
今回の「まえとくアートバス」引退はひとつの区切りですが、特別支援学校と地域をつなぐ取り組みは、これからも続いていくと考えられます。
前橋市内では、前橋特別支援学校を中心に、地域と連携したイベントや作品展、バスアートのようなプロジェクトが行われてきました。
特別支援学校の子どもたちが、街の中で活躍する機会を持つことは、
- 子どもたちにとっての自己肯定感の向上
- 保護者にとっての喜びや安心感
- 地域の人にとっての理解と共生の一歩
につながります。
アートバスが残したものは、車体そのものだけではなく、こうした人と人とのつながりでもあります。
いつかまた、新しい形で、子どもたちの作品や思いが街を走る日が来るかもしれません。
そのとき、今回の「まえとくアートバス」の経験が、きっとその土台のひとつとして生きていくはずです。
老朽化のために引退を迎える「まえとくアートバス」。
前橋特別支援学校の子どもたちが最後に過ごしたバスの時間は、優しさと笑顔にあふれた「さよなら」の授業となりました。


