実質賃金が4年連続マイナスに──いま日本で何が起きているのか
「給料は上がったはずなのに、生活は楽にならない」――そう感じている人が少なくありません。
最近公表された統計によると、2025年度の実質賃金は前年度比で0.5%減少し、4年連続のマイナスとなりました。
一方で、直近の月次データでは「実質賃金が3カ月連続でプラス」となる動きも見られています。ただし、その背景にはガソリン補助金などの政府支援策があり、素直に「賃金が回復している」とは言い切れない状況です。
ニュースのポイント整理
- 2025年度の実質賃金は0.5%減少し、4年連続のマイナス
- 名目賃金(お給料の額面)は上がっているが、物価上昇に追いついていない
- 最近の統計では、実質賃金が3カ月連続でプラスになっている
- ただ、そのプラスはガソリン補助金などの影響が大きいと指摘されている
ここから、実質賃金とは何か、なぜ下がり続けているのか、そして私たちの生活にどんな影響があるのかを、できるだけわかりやすく見ていきます。
そもそも「実質賃金」とは?
ニュースでよく耳にする「実質賃金」とは、物価の変化を考慮して調整した賃金の指標です。簡単にいうと、
- 名目賃金:給料の「額面」の金額(手取りではなく、支給額ベース)
- 実質賃金:名目賃金から物価の影響を差し引き、「どれだけモノやサービスが買えるか」を表す金額
例えば、給料が2%上がっても、物価が3%上がっていれば、実質賃金は1%分目減りしたことになります。
実質賃金がマイナスというのは、「同じお給料でも、買えるものが減っている」という状態を意味します。
実質賃金が4年連続マイナスという意味
2025年度まで4年連続で実質賃金がマイナスということは、ここ数年、生活の実感として「じわじわと苦しくなっている」状態が続いていると考えられます。
たとえボーナスが増えたり、ベースアップ(ベア)があったりしても、物価の上昇がそれ以上に速ければ、生活は楽にならないのです。
なぜ実質賃金は下がっているのか
今回のニュースでは、「物価高に賃上げが追いついていない」ことが主な理由として挙げられています。要因を少し整理してみましょう。
1. エネルギー価格・食品価格の上昇
ここ数年、世界的にエネルギー価格の高騰や原材料費の上昇が続きました。その影響が、
- 電気・ガス料金
- ガソリン代
- 食料品価格
など、生活必需品の値上げとして家計を直撃しています。
特に、所得の低い世帯ほど、収入に占める「食費・光熱費」の割合が大きいため、実質的な負担感はさらに増します。
2. 賃上げの広がり方に偏りがある
大企業を中心に、春闘などで過去にない水準の賃上げが報じられる一方で、
- 中小企業では十分な賃上げが難しい
- 非正規雇用では大きな増額につながっていないケースが多い
という指摘もあります。
そのため、統計全体では賃金の伸びが見られても、多くの人が「実感としての賃上げ」を感じにくい状況になっています。
3. 税や社会保険料など「見えにくい負担」の増加
給料の額面(名目賃金)が増えても、
- 所得税
- 住民税
- 社会保険料(年金・健康保険など)
といった天引きされる負担が増えると、手取り収入は思ったほど増えません。
統計の「実質賃金」は物価で調整した数字ですが、実際の生活では税や社会保険料も含めた「可処分所得」の変化が効いてきます。
その意味では、統計以上に、家計の実感が厳しい人も少なくないと考えられます。
「実質賃金3カ月連続プラス」の裏側にあるガソリン補助金
一方で、最近の月次データでは実質賃金が3カ月連続でプラスとなっていると報じられています。ただし、ダイヤモンド・オンラインなどでは、
このプラスはガソリン補助金などの影響が大きいことが指摘されています。
ガソリン補助金とは?
ガソリン価格の急激な高騰を抑えるために、政府が、
- 元売り会社に補助金を出す
- その結果、ガソリンスタンドの販売価格を一定程度引き下げる
という仕組みを導入しました。
これにより、家計が負担するガソリン代は、補助金がない場合よりも低く抑えられている状態になっています。
なぜガソリン補助金が実質賃金を押し上げるのか
実質賃金は、「名目賃金 ÷ 物価指数」でざっくりと計算されます。
ガソリン補助金によって燃料価格が抑えられると、物価の上昇が抑制される方向に働きます。つまり、
- 給料(名目賃金)はあまり変わらなくても
- 物価の上昇分が抑えられることで
- 結果として実質賃金がプラスに見える
という現象が起こります。
このため、見かけ上は「3カ月連続で実質賃金がプラス」となっていても、その中身をみると、賃金そのものの力強い回復というより、財政支出による一時的な押し上げと解釈する専門家もいます。
財政負担の増大という別の問題
ガソリン補助金は家計を助ける効果がある一方で、
- 補助金を出すための国の財政負担が増える
- 長期間続けると、将来の増税や財政の持続可能性にも影響を与える可能性がある
という課題も抱えています。
ダイヤモンド・オンラインの記事では、こうした補助金や支援策が、将来的な財政負担増の「種」になりかねないといった懸念も示されています。
生活への影響──家計はどう変わっているか
実質賃金が4年連続でマイナスという状況は、私たちの生活にどのような影響を与えているのでしょうか。具体的に考えてみます。
1. 消費の見直し・節約志向の強まり
- 外食の回数を減らす
- 安売りのスーパーを選ぶ
- 旅行やレジャーを控える
- サブスクや保険の見直しをする
といった形で、家計の見直しや節約志向が広がりやすくなります。
これは個々の家庭の問題にとどまらず、国内消費を冷やし、企業の売上や投資意欲にも影響する可能性があり、結果的に経済成長にもブレーキをかけかねません。
2. 将来不安の高まり
物価が上がり、実質賃金が下がる状態が続くと、
- 老後の生活費への不安
- 子どもの教育費の負担感
- 住宅ローンや家賃への圧迫感
など、将来に対する不安が強まりやすくなります。
将来に備えて貯金を増やそうとすると、さらに消費が抑えられ、その結果、経済全体の勢いが弱まるという悪循環に陥るリスクもあります。
3. 賃金格差の意識の高まり
賃上げの動きが、業種や企業規模、雇用形態によって大きく異なることで、
- 大企業と中小企業
- 正社員と非正規社員
- 都市部と地方
といった格差への意識が高まりやすい状況です。
実質賃金が全体としてマイナスでも、「一部では高い賃上げ、他方ではほとんど変わらない」という構図が見えると、社会の分断感や不公平感も強まりかねません。
企業と政府に求められる対応
実質賃金のマイナスが続くなかで、企業や政府にはどのような対応が求められるのでしょうか。
企業側:持続的な賃上げと生産性向上
企業にとっては、単に賃金を引き上げるだけでなく、
- 業務プロセスの見直しやデジタル化による生産性向上
- 付加価値の高い商品・サービスの開発
- 人材育成に投資し、一人ひとりの生産性を高める
といった取り組みを通じて、「稼ぐ力」を強くしつつ賃金を上げていくことが重要になります。
一時的な賃上げではなく、企業の競争力と両立した持続的な賃上げが、実質賃金の改善につながります。
政府側:物価対策と財政のバランス
政府はこれまでも、
- エネルギー価格の高騰を抑える補助金
- 低所得者層への給付金
- 子育て世帯への支援
など、さまざまな対策を打ってきました。こうした対策は、短期的には家計を支える効果があります。
一方で、財政負担の増大という課題も避けて通れません。今後は、
- 本当に必要な層に、効果的に支援が届いているか
- 補助金や支援策に頼りすぎず、構造的な賃上げや生産性向上につながる施策を打てているか
といった視点で、メリハリのある政策運営が求められます。
私たち一人ひとりにできること
こうしたマクロな状況を変えるには、もちろん政府や企業の役割が大きいですが、個人レベルで意識できることもあります。
スキルアップと働き方の選択肢を広げる
実質賃金が伸び悩むなかで、自分の収入を守る・増やすためには、
- 資格取得や学び直し(リスキリング)を通じて市場価値を高める
- 副業やフリーランス的な働き方を含めて、収入源を多様化する
といった選択も、一つの対策になり得ます。
もちろん、誰もがすぐにできるわけではありませんが、「自分のスキルやキャリアをどう伸ばすか」という視点は、実質賃金が下がる時代だからこそ重要だといえます。
家計の「見える化」と優先順位づけ
物価高が続く状況では、
- 収支を把握し、家計を「見える化」する
- 固定費(通信費・保険・サブスクなど)を見直す
- 自分や家族にとって「本当に大事な支出」に優先順位をつける
といった基本的な家計管理も、より重要になります。
実質賃金のマイナスは、「限られた収入をどう活かすか」を見直すきっかけとも言えます。
おわりに──数字の裏にある「生活」を考える
2025年度の実質賃金が0.5%減、4年連続のマイナスとなったニュースは、一見すると単なる統計データの話のようにも思えます。
しかし、その数字の裏には、
- 「給料は上がったが、生活はかえって苦しくなった」と感じる人々の声
- 物価高と賃上げのせめぎ合い
- ガソリン補助金などの政策に頼らざるを得ない現状
といった、実際の生活に直結する問題が隠れています。
今後、実質賃金を本当の意味でプラスにしていくには、持続的な賃上げ、物価の安定、生産性の向上といった複数の課題に同時に取り組む必要があります。
そして、そのプロセスを私たち一人ひとりが理解し、関心を持つことも、よりよい方向に変えていくための第一歩と言えるでしょう。



