ベトナム「スポーツ経済」が注目される理由とは?――成長のカギと課題をやさしく解説
ベトナムではいま、サッカーやバスケットボールなどのスポーツが単なる「競技」や「娯楽」を超え、「スポーツ経済」というひとつの産業として大きな注目を集めています。スポーツを通じて新たな雇用が生まれ、観光やメディア、ファッション、ITなどさまざまな分野に波及効果をもたらす「経済のエンジン」として期待されているのです。
しかし、その一方で、制度面やビジネスモデル、インフラ整備など、まだまだ乗り越えるべき「ボトルネック(障害・課題)」も多く残っています。
本記事では、ベトナムで話題になっている「スポーツ経済」の現状と課題、そして戦略的な協力によってどのように発展させていこうとしているのかを、やさしい日本語でわかりやすく紹介します。
ベトナムのスポーツ経済とは?――「mỏ vàng(黄金の鉱山)」と呼ばれる理由
ベトナムのメディアでは、スポーツ経済はよく「mỏ vàng(黄金の鉱山)」と表現されます。これは、まだ十分に掘り起こされていないものの、うまく活用すれば非常に大きな経済価値を生み出す潜在力を持っているという意味です。
スポーツ経済には、次のような幅広い分野が含まれます。
- プロスポーツリーグ(サッカー、バスケットボールなど)の運営・放映権・スポンサーシップ
- スポーツイベントや国際大会の開催による観光・宿泊・飲食需要
- スポーツ用品、ウェア、シューズなどの製造・販売(スポーツ産業)
- フィットネスジム、スタジオ、健康関連サービス
- eスポーツやオンラインゲーム競技の市場
- 新興スポーツ(例:ピックルボールなど)を通じた施設運営や周辺ビジネス
文部科学省関連の調査によれば、ベトナムのスポーツ産業の市場規模は、GDP全体の約0.28%程度とされており、まだ経済全体から見ると小さな割合にとどまっています。 しかし、経済成長が続き、国民の所得や健康意識が高まる中で、スポーツ関連消費は今後さらに伸びる余地が大きいと見られています。
ベトナム経済の成長とスポーツ需要の高まり
背景にあるのは、ベトナム経済全体の力強い成長です。ベトナムのGDP成長率は2023年に5.05%を記録し、政府は今後も高い成長率を維持する方針を示しています。 若い人口構成と都市化の進展により、健康志向や余暇活動へのニーズが急速に高まっています。
その結果として、
- ジョギングやジム通いなど、日常的なスポーツ活動
- スポーツ観戦を兼ねた国内旅行・観光
- スポーツウェアを日常ファッションに取り入れる「アスレジャー」スタイル
などが広く浸透しはじめています。特に「アスレジャー」は、若い世代の間で人気のスタイルとして急速に広がっていると報告されており、スポーツ関連の衣料市場を押し上げています。
ベトナムで人気のスポーツと新興分野
ベトナムで特に人気が高いスポーツは、次のように整理できます。
- サッカー:言うまでもなく国民的スポーツであり、代表戦や国内リーグは常に大きな注目を集めます。
- バスケットボール、バレーボール、バドミントン:学校や地域クラブを中心に、幅広い層に親しまれています。
- eスポーツ:若年層を中心に急速に普及しており、国際大会でも存在感を高めています。
特にeスポーツは、ベトナムで「人気急上昇」の分野とされています。 『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』などのゲームタイトルを中心に競技人口が増え、賞金付き大会やプロチーム、スポンサー企業も登場し、スポーツ経済の新しい柱として成長しつつあります。
また、比較的新しいスポーツとしてピックルボールも注目されています。ハノイ郊外にあるピックルボール施設では、朝6時から深夜24時まで営業し、1コート1時間あたり16万~37万VND(約1,000~2,100円)で貸し出されています。 ベトナム人にとっては、気軽に楽しめるスポーツとして人気が出始めており、スポーツの後にカフェや飲食を楽しむライフスタイルも広がっています。
スポーツ経済の「ボトルネック」とは何か
大きな可能性を秘めたベトナムのスポーツ経済ですが、その成長を妨げているボトルネック(障害要因)も複数指摘されています。
代表的なものとして、次のような課題が挙げられます。
- インフラ・施設の不足:近代的なスタジアムや多目的アリーナ、トレーニング施設が十分ではなく、国際水準の大会を継続的に開催するには設備面の課題があります。
- プロスポーツリーグのビジネス基盤:入場料収入や放映権料、スポンサー収入を安定的に確保する仕組みがまだ発展途上で、クラブ経営の収益性向上が課題です。
- 人材・マネジメントの不足:スポーツマネジメントやマーケティング、スポーツ科学などの専門人材が足りず、競技力と事業運営を両立させる体制づくりが求められています。
- 統計や政策面の整備不足:スポーツ産業に関する詳細なデータや、長期的な産業戦略が十分に整っていないという指摘もあります。
こうした課題を解決しないままでは、「黄金の鉱山」と呼ばれるスポーツ経済の潜在力を十分に引き出すことは難しいと見られています。
戦略的な協力でスポーツ経済を伸ばす動き
これらのボトルネックを解消し、スポーツ経済を本格的に成長させるために、ベトナムでは戦略的な協力(hợp tác chiến lược)が重視されています。
具体的には、次のような方向性が注目されています。
- 民間企業との連携強化:スポーツクラブや競技団体と企業がスポンサー契約や共同プロジェクトを結び、イベント運営やマーケティングを協力して行う取り組み。
- 海外パートナーとの協力:より進んだスポーツビジネスのノウハウを持つ国・企業と提携し、リーグ運営、チケット販売、デジタル配信などの仕組みを学ぶ試み。
- 教育・人材育成:大学や専門機関でスポーツマネジメントやスポーツ科学に関する教育プログラムを充実させ、人材基盤を強化する動き。
- IT・デジタル技術の活用:オンライン配信、チケットの電子化、ファンコミュニティづくりなど、デジタル技術を取り入れたビジネスモデルの構築。
特にeスポーツの分野では、既にデジタル技術とビジネスが密接に結びついており、スポンサーシップや広告、オンライン配信などを通じて新たな収益モデルが形成されつつあります。 この経験は、リアルなスポーツにも応用が可能だと見られています。
スポーツイベントと観光・地域経済の連携
スポーツ経済の重要な側面のひとつが、観光や地域経済との連携です。大規模なスポーツイベントを開催すれば、国内外から多くの観客が訪れ、宿泊、飲食、交通、ショッピングなど幅広い消費を生み出します。
ベトナムでは、国際大会や地域レベルのスポーツイベントを誘致・開催することで、
- 都市や地域の知名度向上
- インフラ整備の促進(道路、公共交通、宿泊施設など)
- 地域ビジネスの活性化
といった効果が期待されています。
また、サッカーやバスケットボールのリーグ戦と観光を組み合わせた「スポーツツーリズム」の可能性もあります。人気クラブの試合を観戦するために別の都市に足を運ぶファンが増えれば、地域間の移動や消費が活発になり、経済効果が広がります。
生活者目線で見るベトナムのスポーツの広がり
スポーツ経済の話は、一見すると大企業や政府、スポーツ団体の話のようにも聞こえますが、生活者ひとりひとりにとっても身近なテーマです。
例えば、ハノイのピックルボール施設のように、仕事が終わったあとや週末に家族や友人と気軽にスポーツを楽しめる場所が増えることで、健康づくりやコミュニティ形成にもつながります。
また、スポーツウェアやスニーカーを日常のファッションとして楽しむ人が増えることで、スポーツブランドや関連産業の成長を後押しします。
eスポーツの世界では、ゲームを単なる「遊び」から「競技」として真剣に取り組む若者が増え、プロ選手やストリーマー、イベント運営など、新たな職業やキャリアパスも生まれつつあります。
ベトナムのスポーツ経済はどこまで伸びるのか
現段階では、ベトナムのスポーツ産業がGDPに占める割合はまだ1%未満とされていますが、今後の経済成長と生活水準の向上を考えると、伸びしろは非常に大きいと見られています。
重要なのは、
- スポーツを「コスト」ではなく「投資」と捉える視点
- 競技力の向上とビジネスとしての持続可能性のバランス
- 国内外のパートナーとの戦略的な協力
をどこまで実現できるかです。
特に、インフラ整備や人材育成、デジタル技術の導入といった取り組みが進めば、スポーツ経済はベトナムの成長戦略の中でますます重要な位置を占める可能性があります。
まとめ:ベトナム「スポーツ経済」という新しい成長エンジン
ベトナムでは、
- サッカーを中心としたプロスポーツの人気
- eスポーツや新興スポーツ(ピックルボールなど)の台頭
- 健康志向やアスレジャーの広がり
- 経済成長と中間層の拡大
といった要因が重なり、「スポーツ経済」が大きなポテンシャルを持つ分野として注目されています。
一方で、インフラ、人材、ビジネスモデルなどのボトルネックをどう解消するかが大きな課題となっています。 これに対し、国内外の企業や団体との戦略的な協力を進めながら、スポーツを通じた新たな経済価値の創出を目指す動きが加速しています。
「黄金の鉱山」とも呼ばれるベトナムのスポーツ経済が、今後どのように掘り起こされ、どれだけ社会と経済に貢献していくのか。ベトナム経済の行方を考えるうえで、見逃せないテーマとなりつつあります。



