「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ― 新説/真説 コシノヒロコ ―」東京都現代美術館で開幕 “まだ見ぬ”コシノヒロコ像に迫る大規模展

東京・木場の東京都現代美術館で、ファッションデザイナーとして世界的に知られるコシノヒロコさんの大規模な展覧会「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」が開幕しました。
これまでファッションの文脈で語られることの多かったコシノさんの仕事を、「絵画・造形・空間表現」などを含む多層的なクリエイションとして捉え直し、その全貌に迫る意欲的な企画です。

“UNKNOWN/KNOWN”というコンセプト――見えていたようで見えていなかったコシノヒロコ

本展のタイトルにある「(UN)KNOWN」には、「よく知られているはずの存在の中に、まだ知られていない側面がある」というメッセージが込められています。
コシノヒロコさんは、長年にわたりパリコレクションなどで活躍してきた世界的ファッションデザイナーとして広く知られていますが、実は、絵画・ドローイング・インスタレーションなど、ファッションの枠を越える制作も継続して行ってきました。
今回の展覧会では、そうした「まだ見ぬコシノヒロコ」の姿に光をあて、デザイナー、アーティスト、キュレーター的視点までも内包する存在として、多角的に紹介しています。

「新説/真説」という副題も象徴的です。
これまで業界内やメディアを通して伝えられてきた「コシノヒロコ像」は、いわば“既成のイメージ”とも言えます。
本展は、それらを一度ほどき、作品群を時系列やジャンルではなくテーマ性や表現の質感を軸に再構成することで、「別の読み解き方=新説」を提示しつつ、そこから見えてくる作家像を「真説」として観客とともに探っていく構成になっています。

会場構成:ファッションを起点に広がる多層的なクリエイション

東京都現代美術館の広い展示空間は、コシノヒロコさんの創作の軌跡と、その内側に流れる感性を体感できるよう、いくつかのゾーンに分けて構成されているのが特徴です。
ここでは、その一部をわかりやすくご紹介します。

1. アーカイブ・ファッションピースの展示

まず来場者を迎えるのは、これまでのコレクションを象徴するアーカイブ・ルックの数々です。
ランウェイのために制作された衣装が、単なる服飾としてではなく「身体を通した造形」として捉えられ、立体作品のように展示されています。
シンプルなモノトーンから大胆な色彩構成、和の要素を取り入れたもの、建築的なシルエットのものまで、時代を超えて通底する“線”と“余白”の感覚が感じられる展示です。

照明やマネキンの配置にもこだわりが見られ、服そのものだけでなく、空間全体を含めた「トータルな視覚体験」として楽しめるよう演出されています。

2. 絵画・ドローイング:線が生まれる原点

本展で特に注目されているのが、コシノさんがライフワークとして描き続けてきた絵画やドローイングのセクションです。
墨やアクリルなど多様な素材を用いた作品には、服づくりでもおなじみの伸びやかな筆致があらわれ、線がそのまま布のドレープやシルエットに変化していくような感覚を味わうことができます。

ここでは、ファッションの「デザイン画」としてではなく、ひとつの独立した絵画作品として展示されている点がポイントです。
衣服になる前の「線」と、身体にまとわれる「服」とのあいだを行き来するような視点で鑑賞することで、コシノヒロコさんの創作プロセスをより深く理解できる構成になっています。

3. インスタレーション・空間表現:服を超えたスケールへ

さらに会場には、布やパターンの要素を拡張したインスタレーション作品も登場しています。
巨大な布が天井から垂れ下がり、光と影が交錯する空間や、服のモチーフを分解して再構成したような立体作品など、ファッションショーの舞台美術とも通じるダイナミックな展示が見どころです。

これらの作品を通じて、「服をつくる」ことと「空間をつくる」ことが地続きの行為であることが伝わってきます。
観客は、ただ作品を「見る」だけではなく、そのなかを歩き、「身体ごと作品世界の中に入っていく」ような体験を味わうことができます。

4. 映像・写真・ドキュメント:クリエイションの裏側に迫る

会場には、過去のショー映像や制作風景を記録した映像、インタビュー、スケッチブック、写真など、コシノヒロコさんの仕事の裏側を伝える資料も豊富に並びます。
ファッションショーの華やかなイメージだけでなく、試行錯誤を重ねる日々や、スタッフと協働しながら形をつくり上げていくプロセスを垣間見ることができます。

これらのドキュメントは、華やかな表舞台の印象とはまた異なる、「日常の中で淡々と続けられている創作」の時間を感じさせ、作品群への理解をより深めてくれる重要な要素となっています。

開幕記念イベント:コシノヒロコと若手デザイナーの交流

展覧会の開幕を記念して、会場および関連会場では若手デザイナーとの交流イベントも開催されました。
トークイベントには、今注目を集める若手デザイナーの吉田圭佑さんらが登壇し、コシノヒロコさんとの世代を超えた対話が実現しています。

イベントでは、次のようなテーマが取り上げられました。

  • ファッションとアートの境界をどう捉えるか
  • 「ブランド」をつくることと「表現」を続けることのバランス
  • 日本から世界へ発信するクリエイションのあり方
  • デジタル時代におけるショーや展示の可能性

若手デザイナー側からは、長年第一線で活躍してきたコシノさんに対し、キャリアの持続性やチームとの関わり方など、実務的かつリアルな質問も投げかけられました。
それに対してコシノさんは、自身の経験を踏まえながら、「どんな時代でも、自分の“好き”や“違和感”を信号として形にしていくことが大切」と、優しくも力強いメッセージを送ったと伝えられています。

こうした交流イベントは、学生や若手クリエイターが第一線のクリエイターから直接話を聞ける貴重な機会であるとともに、展覧会自体を「次の世代につながる学びの場」として位置付ける役割も果たしています。

“多層的なクリエイション”というキーワード

今回の展覧会レポートでは、「多層的なクリエイション」という言葉がキーワードとして繰り返し用いられています。
これは、コシノヒロコさんの活動が、単に「服をデザインする」という一つの行為にとどまらず、

  • 絵画・ドローイング
  • テキスタイルデザイン
  • 立体・インスタレーション
  • ショーの演出・空間構成
  • ブランディングやビジュアルディレクション

など、複数のレイヤーから成り立っていることを示しています。
そして、それぞれのレイヤーは独立して存在しているのではなく、互いに影響を与え合い、重なり合うことで、コシノヒロコという一人のクリエイターの世界をかたちづくっています。

この視点から展覧会を見ていくと、たとえば一見まったく違うジャンルの作品であっても、「線のリズム」「余白の活かし方」「素材との対話」といった共通する感覚が流れていることに気づきやすくなります。
観客自身も、ファッション・アート・デザインといった枠にとらわれず、「ひとりの表現者の“全体像”を体験する」という見方ができるでしょう。

鑑賞のポイント:初心者でも楽しめる見どころ

「ファッションは詳しくない」「現代アートは難しそう」と感じる方でも、この展覧会は直感的に楽しめる工夫が随所に施されています。
ここでは、予備知識がなくても楽しめる、鑑賞のポイントをいくつかご紹介します。

1. 「好き」と「気になる」を手がかりに見る

すべての作品を理解しようと身構える必要はありません。
会場の中を歩きながら、「なんとなく目が行く作品」「理由はわからないけれど気になる色や形」を探してみてください。
そこから、「なぜ惹かれたのか」を自分なりに言葉にしてみると、作品との距離がぐっと近づきます。

2. 「線」と「布」のつながりを探す

絵画やドローイングの線と、実物の服のシルエットやドレープを見比べてみるのもおすすめです。
一枚の線が、どのように布の動きや服の構造へと発展しているのかを意識して見ると、コシノさんにとって線を引くことが“ものづくりの原点”であることが見えてきます。

3. 空間全体を作品として味わう

インスタレーションのセクションでは、正面からだけでなく、少し離れて全体を眺めたり、角度を変えて歩いてみたり、視点を変えながら味わってみてください。
光の当たり方や距離の取り方によって、作品の印象が大きく変わることに気づくはずです。

4. 若手デザイナーとの対話を「いま」の視点として捉える

開幕記念イベントで交わされたコシノさんと若手デザイナーの対話は、ファッション業界を志す人だけでなく、さまざまな分野でクリエイティブな仕事を目指す方にも参考になる内容です。
会場や関連メディアに掲載されるレポートを通じて、「ベテランと若手、それぞれが見ている景色」の違いや重なりを感じてみると、展覧会の体験がより立体的なものになるでしょう。

東京都現代美術館が担う役割と、本展の意義

東京都現代美術館は、現代美術を軸としながら、デザインや建築、ファッションなど、表現の領域を広くカバーしてきた美術館です。
今回の「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO」展は、その姿勢を象徴する企画と言えます。

ファッションをテーマとしながらも、個々の作品を単なる服飾史の資料としてではなく、「現代の表現としてどう読み解けるか」という視点から提示している点に、この展覧会の大きな意義があります。
同時に、長く活動してきたデザイナーの仕事を総覧するだけでなく、「いまこの瞬間のコシノヒロコ」の表現も含めて紹介することで、作家が現在進行形で更新され続けていることを感じさせる内容となっています。

また、若手デザイナーとの交流イベントなどを通じて、世代やジャンルを横断する「学びと対話の場」をつくり出していることも重要です。
観客にとっては、歴史を知るだけでなく、これからの表現のあり方について考えるきっかけにもなるでしょう。

おわりに:観る人それぞれの「新説/真説」を求めて

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO ー新説/真説 コシノヒロコー」は、コシノヒロコさんの仕事を総まとめ的に振り返る回顧展であると同時に、「コシノヒロコをどう読み解くか」という問いを観客一人ひとりに投げかける展覧会でもあります。

ファッションのファンはもちろん、アートに関心のある方、デザインや表現に携わる方、そしてこれから創作の道を歩もうとしている学生や若い世代にとって、多くの発見がある内容です。
会場で作品と対峙し、自分なりの「新説」、そして心の中に立ち上がる「真説」を見つけてみてはいかがでしょうか。

参考元