奈良公園のシカから福岡の患者発生まで――広がる「マダニ」リスクと私たちが取れる対策

近年、日本各地で「マダニ」による健康被害が相次いで報告されています。奈良公園のシカにマダニが多数寄生していることや、マダニが媒介するウイルス感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」の患者が福岡県で今年初めて確認されたことなど、身近なニュースとして取り上げられる機会が増えました。
一昔前までは「山登りをする人だけのリスク」と思われがちだったマダニですが、いまや山奥から市街地・観光地までリスクが広がっていると指摘されています。この記事では、最新のニュースを踏まえながら、マダニの特徴や危険性、そして私たちができる具体的な予防策をわかりやすく解説します。

奈良公園のシカにもマダニが多数寄生 ― 観光客も無関係ではない

奈良県内では、世界的な観光地として知られる奈良公園のシカにマダニが寄生していることが報告され、県が注意を呼びかけています。奈良公園は市街地に隣接し、国内外から多くの観光客が訪れる場所です。「自然の多い山奥」だけでなく、街中の観光地でもマダニへの注意が必要な状況になってきました。

マダニは主に、シカやイノシシなどの野生動物に寄生して生息域を広げるとされています。奈良公園では人とシカの距離が非常に近く、シカせんべいをあげたり、写真を撮ったりと、接触の機会も多い場所です。このような環境では、

  • 草むらや植え込み付近に潜むマダニが、人の衣服や肌に付着する可能性
  • シカの体に寄生しているマダニが、何らかのきっかけで人の衣服などに移動する可能性

といったリスクが考えられます。実際に、自治体は来園者に対して長袖・長ズボンの着用や、草むらに立ち入らないことなどを呼びかけています。

福岡県でSFTS患者を今年初確認 ― 命に関わる感染症

九州地方では以前からSFTS(重症熱性血小板減少症候群)の報告が多く、厚生労働省も注意喚起を続けてきました。2026年5月には、福岡県で本年最初のSFTS患者が確認されたと報道されています。

SFTSは、マダニが媒介するウイルスによって発症する感染症で、主な症状として、

  • 高熱(38度以上)
  • 嘔気・嘔吐、下痢などの消化器症状
  • 全身のだるさ
  • 血小板や白血球の減少

が挙げられます。重症化すると命に関わる場合もあり、日本国内でも毎年一定数の死亡例が報告されている、非常に注意すべき病気です。

SFTSには、現時点で有効性が確立された特異的な治療薬やワクチンがありません。そのため、マダニに刺されないようにする「予防」が最も重要だと専門家は指摘しています。

マダニとはどんな生き物? 普通のダニとの違い

ニュースで問題になっている「マダニ」は、家庭内で見られる「イエダニ」や「ヒゼンダニ」とは種類も生態も異なります。ここでは、マダニの基本的な特徴を整理します。

マダニの特徴

  • 大きさ:成虫は吸血前でも数ミリ程度。血を吸うと1センチ前後に膨れ上がることもあります。
  • 生息場所:山林、草地、あぜ道、裏山、河川敷、公園の草むらなど。
  • 活動時期:春~秋にかけて活動が盛ん。とくに気温が高くなる季節は要注意とされています。
  • 好む相手:シカやイノシシなどの野生動物のほか、牛や犬、人など、哺乳類全般に寄生します。

マダニは、草の先端などでじっと待ち構え、近くを通った動物や人に衣服や皮膚に付着して吸血を始めます。一度かみつくと、数日間にわたって吸血を続けることもあります。

家庭内に発生する小さなダニと違い、屋外環境での活動が中心であることが、マダニの大きな特徴です。そのため、屋外レジャーや農作業、ペットの散歩などの場面でリスクが高まると考えられています。

マダニが媒介する主な病気 ― ライム病とSFTS

マダニ自体が毒を持っているというより、マダニがさまざまな病原体を媒介することが問題です。ニュースなどで頻繁に名前が挙がるのは、主に次の2つです。

ライム病

ライム病は、細菌(ボレリア)を原因とする感染症で、マダニの吸血によって人にうつることがあります。症状としては、

  • 刺された周囲に広がる赤い発疹(遊走性紅斑)
  • 発熱、頭痛、筋肉痛・関節痛
  • 放置すると神経症状や関節炎などの慢性症状

などが知られています。ライム病は、早期に適切な抗菌薬治療を受ければ回復が期待できるため、マダニに刺されたことに気づいたときや、特徴的な発疹が現れたときには、早めに医療機関を受診することが大切です。

SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

SFTSは、ウイルスを原因とする感染症で、やはりマダニを介して人に感染します。先ほど紹介した通り、九州や中国地方などを中心に患者の報告が多く、福岡県内でも今年初の患者が確認されたと報じられています。

主な症状は、

  • 発熱
  • 消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹痛)
  • 全身の倦怠感
  • 血小板・白血球の減少

などで、重症化すると致死率が比較的高いことが問題です。特に、

  • 高齢者
  • 基礎疾患を持つ人

は重症化しやすいとされています。

どこでマダニに刺されやすい? 山奥から市街地まで広がるリスク

「山に登らなければ大丈夫」と思っている方もいるかもしれませんが、最近の報道や専門家の解説ではマダニのリスクが身近な場所にも広がっていることが指摘されています。

マダニに注意すべき場所の例

  • 山林、里山、低山ハイキングコース
  • 農地や畑、あぜ道
  • 河川敷や草地、公園の植え込み
  • 裏山や空き地など、人が普段から出入りする草むら
  • シカ・イノシシ・野良猫・野良犬などの野生動物や半野生動物が集まる場所

奈良公園のシカの例のように、野生動物が人の生活圏に入り込んでいる地域では、マダニもそれに伴って拡大している可能性があります。また、ペットの犬や猫が屋外で散歩をすることで、ペットを介してマダニが室内に持ち込まれるケースも懸念されています。

マダニに刺されないためにできる主な対策

マダニのリスクをゼロにすることは難しいですが、適切な対策をとることで刺される可能性を大きく減らすことができます。専門家の助言をもとに、日常生活で実践しやすいポイントをまとめます。

1. 服装で肌を守る

  • 長袖・長ズボンを着る(素肌をできるだけ出さない)。
  • シャツの裾はズボンの中に入れ、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れるなど、マダニの侵入経路を減らす。
  • 帽子やタオルなどで、首元や頭部もなるべく露出を少なくする。
  • できれば明るい色の服を選ぶと、マダニが付着した際に見つけやすくなります。

奈良公園や自然が多い観光地を歩くときも、「ちょっと散歩だから」と油断せずに、基本的な服装対策を意識することが大切です。

2. 虫よけ剤を活用する

マダニに対しては、ディートやイカリジンなどを含む一般的な虫よけ剤が一定の効果を持つとされています。ただし、製品によって対象とする虫や使用方法が異なるため、

  • パッケージに「マダニ」にも効果があるかどうかを確認する
  • 使用可能な年齢や回数などの注意書きを守る

といった点に気をつけましょう。皮膚だけでなく、靴やズボンの裾、袖口などにもスプレーすると、より予防効果が期待できます。

3. 草むらややぶにむやみに入らない

マダニは、草の先端や落ち葉の中など、人の脚や体が触れやすい場所に潜んでいるとされています。ハイキングコースや公園でも、

  • 舗装された道や整備された遊歩道を歩く
  • 必要のない限り、深い草むらややぶの中に入らない

といった行動を心がけることで、マダニに触れる機会を減らすことができます。子どもと一緒に遊ぶときには、座り込む場所や寝転がる場所にも注意しましょう。

4. 帰宅後の「チェック」と「シャワー」を習慣に

屋外で活動したあとには、できるだけ早めに体や衣類をチェックすることが重要です。

  • 衣服を脱いだ際に、マダニが付いていないか目で確認する。
  • できれば洗濯機にかけたり、高温で乾燥させたりする。
  • シャワーや入浴をして、体をよく洗いながらマダニが付着していないか確認する。

マダニは刺さってすぐに気づけるとは限らず、数時間から数日たってから気づくこともあります。特に、頭皮、耳の後ろ、わきの下、足の付け根などは刺されやすく、見落としやすい部位のため、入念にチェックするとよいでしょう。

5. ペットのケアも忘れずに

犬や猫などのペットは、草むらの散歩などを通してマダニを体につけて帰ってくることがあります。そのため、

  • 散歩から戻ったら、ブラッシングをして体表を確認する。
  • 首回りや耳の付け根、脚の付け根などを丁寧にチェックする。
  • 動物病院で処方される、ノミ・マダニ予防薬を適切に利用する。

といった対策が有効です。ペットから人へマダニが移動する可能性も否定できないため、ペットと人の双方の健康を守る意識を持つことが大切です。

もしマダニに刺されてしまったら ― 自分で引き抜かないことが重要

マダニに刺されていることに気づいたとき、多くの人が「すぐにでも取りたい」と思うはずです。しかし、専門家や保健当局は自分で無理に引き抜かないよう強く注意しています。

自分で引き抜くと何が問題なのか

  • マダニの口の部分が皮膚の中に残りやすい
  • マダニの体を強く押しつぶすことで、体内の病原体が逆に体内へ入りやすくなる可能性がある。

そのため、マダニの刺し傷を見つけた場合には、

  • できるだけ早く、皮膚科や内科などの医療機関を受診する。
  • 可能であれば、いつ・どこで刺された可能性があるかを医師に伝える。

ことが勧められています。医療機関では、専用の器具を使ってマダニを適切に除去し、必要に応じて経過観察や治療を行います。

症状が出た場合は早めに受診を

マダニに刺されたあと、数日から数週間のあいだに、

  • 発熱
  • 頭痛
  • 吐き気や下痢などの消化器症状
  • 刺された部位の発疹や腫れ

などの症状が出た場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。その際には、

  • マダニに刺された可能性があること
  • 屋外で活動した日時や場所

などを伝えると、診断の助けになります。

おわりに ― 正しく恐れて、日常の中でリスクを減らす

奈良公園のシカに寄生するマダニの問題や、福岡県でのSFTS患者の発生は、マダニのリスクが特定の地域や職業だけのものではないことを示しています。一方で、過度に恐れて屋外活動を避ける必要はありません。大切なのは、

  • マダニの生態や、媒介される病気について基本的な知識を持つこと
  • 服装・虫よけ・行動など、日常生活でできる対策をきちんと行うこと
  • 刺された可能性があるときには、早めに医療機関や保健所に相談すること

です。ニュースに触れたこの機会に、家族や友人とも情報を共有し、「正しく恐れて、正しく備える」姿勢を持つことが、マダニによる健康被害を減らす第一歩になるでしょう。

参考元