アラファの日の断食「プアサ・アラファ(Puasa Arafah)」とは?優れた功徳とその意義
イスラム教では、ヒジュラ暦12番目の月であるズルヒッジャ(Dzulhijjah/ズルヒッジャ月)は、1年の中でも特に尊い月とされています。その中でも、ハッジ(大巡礼)の最高潮ともいえるアラファの日(9ズルヒッジャ)に行う断食は「プアサ・アラファ(Puasa Arafah)」と呼ばれ、世界中のムスリムの間で大切に守られているスンナ(推奨される礼拝行為)の一つです。
この記事では、いま注目を集めているキーワード「niat puasa Arafah(ニヤット・プアサ・アラファ/アラファ断食の意図)」を中心に、
- アラファ断食のアラビア語とラテン文字(ローマ字)でのニヤットの文言
- プアサ・アラファがすすめられる理由や、その深いヒクマ(英知・恩恵)
- なぜズルヒッジャ月は「尊い月」と呼ばれるのか
- アラファ前日にあたるタルウィヤの日の断食と「開斎(イフタール)のドア(祈り)」
といった点を、やさしい日本語で丁寧に解説していきます。イスラムについて詳しくない方でも読みやすいように説明しますので、安心して読み進めてください。
アラファの日とは?ハッジと深く結びついた特別な一日
アラファの日とは、ヒジュラ暦の9ズルヒッジャにあたる日で、ハッジ巡礼を行う人々がアラファ(アラファート)平原に集まり、立って祈る日を指します。この日、巡礼者はアラファの地で神にひたすら祈りを捧げ、悔い改め、許しを求めます。
預言者ムハンマド(ムハンマド・サッラッラーフ・アライヒ・ワ・サッラム)は、アラファの日を「赦しと慈悲が注がれる日」として特別視しました。アラファに立つこと(ウクーフ・アラファ)は、ハッジの最も大切な柱の一つであり、「アラファに立たなければハッジではない」と表現されるほど重要です。
一方、ハッジに参加していない世界中の多くのムスリムは、このアラファの日に断食をすることで、信仰を新たにし、罪の赦しを願います。これが「プアサ・アラファ」です。
アラファ断食のニヤット:アラビア語とラテン文字表記
ニヤットとは何か?心の「意図」を明確にすること
イスラムの礼拝行為では、何をするのかを心の中でしっかりと意識することを「ニヤット(niat/意図)」と呼びます。断食(サウム)においても、「これはアラファの日の断食として行うのだ」と自覚して臨むことが大切だとされています。
必ずしも声に出して唱えなければならない、というわけではありませんが、多くの地域では、心を整えるためにアラビア語の定型句ラテン文字(ローマ字表記)で学んだりする習慣があります。
アラファ断食のニヤット(アラビア語)
一般的によく用いられるアラファ断食のニヤット(アラビア語)は、次のように紹介されています。
※ここでは内容説明のために、代表的な形を紹介します。イスラム法学の学派や地域によって、表現に細かな違いがある場合もありますが、本質的には「アッラーのためにアラファの日のスンナ断食を行う」という意味が込められています。
多くの解説書などで見られる形は、次のようなものです。
アラビア語例:
نَوَيْتُ صَوْمَ يَوْمِ عَرَفَةَ سُنَّةً لِلَّهِ تَعَالَى
おおよそ「アッラーのためにアラファの日のスンナ断食を行うことを意図します」という意味です。
アラファ断食のニヤット(ラテン文字表記)
アラビア文字に親しみのない方や、インドネシア語・マレー語圏のムスリムの間で広く使われているラテン文字表記は、次のようになります。
ラテン文字例:
Nawaitu shauma yaumi Arafata sunnatan lillahi ta‘ala
読み方の目安としては、「ナワイトゥ・シャウマ・ヤウミ・アラファタ・スンナタン・リッラー ヒ・タアーラー」という感じになります。ゆっくり、意味を味わいながら唱えることで、心も自然とアラファの日の断食へと向かいやすくなります。
繰り返しになりますが、イスラムの教えでは、ニヤットは心の中の確固たる意識であり、必ずしも口に出すことが条件ではありません。ですが、初心者の方や家族・子どもたちには、このような定型句が信仰教育の入り口として役に立ってきました。
プアサ・アラファの功徳と「ヒクマ(英知)」
大きな報奨が約束された断食
プアサ・アラファが多くのムスリムに大切にされる理由の一つが、その大きな功徳(トゥハファ)について語るハディース(預言者の言行録)です。伝えられているところによると、アラファの日の断食は、前の一年と、次の一年の罪が赦されるほどの大きな報奨があるとされています。
もちろん、ここでいう「罪」は、他人の権利を侵害するような重大な罪とは区別されますが、日々の小さな過ちや、気づかないうちに犯してしまう誤りからの浄化の機会として、この断食が重視されてきました。
自己を振り返り、アッラーへの帰依を深める日
プアサ・アラファは、単に食べ物や飲み物を控える行為ではありません。この日は、次のような心構えで過ごすことがすすめられてきました。
- 自らの生き方を振り返る日として、これまでの行動や言葉を見つめ直す
- 悔い改め(タウバ)の祈りを多く捧げ、心を新しくする
- 貧しい人、困っている人への思いやりと施しを意識する
- クルアーンの朗読、ズikr(アッラーの記念)など、霊的な行いを増やす
このように、プアサ・アラファは単なる習慣や行事ではなく、自分自身を見つめ直し、アッラーとの結びつきを強めるための一日として受け継がれてきました。それこそが、この断食に秘められたヒクマ(深い英知)だといえます。
ハッジに行けない人にも開かれている恩恵
アラファの日の現場であるマッカへ、すべてのムスリムが毎年行けるわけではありません。しかし、場所は離れていても、心でハッジのムードに参加する方法として、プアサ・アラファがあります。
アラファに立っている巡礼者たちの祈りに、世界中のムスリムが断食と祈りを通して心を寄せる。この連帯感もまた、プアサ・アラファに込められた美しい意味の一つです。
なぜズルヒッジャ月は「尊い月」なのか
四つの「聖なる月」の一つとして尊ばれる
イスラムでは、ヒジュラ暦のうち4つの月が特に神聖な月として挙げられます。その一つがズルヒッジャです。この月には、次のような重要な出来事や礼拝が集中しています。
- ハッジ(大巡礼)が行われる月
- アラファの日(9ズルヒッジャ)と、その断食(プアサ・アラファ)
- 犠牲祭イードゥル=アドハー(Idul Adha)が行われる月
- ズルヒッジャ前半10日間にとくに多くの善行がすすめられていること
預言者ムハンマドの言行録には、ズルヒッジャの前十日間に行われる善行は、他のどの時期にも増して価値が高いと語られています。そのため、ムスリムたちはこの期間に、断食・施し・祈り・クルアーン朗読など、さまざまな善行に励んできました。
ズルヒッジャ月に心がけたいこと
ズルヒッジャ月を「尊い月」として過ごすにあたり、多くのムスリムが次のようなことを心がけています。
- 善行を増やす(施し、困っている人の助け、家族への優しさなど)
- 自分自身を浄める行い(断食、悔い改め、心の整理)
- 口を慎む(他人の悪口や嘘を避ける、穏やかな言葉を心がける)
- 毎日の祈りやズikrを意識して増やす
こうした実践を通して、ズルヒッジャは単なる「祝祭の月」ではなく、信仰と人間性を深める特別な時間として大切にされてきました。
タルウィヤの日の断食と「開斎のドア(祈り)」
タルウィヤの日とは?アラファ前日の尊い一日
アラファの日(9ズルヒッジャ)の前日、8ズルヒッジャはタルウィヤの日(Yaumu Tarwiyah)と呼ばれます。ハッジ巡礼の行程では、この日にミナーへ向かったり、翌日のアラファの準備を整えたりする重要な日です。
多くの学者や伝承では、タルウィヤの日の断食も、非常におすすめされるスンナの一つとして語られてきました。これにより、ズルヒッジャ前半の善行をいっそう充実させることができます。
タルウィヤの日のプアサと「ドア・ブカ・プアサ(断食明けの祈り)」
ニュースでは、「Umat Muslim Mengamalkan Doa Buka Puasa Tarwiyah untuk Raih Keberkahan」(ムスリムがタルウィヤ断食の開斎祈願を行い、祝福を求めている)という話題も取り上げられています。
ここで言う「Doa Buka Puasa」とは、断食を終える瞬間に唱える祈りを指します。タルウィヤの日であれ、アラファの日であれ、一般的なラマダーンであれ、断食の開斎時刻は祈りが受け入れられやすい尊い瞬間だとして大切にされてきました。
多くのムスリムは、タルウィヤ断食の開斎にあたって、
- 自分や家族の健康と安全
- 信仰の向上
- 罪の赦し
- 困難からの救い
といったことをアッラーに願い求めます。この「祈りの時間を丁寧に大切にする姿勢」そのものが、タルウィヤの日の断食をより意味深いものにしています。
プアサ・アラファとタルウィヤの断食をどう生かすか
家庭やコミュニティでの実践例
アラファ日やタルウィヤ日の断食は、個人の信仰生活にとどまらず、家庭やコミュニティ全体を温かくする機会にもなります。例えば、次のような実践が各地で見られます。
- 家族みんなでニヤットを確認し合い、互いに励まし合って断食に取り組む
- 開斎のときに簡単な料理を分かち合い、一緒にドア(祈り)を唱える
- 経済的に余裕がある家庭は、開斎の食事を近所の人や貧しい人と分かち合う
- モスクや地域施設でアラファの日のたまに学びの時間(タラビーヤ、講話など)を設ける
こうした取り組みは、プアサ・アラファやタルウィヤ断食のスピリット(精神)を、社会全体に広げていく力を持っています。
健康面への配慮も忘れずに
一方で、断食を行う際には健康状態への配慮も大切です。高齢の方、持病のある方、妊娠・授乳中の方など、体力に不安がある場合は、無理をせず、信頼できる医師や宗教指導者と相談しながら判断することがすすめられます。
イスラムの教えでは、アッラーは人に過度な負担を求めないとされています。断食が難しい場合でも、祈りや施し、クルアーン朗読など、その他の善行を通じて、ズルヒッジャの祝福にあずかる道は開かれています。
まとめ:アラファ断食のニヤットを通じて、ズルヒッジャ月をより豊かに
ここまで、いま話題となっている「niat puasa Arafah」を中心に、アラファ断食の意味やニヤットのアラビア語とラテン文字表記、ズルヒッジャ月が尊ばれる理由、そしてタルウィヤの日の断食と開斎の祈りについて見てきました。
プアサ・アラファは、
- ハッジに参加していないムスリムにも開かれた大きな功徳の機会
- 自分自身を振り返り、罪の赦しを願う日
- 家族やコミュニティで善行を分かち合うきっかけ
として、多くの人々の生活に根づいています。ニヤットの言葉は、その心を整えるための小さな入り口です。アラビア語やラテン文字の定型句を通じて、アラファの日の断食が、より意識的で、意味深いものとして受け止められるようになっています。
ズルヒッジャという尊い月のなかで、アラファの日とタルウィヤの日の断食は、信仰と人間性を磨くための貴重な時間です。一人ひとりが自分の状況に合わせて、できる範囲で善行に励むことで、この月の祝福は、きっと心の中にも、社会の中にも広がっていくことでしょう。



