郵便局で児童書を販売へ――書店減少に揺れる地域を支える新たな試み
全国で書店の減少が深刻化し、「本屋さんが一軒もない町」が珍しくなくなりつつある中、子どもたちが本と出会う場を守ろうという新しい取り組みが始まります。日本郵便と児童書出版社のポプラ社が連携し、福島県内の4つの郵便局で、絵本を中心とした児童書約100種類の試行販売を行うことが発表されました。
この試みは、書店がゼロの自治体、いわゆる「無書店自治体」への対策としても位置づけられており、自治体レベルでも関心が高まっています。葉山町など、議会で「無書店自治体」について議論する自治体も出てきており、地域と本との関係をどう守るかが、今まさに問い直されています。
ポプラ社と日本郵便が始める「郵便局で児童書販売」ってどんな取り組み?
今回の取り組みは、児童書を中心に幅広い本づくりを行う出版社ポプラ社と、日本全国に拠点を持つ日本郵便が協力して実施されます。
両社は、書店が減って本と出会う機会が減少している現状を踏まえ、「郵便局の窓口ロビーで児童書を販売する」という新しい試みを立ち上げました。郵便局は、地方を含め全国津々浦々にあり、住民が日常的に訪れる公共性の高い場です。その場を「本との出会いの場」として活用しようというのが、今回の狙いです。
ポプラ社の発表によると、販売されるのは絵本など児童書約100種類で、子どもが初めて本と出会う入口になるような作品が多数そろえられます。読み聞かせに向くロングセラー絵本から、話題の新作まで、幅広いラインナップが想定されています。
どこの郵便局で買えるの?――福島県内4局でスタート
試行販売が行われるのは、まず福島県内の4つの郵便局です。
- 新地郵便局(相馬郡新地町)
- 鹿島郵便局(南相馬市鹿島区)
- 小高郵便局(南相馬市小高区)
- 浪江郵便局(双葉郡浪江町)
いずれも、東日本大震災や原発事故の影響を受けた地域であり、人口減少や商業施設の減少が課題となっているエリアです。こうした地域では、地元の書店がなくなり、子どもたちが気軽に本を手に取れる場所がほとんどないケースもあります。
日本郵便とポプラ社は、そうした地域にあえて光を当て、「本との出会いを支える公共拠点」として郵便局を位置づけています。福島からスタートするのは、書店の減少が進み、かつ郵便局の役割や存在感が大きい地域だからとも言えます。
いつからいつまで?――試行販売の期間
試行販売の期間は、ポプラ社と日本郵便の発表によると、
2026年7月22日(水)〜2027年3月31日(水)の約8か月間です。
この間に、販売数や売れ行き、利用者の声などを踏まえ、今後の展開を検討するとしています。つまり、福島県内4局での取り組みは、「この先、他地域へ広げていくかどうか」を見極めるための大切なテストでもあります。
もし、利用者からの反応が良く、一定の成果が認められれば、書店ゼロ地域を中心に、他県の郵便局への拡大も検討される見込みです。
郵便局のロビーが「本屋さん」に――販売方法の特徴
今回の試行販売では、郵便局の窓口ロビーに専用の本棚(什器)が設置されます。
- 書店と同じように手に取って試し読みができる
- 気に入った本はその場で購入可能
- 販売数には限りがあり、人気タイトルは売り切れとなる場合もある
「郵便局で本を買う」というのは、まだ多くの人にとって新鮮な体験です。しかし、郵便局はすでに切手やはがき、カレンダーなどの販売を行っており、今回の児童書もその延長線上に位置づけられます。
ロビーに並ぶ本棚は、子どもが自分で本を選べる高さや配置を意識したものになるとされ、保護者と一緒に「どれがいいかな」と選ぶ時間そのものが、地域の小さな楽しみになる可能性もあります。
なぜ「郵便局」で本を売るの?――背景にある書店の減少と「無書店自治体」
この取り組みの背景には、全国的な書店の減少があります。人口減少やネット通販の普及、娯楽の多様化などを背景に、地域の小さな書店の閉店が続き、「書店ゼロ地域」「無書店自治体」が増えています。
「無書店自治体」とは、その自治体の中に一軒も書店がない状態を指し、これが問題として議会で取り上げられている自治体もあります。葉山町議会では、「無書店自治体」についての議論や問題提起が行われ、本を手に取る場をどう確保するかが課題として共有されています。
書店がなくなっても、ネットで本を買うことはできます。しかし、実際に本を手に取り、表紙や紙の感触を確かめて選ぶ体験は、オンラインではなかなか代替できません。特に、まだ文字が読めない幼児にとっては、色とりどりの絵本が並ぶ光景そのものが大切な体験になります。
今回の郵便局での試行販売は、こうした「手にとって選ぶ」体験を、公共性の高い拠点である郵便局で再現しようとする試みです。郵便局は、地域高齢者の利用も多く、祖父母が孫のために絵本を選ぶといった新たなコミュニケーションの場になる可能性もあります。
子どもたちへの期待――「心が弾む絵本との出会い」を広げる
ポプラ社は、今回の取り組みのコンセプトとして、「心が弾む絵本との出会い」という言葉を掲げています。
これは、単に本を売るというだけでなく、
- 子どもたちにワクワクする読書体験を届ける
- 親子や家族が絵本を囲んで過ごす時間を生み出す
- 地域の中に小さな文化の拠点を育てる
といった願いが込められています。
郵便局という身近な場所に絵本が並ぶことで、「たまたま来たついでに、1冊えらんでみようか」という、日常の延長線上の読書体験が生まれます。読書は、特別なイベントではなく、生活の一部である方が続きやすく、子どもの成長にも良い影響を与えます。
また、郵便局の利用者は子どもだけではありません。大人が自分のために児童書を手に取ることもあるでしょう。絵本のやさしい言葉や絵に元気をもらう大人も少なくありません。そうした意味でも、今回の試行販売は、世代を問わず、「本のある風景」を地域に取り戻す試みといえます。
「無書店自治体」へのひとつの答え――自治体や地域との連携に期待
葉山町のように、「無書店自治体」について議会で取り上げる地域が出てきたことは、「本と地域」の関係が政治・行政のテーマになりつつあることを示しています。
今回の郵便局での児童書販売は、そうした自治体にとって、ひとつの具体的な参考事例になりえます。たとえば、
- 自治体が図書館だけに頼るのではなく、郵便局や他の公共拠点を活用するヒントになる
- 「書店はないが、本が買える場所」はどこまで増やせるのかを考えるきっかけになる
- 郵便局と自治体が連携し、読書キャンペーンやイベントを企画する可能性が生まれる
などです。
もちろん、郵便局での児童書販売だけで、すべての課題が解決するわけではありません。品揃えの幅や、専門的な本の提供など、書店ならではの役割もあります。しかし、「まったく本が買えない」状況を少しでも改善するうえで、今回の取り組みは大きな意味を持つと言えます。
今後の展開は?――試行結果を見て全国へ広がる可能性も
日本郵便は、試行販売期間である2027年3月末までの売り上げや利用状況を踏まえ、その後の拡大を検討するとしています。福島県の4局での反応が良ければ、他の「書店ゼロ地域」や、子どもの読書環境に課題を抱える地域への展開が期待されます。
また、今回の試行は、ポプラ社の児童書を中心としたものですが、将来的には他の出版社との連携や、地域のニーズに合わせたラインナップ調整など、さらなる工夫が考えられます。例えば、地元の歴史や自然をテーマにした本を置くことで、子どもたちが自分の地域に誇りを持つきっかけを作る、といった展開もあり得るでしょう。
いずれにせよ、福島県内4局での試行販売は、「郵便局が本の拠点になる」という新しいアイデアの第一歩です。今後、結果が公表されることで、他地域の自治体や団体が同様の取り組みにチャレンジする可能性も見込まれます。
郵便局と本がつながることで見えてくる未来
郵便局は、これまで手紙や荷物を届けるインフラとして、長年地域を支えてきました。その郵便局が、絵本や児童書を通じて「心を届ける」役割を担うことは、とても象徴的です。
書店が減り、「本のある風景」が薄れつつあるなか、郵便局での児童書販売は、
- 子どもたちに本と出会う機会を届ける
- 親子や家族の読書時間を支える
- 地域に文化のにぎわいを生み出す
ひとつのきっかけになるでしょう。
福島から始まるこの試みが、どのような反応を生み、どのように広がっていくのか――今後の展開に多くの期待が寄せられています。




