「栗きんとん」の老舗・新杵堂が破産申請 物価高と食品表示問題が老舗を追い詰める

岐阜県中津川市で長年親しまれてきた栗菓子専門店「新杵堂(しんきねどう)」が、自己破産を申請し、裁判所から破産手続き開始決定を受けました。負債総額は約10億円から11億円にのぼるとみられ、主力商品である栗きんとんで知られる老舗の突然の破綻に、多くのファンや地元関係者に衝撃が広がっています。

創業70年以上、中津川を代表する「栗きんとん」の老舗

新杵堂は、戦後間もない1948年(昭和23年)に創業した老舗の栗菓子メーカーです。
本店を置く岐阜県中津川市は、秋の味覚である栗きんとんの名産地として全国的に知られており、新杵堂もまた、その代表的なブランドの一つでした。

新杵堂の栗きんとんは、厳選した栗と砂糖のみを使い、丁寧に練り上げて小さく丸めた、素朴でありながら奥深い甘さが特徴の和菓子です。
一つひとつ手作業を重ねて仕上げられる伝統的な製法が支持され、地元土産としてはもちろん、百貨店催事やインターネット通販を通じて全国にファンを広げてきました。

また、同社は和菓子だけでなく、ロールケーキなどの洋菓子も扱い、栗を使った創作スイーツの展開にも力を入れていました。
老舗でありながら新しい商品開発にも意欲的で、「栗きんとんロール」などの商品はテレビや雑誌で取り上げられることもありました。

破産手続き開始決定 負債総額は約10億円〜11億円

東京商工リサーチなどの調べによると、新杵堂は2026年6月4日、岐阜地方裁判所多治見支部へ自己破産を申請し、同裁判所から破産手続き開始決定を受けました。
負債総額は約10億円とされる報道がある一方、約11億円とする情報もあり、いずれにしても多額の負債を抱えた状態での破綻となっています。

報道によれば、新杵堂は長年にわたり、栗菓子や和洋菓子の製造販売を行ってきましたが、近年は売上の伸び悩みや原材料費の高騰などにより、資金繰りが悪化していたとされています。
最終的には事業継続を断念し、自己破産を選択せざるを得ない状況に追い込まれました。

物価高・原材料高騰が経営を直撃

新杵堂の経営を大きく圧迫した要因の一つが、近年続く物価高原材料の高騰です。
栗きんとんの主原料である栗は、天候不順や国内生産量の変動、輸入品の価格変動などの影響を受けやすく、品質を維持しながら仕入れ価格上昇に対応することは容易ではありません。

また、小麦粉、乳製品、砂糖など、洋菓子に欠かせない材料も世界的な価格高騰の影響を受け、製造コストは年々増加していました。
老舗として味や品質を落とすことができない以上、原材料のグレードを下げる選択は難しく、結果として利益率が下がり、経営体力を削る要因となっていったとみられます。

さらに、電気代やガス代などのエネルギー費用の高止まりも、中小の菓子メーカーにとっては重い負担です。
伝統的な製法を守るほど手作業や設備の維持費がかかり、物価高による「静かなコスト増」がじわじわと経営を圧迫していたと考えられます。

ネット通販で一時は人気も… その後の伸び悩み

新杵堂は、早くからインターネット通販に取り組んでいた企業の一つでもあります。
地方の老舗和菓子店としては珍しく、自社サイトや大手通販サイトを活用して全国に商品を販売し、「お取り寄せスイーツ」として注目を集めました。

コロナ禍の時期には、巣ごもり需要を背景にオンライン経由の注文が増え、一時的には売上を押し上げる要因にもなったとされています。
しかし、その後は競合他社の参入や、お取り寄せ市場全体の伸び鈍化などにより、通販による売上も思うように伸びず、期待したほどの収益改善にはつながらなかったとみられます。

老舗の味を全国に届けるインターネット通販は、新たなファン獲得のきっかけとなった一方で、在庫管理や物流コスト、広告宣伝費など、新たな負担も生み出しました。
限られた人員と資金の中で、店舗販売と通販の両方を維持し続けることは、次第に難しくなっていった可能性があります。

食品表示問題が追い打ちに

報道では、物価高などによる経営悪化に加えて、いわゆる食品表示問題が新杵堂にとって追い打ちとなったことも指摘されています。
食品表示をめぐる問題は、消費者の信頼を揺るがし、ブランドイメージに大きな傷を残してしまいます。

一般的に、原材料表示や原産地表示、アレルゲン表示などの誤りが発覚すると、商品の回収や謝罪対応が必要となり、短期間で多額のコストと労力がかかります。
また、取引先からの信用低下や、消費者離れにつながる可能性もあり、中小企業にとっては致命的な影響を及ぼすこともあります。

新杵堂の場合も、物価高や売上の伸び悩みで経営が厳しい中、食品表示に関する問題が発生したことで、さらなる負担とイメージダウンを招き、最終的な破綻を早める一因になったとみられます。
長年築いてきた「安心・安全な老舗の味」という信頼が揺らいだことは、数字には表れにくいものの、精神的なダメージも含めて大きな打撃だったと考えられます。

地元とファンに広がる「栗きんとんロス」

「栗きんとんの老舗の破産」というニュースは、地元・中津川市だけでなく、全国の和菓子ファンにも衝撃を与えました。
SNS上では、新杵堂の破産申請を伝える投稿に対して、「ショック」「思い出の味がなくなるのはつらい」「毎年お取り寄せしていたのに」といった、嘆きや惜しむ声が相次いでいます。

新杵堂の栗きんとんやスイーツは、お土産や贈り物、季節のご挨拶など、さまざまな場面で人々の暮らしに寄り添ってきました。
特に秋から冬にかけての栗きんとんは、「新杵堂のものじゃないと」という固定ファンもいたほどで、その味を失うことに対する喪失感は大きいものがあります。

中津川市にとっても、新杵堂の破産は地域ブランドへの影響が懸念されます。
栗きんとんは市を代表する銘菓であり、複数の菓子店がしのぎを削って独自の味を競っていますが、その中の有力店の一つが姿を消すことは、地域の魅力の一部が失われることにもつながります。

中小菓子メーカーが直面する現実

今回の新杵堂の破産は、単に一社の問題にとどまらず、多くの中小食品メーカーが直面している厳しい現実を浮き彫りにしています。

  • 原材料費・光熱費の高騰によるコスト増
  • 人件費の上昇と人手不足による生産体制の不安定化
  • 通販やSNSなど、新たな販売チャネルへの対応負担
  • 食品表示や衛生管理など、法令遵守のためのコスト増
  • 大手メーカーや有名ブランドとの競争激化

こうした要因は、どれか一つだけでも経営に大きな負担となり得ますが、同時に重なったとき、資金力や組織力に限りがある中小企業は一気に苦境に追い込まれる可能性があります。
今回のケースでは、物価高・売上の伸び悩み・食品表示問題といった複数の要因が、時期を同じくして重なったことが、破産への流れを決定づけたとみられます。

「栗きんとん」の文化は続くのか

新杵堂が破産申請を行ったことで、同社としての栗きんとんの製造・販売は事実上困難な状況になりました。
しかし、栗きんとんそのものの文化や伝統は、中津川市内の他の和菓子店や全国の栗菓子メーカーによって、これからも受け継がれていく可能性があります。

中津川には、新杵堂以外にも複数の老舗が栗きんとんを製造しており、それぞれが独自のこだわりを持って、秋の味覚を楽しむ人々に商品を届けています。
新杵堂の破産というショックを受け止めつつ、地域全体として、栗きんとんの文化を守り育てていこうとする動きも期待されます。

一方で、新杵堂が残した商品やブランド、技術をどう扱うかについては、今後の破産手続きの中で整理されていくことになります。
知名度の高いブランドであるだけに、何らかの形で事業や技術が引き継がれる可能性もゼロではなく、関係者やファンの間では、かつての味がいつか復活することを願う声も聞かれます。

消費者としてできること

今回のニュースを通じて、私たち消費者が改めて意識したいのは、日々身近にある「当たり前」と思っていた味が、実は多くの努力とコストのうえに成り立っているという事実です。

物価高の中で、値上げに対する抵抗感を抱くことは自然な感情ですが、裏側では、原材料の品質を守るために、値上げせざるを得ない事情を抱えている中小企業も少なくありません。
「いつもと同じ味」を続けること自体が、決して簡単なことではないという視点を持つことは、今後の日本の食文化を守るうえで大切になっていきます。

新杵堂の栗きんとんをもう一度味わうことは難しくなってしまいましたが、これまで多くの人の思い出に寄り添ってきたその役割を振り返りながら、今、手に取る菓子一つひとつを、少しだけ大切に味わってみることが、失われつつある老舗の味への何よりの敬意になるのかもしれません。

参考元