「孫はかわいい、でも…」年金生活と“孫消費”に揺れるシニアたちの現実
日本の高齢者のあいだで、ここ数年よく聞かれる言葉があります。それは、「孫はかわいい。でも、正直つらい」という本音です。
年金だけで暮らす中で、心の支えでもある「孫」への出費が、老後資金をじわじわと減らしている――そんな現実を描くニュースが、今、相次いで取り上げられています。
本記事では、次のような事例を手がかりに、シニア世代と孫、そしてお金との向き合い方について考えていきます。
- 「孫はみんな平等に…」と4人の孫に援助し続けた結果、通帳残高が100万円を切ってしまった、年金月24万円の80代夫婦の話
- 「孫はかわいい。でも正直つらい」と漏らす、毎週末孫が訪ねてくる71歳女性の葛藤
- 「プレゼントありがとう。でも、もういらない」と言われ、初孫への贈り物が思わぬ行き先に向かっていた、66歳女性のエピソード
どのケースにも共通するのは、「孫への愛情」と「老後のお金」のバランスに悩む姿です。
社会全体でも、子や孫への援助が高齢期の貯蓄を減らす原因の一つになっていることが指摘されています。
「孫はみんな平等に」80代夫婦、4人の孫ラッシュで貯蓄が激減
最初のニュースは、年金月24万円で暮らす80代夫婦のケースです。子どもが独立し、老後はつつましくも安定した生活を送るはずでした。しかし、数年の間に立て続けに孫が4人誕生。うれしい「孫ラッシュ」が、思わぬお金の問題を呼び込みます。
夫婦は、「孫はみんな平等にしてあげたい」「下の子だけ少ないのはかわいそう」と考え、お年玉や誕生日プレゼント、入園・入学祝いなど、できるだけ差が出ないようにお金を出してきました。
1人にあげたら、他の3人にも――その繰り返しで、気付けば通帳の残高は100万円を切るほどに減少
高齢期の貯蓄が減る原因として、子や孫への援助費用が大きいと指摘する調査もあります。
例えば、
- 帰省にかかる交通費を毎回負担している
- 離婚などで実家に戻ってきた子と孫の生活費を丸抱えしている
- 住宅購入や教育資金を大きく援助した
といった支出は、一度に大きな金額になりがちです。
「孫のため」「子どものため」という気持ちが強いほど、自分たちの生活レベルを考えることを後回しにしてしまう傾向があります。
しかし、老後は病気や介護など、いつどれくらいお金が必要になるか予測が難しい時期です。
そのため、専門家は「本当に困ったときの援助に限る」「金銭的な支えはほどほどにとどめる」ことが大事だと助言しています。
「孫はかわいい。でも正直つらい」71歳女性、毎週末の訪問が負担に
次に紹介されているのは、年金月21万円・貯蓄1,300万円の71歳女性の本音です。
一見すると、老後としては比較的ゆとりのある家計状況に見えます。しかし、この女性には、長年続く悩みがありました。それは、
- 毎週末、孫たちが自宅に遊びに来る
- 来ること自体はうれしいが、そのたびに外食やおやつ、お小遣いなどの出費が増える
- 断れば関係が悪くなるのではないか、という不安から言い出せない
という状況です。
孫が遊びに来るのは、祖父母にとって大きな楽しみです。
しかし、毎週となると、食費・おやつ代・レジャー費などが積み重なり、年金生活の家計にはじわじわと重くのしかかります。
調査によると、「この1年間に孫のために使った金額」は平均約11万3,000円というデータもあります。
別の調査では、シニア女性の年間の「孫への支出」が約18万円に達しているとの報告もあり、孫との接触機会が減っても、支出はむしろ増加傾向にあるとされています。
これらを月額に直すと、おおよそ月1万円前後になります。
一見すると大きな金額ではないように思えますが、年金だけで生活している家庭にとっては、固定費に近い継続支出として家計に響きます。
さらに、「お小遣い・お年玉・お祝い金」に多くのお金を使っている祖父母は全体の6割を超え、なかには1回につき1万円以上のお小遣いをあげる人も約1割いるというデータもあります。
こうした「孫消費」は、ニュースや広告などでも温かい話として語られがちですが、その裏側で「うれしいけれど、正直つらい」と感じているシニアが少なくないのです。
「プレゼントありがとう。でも、もういらない」66歳女性と“行き先の違う贈り物”
3つ目のニュースは、年金月24万円・66歳女性のエピソードです。
この女性は、念願の初孫が生まれたことをきっかけに、洋服・おもちゃ・絵本など、さまざまな贈り物を「嫁」に渡し続けていました。
最初は喜ばれていたように見えた贈り物。しかしあるとき、嫁から返ってきた言葉は、
「プレゼントありがとう。でも、もういらない」
というものでした。
さらに追い打ちをかけたのは、その贈り物の一部が、フリマアプリやリサイクルショップなどで処分されていた、という事実です。
「せっかく孫のために」と思って贈っていたものが、「使われない」「喜ばれていなかった」と知った女性のショックは大きく、「自分の好意は、ただのお節介だったのかもしれない」と深く落ち込んでしまいます。
このケースには、「物を贈ること」と「相手の望むもの」とのギャップが表れています。
孫のために何かしてあげたい気持ちは同じでも、
- 親世代は「物が増えすぎること」や「収納スペース」を気にしている
- 好みやサイズが合わず、結局使われないものが出てしまう
- 教育方針や生活スタイルに合わないものを負担に感じることがある
といったすれ違いが起こりがちです。
専門家は、孫のためにお金を使うときには、親世代とのコミュニケーションが何より重要だと指摘しています。
教育費などの大きな援助はもちろん、ささいなプレゼントであっても、あらかじめ親の意向を確かめておくことで、無用な行き違いを防ぎやすくなるとされています。
広がる「孫消費」ブームと、その光と影
近年、「孫消費」という言葉がメディアやマーケティングの現場で盛んに使われるようになりました。
これは、シニア世代が孫のためにお金を使う消費行動を指す言葉で、
- お年玉・お小遣い・お祝い金
- 一緒の外食や旅行
- りんご狩りなどの体験型レジャー
- 洋服やおもちゃ、学習教材
といった支出が代表例です。
ある調査では、孫がいるシニアのうち、66.2%が「お小遣い・お年玉・お祝い金」にお金を使っているとされています。
また、シニア女性では、孫への支出は「一緒に過ごす時間」は減っても、むしろ将来への投資として増加しているとの報告もあります。
さらに、国の制度として、孫の教育資金などを目的とした非課税の一括贈与制度も設けられています。
この制度では、
- 祖父母が孫1人あたり最大1,500万円まで教育資金を非課税で贈与できる
- 契約に基づいて信託銀行などの専用口座に入金し、教育目的の支払いに応じて引き出す
- 領収書などで教育目的であることを証明する必要がある
といった仕組みが用意されており、相続税の節税策としても注目を集めてきました。
一方で、こうした制度や風潮が、「孫にお金をかけるのが当たり前」という雰囲気をつくり、結果として老後資金の不足を招くリスクも指摘されています。
日本経済新聞などでも、「孫らへの贈与で老後資金が不足しないよう、さじ加減が重要」といった問いかけがなされています。
「孫のため」と「自分たちの老後」をどう両立するか
では、孫への愛情を大切にしながら、老後の生活も守るにはどうすればいいのでしょうか。
各種の調査や専門家のアドバイスから、いくつかのポイントを整理してみます。
1. 「孫のために使うお金の目安」を決める
まず大切なのは、最初に「上限」を決めておくことです。
たとえば、
- 「孫関連には年間○万円まで」とざっくり決める
- お祝い金と、日常的なプレゼント・外食費などは別枠で考える
- 自分の資産状況に応じて、数年ごとに見直す
というように、あらかじめ“マイルール”を作っておくことで、感情だけで使い過ぎてしまうリスクを減らすことができます。
「孫のためだから」と無理をする必要はなく、長く、無理なく関わり続けることのほうが大切だと専門家は言います。
2. お金より「一緒の時間」や「体験」に重きを置く
ソニー生命の調査などでは、孫のために使うお金を、学びや体験に結びつけるという発想が紹介されています。
具体的には、
- 本を一緒に選んで贈る
- 博物館や美術館へ一緒に行く
- 自然体験や文化体験をプレゼントする
といった形です。
こうした使い方は、単に物を増やすのではなく、孫の好奇心や学ぶ力を育むきっかけになります。
また、祖父母にとっても、「物を買って渡す」よりも、一緒に過ごした時間そのものが思い出として残るというメリットがあります。
3. 親世代とよく話し合う
先ほどの66歳女性のケースのように、「良かれと思って贈ったものが喜ばれない」というのは、祖父母にとって非常につらい経験です。
これを避けるためには、親世代とのコミュニケーションが欠かせません。
たとえば、
- 「今、何か必要なものはある?」と聞いてから買う
- お金を渡す場合も、使い道の希望をすり合わせておく
- 教育資金など大きな援助は、事前に無理のない範囲を話し合って決める
といった工夫が考えられます。
「せっかく買ってあげたのに」という気持ちになるより、最初から「必要なものを必要なだけ手伝う」という発想に切り替えたほうが、双方にとってストレスの少ない関係を築きやすいでしょう。
4. 「精神的な支え」と「金銭的な支え」を分けて考える
高齢期における子や孫との関わり方について、「精神的な支えにはなっても、金銭面はほどほどにすべき」という意見もあります。
つまり、
- 頼ってほしい、力になりたいという気持ちは大切にする
- ただし、金銭的な援助は、自分の生活に確実な余裕がある範囲にとどめる
- 「困ったときの一回きりの援助」はしても、「恒常的な生活費の肩代わり」には慎重になる
という考え方です。
これは、自分たち自身の老後を守るためだけでなく、子や孫の自立を促すうえでも大切なポイントです。
親や祖父母の援助に頼りすぎる生活に慣れてしまうと、いざその支えがなくなったときに、子ども世代が大きな困難に直面するリスクがあります。
「孫はかわいい。でも、正直つらい」と感じるときに
今回の3つのニュースに登場するシニアは、誰もが「孫がかわいくて仕方がない」人たちです。
それでも、「通帳残高が100万円を切って不安」「毎週末の出費がつらい」「贈り物が喜ばれていなかった」といった瞬間に、ふと我に返り、複雑な思いを抱いています。
そのようなとき、まず心に留めておきたいのは、次のようなことかもしれません。
- 孫への愛情は、お金の額とは関係ない
- 無理をしないほうが、長く、穏やかな関係でいられる
- 「できること」と「できないこと」を家族と共有してよい
「孫にお金をかけてあげられる自分でいたい」と思う一方で、「自分たちの生活も守りたい」という気持ちがあるのは、とても自然なことです。
その葛藤を一人で抱え込まず、配偶者や子ども、場合によってはファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しながら、自分たちなりのちょうどよい距離感を探していくことが大切です。
「孫はかわいい。でも、正直つらい」。
その本音の裏には、家計の不安だけでなく、「孫にいい祖父母でありたい」という気持ちと現実のギャップが隠れています。
だからこそ、お金の使い方だけでなく、「どんな関わり方をしていきたいか」を家族で話し合うことが、これからの高齢社会ではますます重要になっていくでしょう。



