孫正義氏、「ロボットがロボットを作る時代」へ本格始動 ― NAV1000兆円構想と東電出資の狙いとは

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長が、株主総会の場で「ロボットがロボットを量産する工場」の存在を明かし、さらに純資産価値(NAV)1000兆円という前例のない目標と、東京電力ホールディングス(東電)への出資意欲を示したことが大きな注目を集めています。
これらの発言はすべて、孫氏が掲げる「超知性(人工超知能:ASI)の社会基盤づくり」という壮大な構想の一部であり、その具体的な布石が動き始めていることを示しています。

「今日言うつもりはなかったが……」ロボット自動量産工場の実態

株主総会の場で、孫氏は「今日言うつもりはなかったが……」と前置きしたうえで、ソフトバンクグループの既存工場において、フィジカルAIと呼ぶ人工知能がすでにロボットの量産を開始していることを明かしました。
ロボットがロボットを量産するのはおそらく世界初だと思う」とも述べ、従来は人間が主導してきた製造現場に、ロボットとAIが本格的に入り込んでいることを強調しました。

ここでいうフィジカルAIとは、単に画面上で動くソフトウェアではなく、現実世界のロボットや機械を自律的に操作し、製造ラインや物流など物理的な作業を最適化するAIを指します。
ソフトバンクは、こうしたフィジカルAIを用いて、自社工場でロボットを組み立て、検査し、ラインを自動で切り替えるような仕組みを実装し始めているとされています。

具体的な工程や工場所在地などの詳細は「近く正式発表する」として明らかにされていませんが、孫氏の発言からは、単なる試験運転ではなく、量産レベルのオペレーションが始まっていることがうかがえます。
SFのように聞こえる「ロボットがロボットを作る世界」が、現実の産業インフラとして動き出したことは、国内外の製造業にとっても大きな転換点となりそうです。

フィジカルAIとロボット量産の背景:ABBロボット事業の買収計画

こうしたロボット自動量産体制の背景には、ソフトバンクによるスイス大手ABBのロボット事業買収計画があると報じられています。
報道によれば、ソフトバンクは2026年、産業用ロボット大手であるABBのロボット事業を、約8700億円(約53億7500万ドル)で買収する計画を進めており、この買収によりロボットの量産体制を一気に拡大しようとしているとされています。

ABBは世界的に実績のある産業用ロボットメーカーであり、その技術・製造拠点・販売網を取り込むことができれば、ソフトバンクはフィジカルAIと組み合わせて、自動車、物流、データセンター建設など幅広い分野でロボットソリューションを提供できる基盤を手に入れることになります。
この動きは、後述する「超知性の社会基盤」としてのロボット・AIインフラ構想とも、密接に結びついています。

NAV1000兆円を目指すソフトバンクG ― 「やる以上は世界一を目指したい」

株主総会では、ソフトバンクグループの純資産価値(Net Asset Value:NAV)について、今後16年で1000兆円を目指すという、極めて野心的な目標も示されました。
2026年6月23日時点でのNAVは約74兆円とされており、1000兆円はその約14倍に相当します。

孫氏はこの目標設定に関連して、人工超知能(Artificial Super Intelligence:ASI)の社会的基盤を構築する過程で、「やる以上は世界一を目指したい」と語りました。
ここでいう「世界一」は単なる企業規模にとどまらず、AI・ロボット・データセンターといったデジタルインフラを提供するプラットフォーム企業として、世界の中心的存在になるという意味合いを持ちます。

ソフトバンクグループはこれまで、半導体設計のアーム(Arm)への投資や、AI関連企業への出資を通じて、AI時代の「頭脳」にあたる部分を押さえてきました。
そこに今回、フィジカルAIとロボット工場、さらには大規模データセンターの構想が組み合わさることで、「超知性の社会基盤」を上から下まで支える垂直統合的なエコシステムを築こうとしていると見ることができます。

東電への出資意欲と「AIデータセンターを日本に」

株主総会ではもう一つ、大きな発言がありました。
それが、東京電力ホールディングス(東電)への出資に対する強い意欲です。

東電は経営再建の柱として、外部企業との資本提携を進めています。
この点について孫氏は、ソフトバンクグループの通信子会社であるソフトバンク株式会社が「オーナーとして名乗りを挙げており、何社かの候補の中で重要な候補として今残っている」と明らかにしました。
つまり、ソフトバンク側は東電への出資を本気で検討しており、候補の中でも有力な立場にあることを示唆した形です。

孫氏が東電との提携にこだわる理由は、日本国内でのAIデータセンターの電力確保にあります。
日本は世界的に見て、クラウドや生成AIなどを支えるデータセンターの整備が遅れていると指摘されており、孫氏も「日本ではデータセンター整備が遅れている」と問題意識を示しています。

孫氏は、「もし(東電が)われわれのグループの中に入れば、電力を増やしてAIデータセンターを日本に持ってくる」と発言しました。
これは、再生可能エネルギーなども含めた電力確保を進めつつ、日本国内に大規模なAIデータセンター群を整備することで、国内から世界レベルのAIサービスを発信する拠点をつくるという構想です。

ロボットの自動量産工場は「フィジカルAI」の象徴だとすれば、東電出資を通じた電力・データセンター戦略は、「超知性インフラ」の土台づくりにあたります。
この2つを同時並行で進めることで、ソフトバンクグループは、AIが学び・考え・行動するための「頭脳」と「身体」と「住む場所(データセンター)」のすべてを押さえようとしていると言えます。

「あと10~15年頑張る」 孫氏の時間軸と事業承継の修正

株主総会では、孫氏自身の今後のコミットメントについても言及がありました。
孫氏はこれまで、自身の人生設計を「人生50カ年計画」と呼び、60代で次世代に事業を引き継ぐ構想を語ってきました。

しかし今回、その計画を修正し、「もうあと10年か15年頑張る」と述べています。
これは、現在のAI・ロボット・データセンターに関する大型構想が、短期で完結するプロジェクトではなく、少なくとも10年以上を見据えた長期戦略であるという認識を示すものです。

人工超知能(ASI)の社会基盤、ロボット自動量産工場、電力・データセンター網の構築、NAV1000兆円という目標はいずれも、数年で達成できる性質のものではありません。
孫氏は、自らが第一線に立ち続ける時間軸を延長することで、これらの構想を自らの手で実現に近づける覚悟を株主や市場に示した形になります。

「超知性の社会基盤」づくりに向けた3つの柱

今回の一連の発言を整理すると、孫氏が目指す「超知性の社会基盤」は、おおまかに次の3つの柱で構成されていることが見えてきます。

  • 1. フィジカルAIとロボット自動量産工場
    自社の既存工場で、AIがロボットを量産する体制を構築。
    将来的には、データセンター建設や物流、製造など、さまざまな物理作業をロボットが担う世界を見据えています。
  • 2. 大規模データセンターと電力インフラ(東電出資構想)
    AIが膨大なデータを処理し続けるには、安定した電力供給と巨大なデータセンターが不可欠です。
    東電への出資を通じて、日本国内でAIデータセンターを増やし、アジアや世界に向けたAIインフラ拠点を築こうとしています。
  • 3. NAV1000兆円とグローバルNo.1企業グループへの成長
    Armなどの技術的資産と、AI・ロボット・インフラ投資を組み合わせることで、純資産価値1000兆円を目指すと宣言。
    「やる以上は世界一を目指したい」という言葉通り、規模・影響力ともに世界トップクラスの企業グループになることを掲げています。

これらの柱は単体ではなく、互いに補完し合う関係にあります。
ロボット工場がデータセンター建設を自動化し、そのデータセンターがAIを動かし、そのAIがさらに高度なロボットやサービスを生み出す――そうした循環型のエコシステムを構築することで、ソフトバンクグループは長期的な成長とNAVの拡大を狙っていると考えられます。

日本と世界へのインパクト:何が変わっていくのか

孫氏の構想は、ソフトバンクグループだけでなく、日本の産業構造や雇用、エネルギー政策にも大きな影響を与える可能性があります。

  • 製造現場の変化
    ロボットがロボットを作るような工場が増えれば、人間の役割は単純作業から、設計・監視・改善・サービス開発など、より知的な仕事へとシフトしていくことが予想されます。
  • データセンターと地域経済
    日本国内に大規模なAIデータセンターが建設されれば、電力インフラや通信インフラ、周辺産業の活性化が期待されます。
    一方で、電力需要の増加や環境負荷とのバランスも重要な課題となります。
  • グローバル競争と日本の立ち位置
    米国や中国の巨大テック企業がAIとクラウドで主導権を握る中、ソフトバンクが「超知性の基盤提供者」として存在感を高めることができれば、日本発の企業グループとして、世界のデジタルインフラ競争におけるポジションを押し上げる可能性があります。

もちろん、これらの構想には巨額の投資と高いリスクが伴います。
しかし孫氏は、これまでも通信、インターネット、スマートフォン、半導体など、時代の転換点で大きな賭けに出てきた人物です。
今回のフィジカルAI・ロボット・AIデータセンターという組み合わせも、その延長線上にある新たな挑戦といえます。

「今日言うつもりはなかった」と前置きしつつも、ロボット自動量産工場の存在、NAV1000兆円の宣言、東電出資への強い意欲、そして「あと10~15年頑張る」というコミットメント。
これらはすべて、孫正義氏が自らの手で「超知性の時代」の基盤をつくり上げようとしていることを、改めて鮮明に示した発言だといえるでしょう。

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