営農型太陽光発電が広がる日本 キクラゲから水田、ガス会社まで「農業×再エネ」のいま

近年、日本各地で「営農型太陽光発電」という新しいかたちの太陽光発電が広がりつつあります。営農型太陽光発電とは、畑や水田などの農地に太陽光パネルを設置しながら、その下で農作物を育てる取り組みのことです。再生可能エネルギーの普及と、農業の収益アップや担い手不足対策を同時にめざせるとして注目されています。

今回は、話題になっているニュースとして取り上げられている
(1)福知山で「ソーラーの日陰」を活かしてキクラゲ栽培(2)出光興産による水田での太陽追尾型パネル導入(3)静岡ガスグループによる持続可能な営農型太陽光への挑戦という3つの事例を中心に、営農型太陽光発電の現状や特徴を、やさしい言葉で解説していきます。

営農型太陽光発電とは?基本をやさしく解説

まずは、そもそも営農型太陽光発電とは何かを整理しておきましょう。

  • 農地に支柱や架台を立て、その上に太陽光パネルを設置する
  • パネルの下では、これまで通り農作物の栽培や畜産などの「営農」を続ける
  • 売電収入(電気を売って得られるお金)と、農作物の収入を両立させる

これまでの太陽光発電は、遊休地や山林の造成地などにパネルを敷き詰めるケースが目立ちました。その一方で、「農地が発電所に変わってしまい、食料生産が減るのでは」という懸念もありました。営農型太陽光は、こうした懸念に応える形で、「農業を続けながら発電も行う」という折衷案として生まれた仕組みです。

日本では、農地転用の規制などとの調整を経て、営農型太陽光発電が徐々に制度的にも認められ、各地で実証や事業化が進んでいます。その中身は、地域や作物によって実にさまざまです。

福知山でキクラゲ栽培 「ソーラーの日陰」が生み出す新しい農業

話題のニュースのひとつが、京都府福知山市で取り組まれている「ソーラーの日陰でキクラゲがすくすく育つ」という営農型太陽光発電の事例です。ここでは、太陽光パネルが作り出す日陰をうまく活かしながら、キクラゲの栽培が行われています。

キクラゲは、きのこの一種で、コリコリとした食感が人気です。栽培には直射日光よりも「ほどよい日陰」と湿度が重要で、強すぎる日差しや乾燥は大敵です。そのため、ハウスや遮光ネットを使って光を調整するのが一般的でした。

福知山の事例では、この「遮光」の役割を太陽光パネルが担っているのが大きな特徴です。パネルが上空に並ぶことで、地面に届く光がやわらぎ、キクラゲにとって適度な日陰空間がつくられます。一方で、パネルはその上でしっかりと発電を行い、売電収入を生み出します。

  • パネル上部:太陽光を受けて発電し、電力会社への売電や自家消費に活用
  • パネル下部:適度な日陰と湿度を活用してキクラゲを栽培

こうした取り組みによって、農家は「電気」と「農産物」の二つの収入源を得ることが可能になります。特にキクラゲのように、日陰を好む作物や栽培施設を必要とする作物は、営農型太陽光との相性が良いとされています。

また、この種のプロジェクトでは、地域の高齢農家や新規就農者を含め、さまざまな人が関わるケースもあり、農業の担い手づくりや雇用の場づくりにもつながる可能性があります。福知山の事例は、営農型太陽光発電が、単なる「発電所」ではなく、「地域ぐるみの新しい農業モデル」になり得ることを示していると言えるでしょう。

水田に3520枚の太陽追尾型パネル 出光興産の挑戦

2つ目のニュースは、エネルギー企業の出光興産が取り組む、水田での営農型太陽光発電です。ここでは、水田の上に3520枚もの太陽光パネルが設置されている点と、パネルが太陽の動きを追いかける「追尾型」である点が注目されています。

通常の太陽光パネルは、決まった角度・方向に固定されており、その地点で最も効率が良いとされる角度に合わせて設置されます。しかし、太陽は一日の中で東から西へ動き、季節によっても高さが変わるため、固定型パネルではどうしても「無駄になる光」が生じてしまいます。

一方、追尾型パネルは、モーターや制御システムによって、太陽の位置に合わせてパネルの向きを自動的に調整します。これにより、同じ面積でも、より多くの太陽光を受けて発電ができる可能性があります。

出光興産のプロジェクトで特徴的なのは、単に発電効率を追求するだけでなく、「稲の生育に必要な日射量を優先する」という考え方が取り入れられていることです。水田では、稲が十分な光を浴びないと、収量や品質に影響が出てしまいます。そのため、このプロジェクトでは、

  • 稲に必要な日射量を確保するように、パネルの配置や角度を工夫する
  • 時間帯や季節に応じて、稲への影響を抑えるようパネルを制御する

といった工夫が行われています。つまり、発電を優先しすぎて稲作が成り立たなくなるのではなく、あくまで「稲作が主役、発電はその補完」というバランスを大事にしているのです。

水田は、日本の農村風景を象徴する存在であり、地域の水環境や生態系とも密接に関係しています。そこに太陽光パネルを設置することには賛否がありますが、このように稲の生育を最優先にした設計が行われている事例は、今後の営農型太陽光の方向性を考えるうえで大きな参考になりそうです。

静岡ガスグループの取り組み 「信用力」と「ノウハウ」を組み合わせた営農型太陽光

3つ目のニュースは、都市ガス事業を手がける静岡ガスグループによる営農型太陽光発電への挑戦です。タイトルにもあるように、同グループは「持続可能な営農型太陽光」をめざし、都市ガス会社として培ってきた信用力と、施工・営農に関するノウハウを掛け合わせて事業を進めています。

静岡ガスグループのような地域のインフラ企業は、これまでにもガスや電気、リフォーム、エネルギーサービスなどを通じて、地域の暮らしを支えてきました。その中で、再生可能エネルギーと農業を組み合わせた営農型太陽光は、

  • 農家にとっては、信頼できるパートナーと一緒に新しい収益源を作れる
  • ガス会社にとっては、エネルギーの地産地消や脱炭素への貢献につながる

という双方にメリットのある取り組みとなります。

「都市ガスの信用力×施工・営農ノウハウ」という表現は、単に設備を売るだけでなく、長期的な運営・保守や、農業面での支援も含めたトータルな事業モデルであることを示しています。営農型太陽光は、パネルを設置して終わりではなく、

  • 毎年の作柄や天候にあわせた営農計画
  • 発電設備のメンテナンス
  • 地域の景観や環境への配慮

など、長い時間軸での運営が欠かせません。そうした中で、地域密着型のガス会社が中心となってプロジェクトを進めることは、地元住民の安心感につながると考えられます。

また、エネルギー事業者が農業分野に関わることで、農業の担い手不足や耕作放棄地の増加といった地域の課題に、一歩踏み込んで向き合うきっかけにもなっていきます。静岡ガスグループのような事例は、他地域のガス・電力会社にとっても参考になる動きと言えるでしょう。

営農型太陽光発電のメリットと課題

ここまで見てきた3つのニュースから、営農型太陽光発電には多くの可能性があることが分かります。一方で、乗り越えるべき課題も少なくありません。ここでは、主なメリットと課題を整理しておきます。

主なメリット

  • 収入の多角化
    農家は、農作物の売り上げに加えて、発電による売電収入を得ることができます。天候不順などで農作物の収入が落ち込んだ時にも、一定の収入源があることが安心材料になります。
  • 農業の継続と担い手確保
    収益性が高まることで、農業を続けやすくなり、若い世代や異業種からの新規参入を呼び込みやすくなります。結果的に、地域の農地が維持されることにもつながります。
  • 再生可能エネルギーの拡大
    新たに森林を伐採したり、大規模な造成をしなくても、既存の農地を活用して再エネを増やすことができます。環境負荷を抑えながら、脱炭素社会に貢献できる点が評価されています。
  • 作物にとってプラスになるケースも
    キクラゲのように日陰を好む作物や、夏場の強い日差しを嫌う作物では、パネルが日射を和らげることで、高温障害の軽減や品質向上につながる可能性があります。

主な課題

  • 作物への影響の見極め
    稲のように光を多く必要とする作物では、パネルが影を作りすぎると収量低下を招くおそれがあります。出光興産の事例のように、稲への日射量を優先した設計や検証が欠かせません。
  • 初期投資と採算性
    太陽光発電設備の設置には、一定の初期費用がかかります。電気の買い取り価格(FITなど)が年々変化する中で、長期的に採算が取れるかどうかを慎重に見きわめる必要があります。
  • 制度・規制との調整
    農地法や都市計画法など、さまざまな法律・制度との調整が必要となります。地域によっては、許可や手続きのハードルが高く、プロジェクトが進みにくいケースもあります。
  • 地域との合意形成
    景観への影響や、農地利用のあり方への不安から、住民との合意形成が課題になることもあります。静岡ガスグループのように信用力のある主体が、丁寧に説明しながら進めることが重要です。

3つのニュースが示す「これからの太陽光発電」の姿

福知山のキクラゲ栽培、水田に3520枚の追尾型パネル、静岡ガスグループの地域密着型の事業。それぞれのニュースに共通しているのは、太陽光発電が単に「電気をつくる装置」にとどまらず、地域の農業や暮らしと一体となった存在へと変化しつつあるという点です。

  • 福知山:パネルが「日陰づくり」の役割も果たし、キクラゲ栽培と両立
  • 出光興産:稲の生育に配慮した制御で、米づくりと発電を両立
  • 静岡ガスグループ:地域の信用とノウハウを活かし、持続可能な事業モデルを構築

これらの事例は、営農型太陽光発電が、単なる「流行の再エネ技術」ではなく、地域ごとの課題や特性に応じて形を変えながら育っていく可能性を示しています。

もちろん、どの事例もまだ道半ばであり、天候変動や制度変更など、今後もさまざまな試練に直面するはずです。それでも、農業とエネルギーの両立をめざす挑戦は、食料とエネルギーを安定的に確保しながら、環境負荷を減らしていくという、現代社会が抱える大きなテーマに正面から向き合う試みと言えます。

「太陽光発電」と聞くと、山の斜面一面にパネルが並んだ景色を想像する方も多いかもしれません。今、日本ではそれに加えて、田んぼや畑の上に、作物と共存するかたちでパネルが並ぶ風景も少しずつ広がり始めています。今回紹介した3つのニュースは、その変化を象徴する出来事として、これからも多くの人の関心を集めていきそうです。

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