子どもに「ゲーム」を処方?国内初のADHD治療用アプリ「エンデバーライド」登場
子どもの発達障害のひとつとして知られるADHD(注意欠如・多動症)の治療に、これまでにない新しい選択肢が登場しました。医師が子どもに「ゲーム」を処方する――そんな時代が、いよいよ現実になりました。
塩野義製薬は、子ども向けのゲーム形式のADHD治療用アプリ「エンデバーライド」を国内で初めて発売しました。このアプリは医療機器として承認され、さらに保険適用も認められた「れっきとした治療」です。薬による治療に抵抗感があるご家庭や、治療の選択肢を広げたい医師・保護者にとって、大きなニュースとなっています。
ADHDとはどんな症状?やさしくおさらい
まず、このアプリが対象としているADHD(注意欠如・多動症)について、簡単に整理しておきましょう。
- 注意が続きにくい(授業中に集中が続かない、細かいミスが多い、話を最後まで聞けない など)
- 多動性が強い(じっとしているのが苦手、席を立って歩き回る など)
- 衝動的に行動してしまう(順番を待てない、思ったことをすぐ口にしてしまう など)
こうした特性によって、学校生活や友達との関係、家庭での暮らしの中で困りごとが増えてしまうことがあります。ADHDは「しつけの問題」ではなく、脳の働き方の違いによる発達特性と考えられています。
現在の主な治療は、
- 薬物療法(集中力を高めたり、多動性・衝動性を抑える薬)
- 行動療法や環境調整(声かけやルールの工夫、学習環境の整え方 など)
といった方法が中心ですが、「薬にはできるだけ頼りたくない」「まずは別の方法を試したい」と考える保護者も少なくありません。そこで注目されているのが、今回登場したゲーム形式の治療アプリです。
ゲームを「治療」に変えたアプリ「エンデバーライド」とは?
「エンデバーライド」は、子ども向けに設計されたゲーム形式の治療用アプリです。一般的なスマホゲームや学習アプリとは違い、医療機器としての審査を受けたうえで承認された、いわば「デジタル薬」のような位置づけです。
大きな特徴は、次のような点にあります。
- 医師の診察を受けて処方される「医療用アプリ」であること
- 子どもでも楽しく続けられるゲーム形式であること
- ADHDの症状のうち「不注意」などの改善をめざして設計されていること
- 国内で初めて、ゲーム形式の子ども向け治療アプリとして保険適用となったこと
つまり、スマートフォンやタブレットで遊ぶようにゲームを進めていく中で、注意力や認知機能をトレーニングし、ADHDの症状を和らげていくことを目的としたアプリなのです。
どうやって治療するの?ゲームの基本的な仕組み
「エンデバーライド」は、ただ楽しいだけのゲームではありません。ゲームの構成やルールが、子どもの注意力や情報処理の能力を鍛えるように設計されています。
イメージとしては、次のような構造が想定されています。
- 画面上に現れるターゲットに素早く、正確に反応するミッション
- ルールを理解して、一定時間集中して取り組むステージ
- 難易度がプレイ内容に合わせて調整され、子どもにとって「少しだけ難しい」状態が続くよう工夫
この「少し難しい」を継続することが、脳のトレーニングとして効果的だと考えられています。ゲームの中で、
- 必要な情報だけに注意を向ける
- 不要な刺激を無視する
- 決められたルールを守りながら操作する
といった行動を繰り返すことで、ADHDの子どもが苦手としやすい部分を少しずつ補っていくイメージです。
実際の利用にあたっては、
- 1日にプレイする時間や回数が医師の指示で決められる
- 一定期間続けて遊ぶことで、症状の変化を医師が診察の中で確認する
といった形で、「治療の一環」として位置付けられます。
国内初の保険適用という意味――なぜニュースになるのか
今回、「エンデバーライド」が大きく注目されている理由のひとつが、保険適用された点です。子ども向けのゲーム形式の治療用アプリとして国内初のケースとなりました。
保険適用されるということは、
- 国が一定の有効性と安全性を認めた医療技術として位置付けた
- 患者さん・ご家族の自己負担が軽くなる(条件により負担割合は異なります)
- クリニックや病院で標準的な治療の選択肢のひとつとして扱いやすくなる
という意味を持ちます。
従来の治療薬や行動療法に加えて、「医師が処方するアプリ」という新しい武器が加わることで、ADHDの子どもたち一人ひとりにより合った治療方法を組み立てやすくなると期待されています。
薬が苦手な子どもにとっての新たな選択肢
ADHDの薬は有効性が高い一方で、
- 食欲が落ちる
- 眠りにくくなる
- 頭痛や腹痛が出る
などの副作用がみられることもあり、慎重な調整が必要です。また、子ども自身や保護者が「薬を飲ませること」に抵抗感を持つケースも少なくありません。
その点、「エンデバーライド」のような治療用アプリは、
- 基本的には副作用の心配が少ない(※画面の見すぎによる疲れ目など、一般的なデジタル機器の使いすぎには注意が必要です)
- 「薬」ではなく「ゲーム」なので、子どもが受け入れやすい
- すでに薬を飲んでいる子どもにも、追加の選択肢として組み合わせやすい
といった利点があります。
もちろん、アプリだけですべての症状が解決するわけではありませんが、「薬を飲む・飲まない」の二択ではなく、アプリ、環境調整、行動療法、薬物療法などを組み合わせた、よりきめ細やかな治療が可能になる点が大きな前進といえるでしょう。
診察から利用までの流れイメージ
「エンデバーライド」は市販のゲームアプリとは異なり、誰でも自由にダウンロードして使えるものではありません。医療機器として承認された「治療用アプリ」であるため、基本的には次のような流れで利用されます。
- 1. 小児科や児童精神科などで医師の診察を受ける
- 2. ADHDと診断され、アプリ治療が適していると判断された場合、医師からアプリが処方される
- 3. 保護者が案内に従ってアプリをインストールし、子どもと一緒に使い方を確認
- 4. 指示された期間・回数にしたがって、自宅などでゲームをプレイする
- 5. 定期的に診察を受け、症状や生活の様子の変化を医師と一緒に振り返る
このように、単に「家でゲームをする」のではなく、医師の管理のもとで治療の一部として利用することが前提になっています。
エンデバーライドは、どんな子どもに向いている?
エンデバーライドは、主に小児のADHDを対象にしていますが、どの子にも同じように合うとは限りません。医師が診察の中で、
- 子どもの症状の特徴(不注意が強いのか、多動性・衝動性が目立つのか など)
- 年齢や、スマートフォン・タブレットの扱いに慣れているかどうか
- 家庭の環境(アプリを落ち着いて利用できる時間・場所があるか など)
といった点を総合的に見て、「アプリ治療を取り入れるかどうか」を判断していきます。
また、
- すでに薬物療法を行っているが、不注意の症状がまだ気になる子ども
- 薬の副作用が気になり、できるだけ薬以外の方法も試したいご家庭
- 学習や生活の中での集中力アップをゲーム形式で楽しく取り組ませたい場合
などでは、より前向きに検討されやすいと考えられます。
親として知っておきたい「使うときのポイント」
エンデバーライドは、あくまで治療の一部として使われるものです。ご家庭で利用する際には、次のような点を意識しておくと安心です。
- 1. 医師の指示を守る
「たくさんやればもっと効くはず」と自己判断でプレイ時間を増やしたり、勝手に中断したりせず、医師の説明に沿って使い方を調整しましょう。 - 2. ゲーム時間のメリハリをつける
「治療の時間」と「自由に遊ぶゲームの時間」をしっかり分け、約束を事前に決めておくと、子どもも混乱しにくくなります。 - 3. 子どもの様子をよく観察する
アプリを始めてから、学校や家庭での様子がどう変わったかを、メモなどに残しておくと、診察の際に医師に伝えやすくなります。 - 4. 「頑張り」を認めてあげる
子どもにとっては、遊んでいるように見えても、実は集中力を使うトレーニングです。うまくできたときだけでなく、「続けられたこと」そのものをしっかり褒めてあげることが大切です。
デジタル医療が広げる子どもたちの可能性
今回の「エンデバーライド」の登場は、単にひとつの新製品が出たというだけでなく、日本の医療のかたちが変わりつつある象徴的な出来事でもあります。
- 従来の「飲む薬」「塗る薬」だけでなく、「アプリ」が治療の道具になる
- 子どもたちが日常的に使い慣れているスマートフォンやタブレットが、治療や支援の場としても活用される
- 医師・家庭・子どもが、より身近なかたちで連携しやすくなる可能性がある
もちろん、デジタルに頼りすぎることのリスクや、画面時間の増加への懸念もあります。しかし、適切なルールと見守りのもとで活用すれば、こうしたアプリは子どもの特性に寄り添いながら力を伸ばすための、心強い味方になり得ます。
ADHDを抱える子どもたちは、集中が続きにくい一方で、興味あることには驚くほどの集中力や独自の発想力を発揮することもよくあります。「ゲーム」という子どもにとって身近で楽しい世界を入り口に、その力をうまく引き出していく「エンデバーライド」のような取り組みは、今後の支援のあり方を大きく変えていくかもしれません。
今後の広がりと、私たちにできること
塩野義製薬による今回の取り組みをきっかけに、今後、
- 他の発達特性や学習の困りごとに対するデジタル治療アプリの開発
- 学校や地域と連携した、アプリを活用した支援の仕組みづくり
- 保護者・先生・医療者が連携しやすい情報共有システムの整備
などが進んでいくことも考えられます。
私たち一人ひとりにできることは、
- ADHDや発達特性について正しい知識を持つこと
- 「ゲーム=悪いもの」と決めつけず、どう使えば子どもの力になるかを考えること
- 困っている子どもやご家族に対して、偏見ではなく理解と情報を届けること
なのかもしれません。
エンデバーライドのような新しい治療の登場は、「子どもたちの多様な特性を、その子らしさとして受け止めながら、どう支えていくか」を社会全体に問いかけています。今後の広がりに注目しつつ、一人ひとりができるところから理解を深めていきたいテーマです。




