「キズナ」と武豊騎手が紡いだダービーの物語――第93回日本ダービーを前に振り返る“絆”の力

日本ダービー――正式名称「東京優駿(GⅠ)」は、競馬ファンにとって一年で最も特別なレースのひとつです。3歳牡馬・牝馬たちが「世代の頂点」を懸けて挑む一世一代の舞台であり、「ダービー馬は一生ダービー馬」と語られるほど、その称号には重みがあります。

そのダービーの歴史の中で、今なお色濃く語り継がれる名馬のひとつがキズナです。父ディープインパクトの血を受け継ぎ、名手・武豊騎手を背に驚異的な末脚で日本ダービーを制したその走りは、多くのファンに「異次元」と称されました。キズナという名前に込められた「絆」という言葉は、馬と人、血統と歴史、そしてファンとのつながりそのものを象徴しているようです。

本記事では、第93回日本ダービーを目前に控える中で、改めてダービー馬キズナの物語と、「絆」がもたらしたドラマをやさしい視点で振り返りながら、最新のダービー関連トピックである特別版レーシングプログラムの発行や、本命候補と目されるアスクエジンバラの話題にも触れていきます。

名馬「キズナ」とは?――血統と名前に込められた想い

キズナは、2010年生まれのサラブレッドで、父は日本競馬史に残る三冠馬ディープインパクト、母はキャットクイルという良血馬です。半姉には桜花賞などGIを3勝したファレノプシスがおり、その血統背景からも「超良血馬」として注目を集めていました。

「キズナ」という馬名は、日本語の「絆」から取られています。血のつながりだけでなく、牧場と馬主、調教師、騎手、厩務員、そしてファンとのつながりまで、さまざまな関係性を象徴する名前です。実際に、キズナは牧場にとっても「初のダービー馬」となる存在であり、15年の歳月を経て、姉ファレノプシスとともに牧場悲願のGIタイトルをもたらした“血の絆”として語られています。

「この馬、ダービー獲れますね」――調教師が感じた異次元のポテンシャル

調教段階からキズナのポテンシャルは周囲を驚かせていました。関係者の証言では、「この馬、ダービー獲れますね」と思わず口にしてしまうほどの感触があったといいます。走りのスケール、加速力、そして何よりも勝負どころで一気に突き抜ける末脚は、父ディープインパクトを思い起こさせるものでした。

調教師やスタッフは、キズナを「異次元の世界の馬」と表現し、その潜在能力の高さを早くから確信していたとされています。その実力はレースを重ねるごとに明らかになり、クラシックシーズンが本格化する頃には、堂々たる日本ダービーの有力候補と見なされるようになっていきました。

2013年日本ダービーへの道――皐月賞から巻き返し、1番人気へ

キズナが3歳クラシック戦線に挑んだ2013年、ライバルたちも非常に層が厚く、クラシック第1弾の皐月賞では他馬に先着を許す結果となりました。しかし、敗戦の中でも光る末脚を見せたことで、ファンや評論家の評価はむしろ高まっていきます。

その後、キズナは毎日杯(GⅢ)を豪快な差し切りで制し、続く京都新聞杯(GⅡ)でも鋭い決め手を見せて快勝。これにより、「距離が延びてこそ真価を発揮するタイプ」「ダービー向きの脚質」として一気に評価が高まり、日本ダービーでは皐月賞上位馬を押しのけて1番人気に支持されました。

当時のキズナ陣営は、「距離2400メートルなら負けない」と言わんばかりの自信を持って東京競馬場に乗り込んできたと伝えられています。調教師自身も、「それこそディープインパクトだね」と感じさせる走りに、ダービー制覇を強く意識していたとされています。

武豊騎手にとっての「騎手人生の分岐点」――人との絆が支えた復活劇

キズナの鞍上を務めた武豊騎手にとっても、このダービー制覇は非常に大きな意味を持つものでした。長年、日本競馬界の第一線で活躍してきた武騎手ですが、ケガや度重なる不運もあり、以前のような圧倒的な成績から遠ざかっていた時期もありました。

そんな中で巡ってきたのが、キズナとのダービー挑戦のチャンスです。武騎手はこのレースを「騎手人生の分岐点」と表現し、支えてくれた多くの関係者への恩返しの思いも胸に秘めていたといいます。人との“絆”を信じて挑んだダービーという背景は、キズナという馬名とも重なり、特別なドラマを生み出しました。

ダービー当日、プレッシャーの大きさは計り知れませんでしたが、武騎手は冷静さを保ちつつも、「この馬なら必ずやってくれる」という強い信頼を持ってレースに臨んだと語られています。

「大外一気」で世代の頂点へ――異次元の末脚が生んだ名シーン

2013年の日本ダービー当日、キズナは最内枠からスタートしました。レース序盤、武豊騎手はスタート直後にスッと位置を下げ、道中は後方3番手という最後方近くの位置取りを選択します。これは、毎日杯や京都新聞杯で確立した「溜めて末脚を爆発させる」というキズナのスタイルを貫くための戦略でした。

勝負どころの3コーナーから4コーナーにかけて、キズナは徐々に外を回りながら進出を開始します。そして直線に向くと、大外から一気の豪脚を繰り出し、前を行く馬たちをごぼう抜きにしていきました。その姿は、まさに「異次元の末脚」と称され、父ディープインパクトを彷彿とさせるものでした。

最後は、先に抜け出していたライバルをゴール前できっちりと捉え、クビ差で差し切っての日本ダービー制覇。レース後、ファンの間では「武豊ここにあり!」「キズナの大外一気は忘れられない」といった声が多く聞かれ、名シーンとして記憶に刻まれることになりました。

静かに燃える名馬の気質――「負ける気がしない」存在感

キズナについて、調教師や関係者はその精神的な落ち着きにも注目していました。ゲートに近づくにつれ、むしろ落ち着いていくタイプの馬で、「こういう馬が名馬の秘訣なんです」と語られています。

また、状態が整ったレースでは「負ける気がしない」と感じさせるほどの雰囲気を漂わせていたともいわれます。これは単なる自信ではなく、これまでの調教の積み重ね、血統背景、レースで見せてきた走りなど、さまざまな要素が揃って初めて生まれる“確信”に近いものだったのでしょう。

こうした気質と能力がかみ合った結果として、キズナは日本ダービーの舞台で見事にその才能を開花させ、「世代の頂点」に立つことになりました。

キズナがつないだ“血”と“想い”――不屈のダービー馬から種牡馬へ

現役時代のキズナは、その後ケガに悩まされることもあり、「未完の名馬」と称されることもあります。しかし、引退後は種牡馬として新たな役割を担い、その血は産駒によって進化を続けていると評価されています。

日本競馬は現在もサンデーサイレンス系の血が主流ですが、その中でもディープインパクト系の中核としてキズナ産駒は多くの重賞戦線で活躍しています。ダービー馬としての誇りを受け継ぐように、産駒たちも大舞台での躍動が期待されており、「キズナの絆」は世代を超えて広がり続けています。

初仔の姉ファレノプシスが牧場初のGIホースとなり、最後の仔であるキズナが牧場初のダービー馬となったというストーリーも含め、「血の絆」が形となって結実した存在がキズナであるといえるでしょう。

第93回日本ダービー特別版レーシングプログラムの発行

こうした歴史と感動に彩られた日本ダービーは、年を追うごとに新たな物語を生み出しています。第93回日本ダービーが行われる5月31日(日曜)には、「東京優駿(GⅠ)(第93回日本ダービー)特別版レーシングプログラム」が発行される予定となっています。

特別版レーシングプログラムでは、出走馬の情報や血統表、これまでの戦績、騎手・調教師のコメントに加え、過去のダービー名場面などが紹介されることが多く、観戦の心強い伴侶となる一冊です。キズナのような歴代ダービー馬のエピソードが取り上げられることもあり、ファンにとっては読み物としても楽しめる内容になっています。

これからダービーを観戦するビギナーファンにとっても、レーシングプログラムはレースの流れや馬券の買い方を学ぶ手がかりになります。馬柱を眺めながら、どの馬にどのようなストーリーがあるのかを考える時間は、レース当日の楽しみを何倍にもふくらませてくれるでしょう。

「相棒は双眼鏡」――本命予想はアスクエジンバラ

第93回日本ダービーに向けた予想の中で、「相棒は双眼鏡」というコラムでは、本命としてアスクエジンバラの名が挙げられています。双眼鏡片手にパドックや返し馬、レースでの動きをじっくりと観察してきた記者が、「後悔のない本命予想」として選んだ一頭です。

予想の根拠としては、これまでのレース内容や血統背景、東京芝2400メートルという舞台設定への適性などが挙げられており、「大舞台でも崩れにくい安定感」と「ここ一番で力を出し切れる勝負強さ」に注目しているようです。もちろん、競馬に絶対はありませんが、「自分の目で見て選んだ」という感覚は、ファンが馬券を買う際にも大切なポイントといえるでしょう。

キズナの時代も、調教師や騎手、記者たちがそれぞれの視点から「この馬はダービー向き」と感じ取り、本命視していました。そうした人々の思いと見立てが交錯するのも、日本ダービーならではの魅力です。

「キズナ」が教えてくれる、日本ダービーの楽しみ方

キズナと武豊騎手の物語を振り返ると、日本ダービーは単に速い馬を決めるレース以上の意味を持っていることがよくわかります。そこには、血統の物語人と馬の信頼関係牧場・馬主・調教師・騎手・ファンをつなぐ“絆”が凝縮されています。

レースを見る際には、出走馬の血統表を眺めて「この馬のお父さんはどんな馬だったのか」「兄弟にどんな活躍馬がいるのか」を知ることで、背景にあるドラマが見えてきます。また、騎手や調教師のインタビュー記事を通じて、レースに懸ける想いや日々の努力を知ると、ゴール前の攻防に込められた重みが一層心に響いてくるはずです。

第93回日本ダービーでも、アスクエジンバラをはじめとする出走馬たちが、それぞれの「絆」の物語を胸にスタート地点へ向かっていきます。その姿に、かつて大外一気で世代の頂点に立ったキズナの面影を重ねながら観戦してみるのも、日本ダービーの楽しみ方のひとつかもしれません。

そして、レースが終わったあと、「あの馬とあの騎手のコンビは本当に良かった」「あの調教師の信頼が実を結んだ」と感じられたなら、それはすでに新しい“絆”の物語が生まれた証です。キズナが残した感動は、今もなお多くのファンの心をつなぎ、新たなダービーヒーローたちへバトンを渡し続けています。

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