ナイジェリアで「ジョロフライス」2万食分に挑戦 〜飢餓と希望を結ぶギネス世界記録への道〜
ナイジェリアの現状とギネス世界記録挑戦
2025年9月12日、ナイジェリア最大都市ラゴスで、国民食であるジョロフライスの「2万食分を一度に調理」するという壮大なギネス世界記録への挑戦が行われました。この試みは、調理イベントとしては前例のない規模となり、世界中から大きな関心を集めています。
このイベントが開催されたのは、ナイジェリアで約3,060万人が深刻な飢餓に直面しているという社会的背景があるからです。人口2億3千万人を超えるアフリカ最大国のナイジェリアでは、近年、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などで食料価格が著しく高騰し、多くの人々が生命の危機に瀕しています。そんな中で、国民食「ジョロフライス」を通じて食の大切さや希望を世界に発信しようという動きが広がりました。
ギネス記録への挑戦—超巨大「ジョロフライス」鍋
この挑戦のため、巨大な鍋(直径6メートル)が特別に用意されました。材料も圧巻で、以下の通りです。
- バスマティ米:約4,000キログラム(200袋)
- トマトソース:推定500バレル
- 食用油:750キログラム
- 玉ねぎ:600キログラム
- ヤギ肉:168キログラム
- さまざまな香辛料や赤ピーマン
特にSNSで話題となったのは、ポリタンクで投入される真っ赤な香辛料や油の様子や、10人近い調理人が数メートルの長棒で力強く巨大な鍋をかき混ぜる光景です。
この鍋は「エコ ホテル アンド スイーツ」(ラゴス・ビクトリア島)で8時間かけて調理され、数千人の観客が現場で、さらに生中継を通じて何万人もの視聴者がイベントを見守りました。
ギネス世界記録へのモチベーション
この記録に挑戦したのは、有名シェフ ヒルダ・バチ(Hilda Baci/Bassey)さんと、そのアシスタントたち。調理現場では、調理チーム全員が伝統的な大きな木べらで巨大な鍋を混ぜ、熱気と活気に溢れた雰囲気に包まれていました。
ジョロフライスはトマト、唐辛子、香辛料、米を基本とする西アフリカの代表的な炊き込みご飯です。その人気はガーナやセネガルなど隣国とレシピを巡って論争になるほどで、ナイジェリアでは「家庭の味」として長く親しまれています。
バチ氏は2021年のジョロフライス料理コンテストで優勝、2023年には「最長連続調理時間ギネス世界記録」(93時間11分)も樹立した実績の持ち主です。今回もその経験と知識を生かし、自国の文化や伝統を世界に発信するため、記録挑戦に臨みました。
ジョロフライスの歴史と多様性
ジョロフライスの起源は14世紀に遡ります。セネガル沿岸部で誕生したとされる「ティエブ・ディウネ」という米料理が、西アフリカ全域へと広まり、各地でさまざまなバリエーションが生まれました。2021年には、セネガル版ジョロフがユネスコの無形文化遺産に登録され、その歴史的な価値が国際的にも認められています。
ナイジェリアでは、米やトマト、油、玉ねぎ、肉類、唐辛子などの食材を贅沢に使ったジョロフライスが、日常の食卓から特別な祝い事まで幅広く親しまれています。調理法やレシピを巡る「ジョロフライス論争」は現在も健在で、国内外の人気を集めてやみません。
社会的意義と現場の様子
深刻な飢餓が問題となる現地において、この大規模イベントはただの記録挑戦ではありません。現場で調理された2万食分のジョロフライスは、社会的に支援を必要とする人々に実際に配布されました。
味や温かさ、出来立ての笑顔は多くの人の腹と心を満たし、人々の生活やコミュニティの連帯感を支えました。イベントには地元政府関係者や著名人も参加し、「食を通じた希望と連帯」の姿勢を国際社会に向けて力強く発信しました。
SNS時代の新しい文化発信
イベントの様子はInstagramやTikTokなどのSNSでも大きな話題となり、巨大鍋と調理風景のビデオクリップは瞬く間に拡散されました。また、ギネス世界記録公式アカウントや著名なフードインフルエンサーも取り上げ、数多くの人がコメントやリアクションを寄せています。
「自国の食文化を誇りとする声」や「困難な時こそ助け合う姿」「巨大な調理道具やプロフェッショナルな調理人たちへの称賛」など、さまざまな反響が寄せられました。
まとめ:食がもたらす連帯と誇り
ナイジェリアで発生したこの「2万食分のジョロフライス・ギネス記録挑戦」は、一部の人にはパフォーマンスのように映るかもしれません。しかし、飢餓に苦しむ人々への支援という現実的な側面と、食文化を次世代へ継承するという社会的、人道的な意義が重なり合った、極めて重要なチャレンジでした。
厳しい現実が続くナイジェリアにおいて、一皿のジョロフライスがもつ希望の灯は、人々の諦めない心を支える力になっています。食の力が困難な社会に新たな道を切り開くことを、今回の壮大なギネス挑戦は改めて証明したと言えるでしょう。