東京メトロで進む「駅係員不在」運用 改札から駅員が減る背景と利用者への影響
東京メトロで、改札口に駅係員が常駐しない「駅係員不在」の運用が増えています。これまで駅では、改札付近に係員がいて、切符の案内やICカードのトラブル対応、道案内などを直接行うのが一般的でした。しかし近年は、駅に人を常駐させる代わりに、遠隔地にいる駅員がタブレットやインターホンを通じて対応する仕組みが広がっています。
こうした動きの背景には、駅業務の効率化と将来の人手不足への備えがあります。東京メトロは2026年3月、全171駅に向けて「遠隔案内端末」を2028年3月末までに順次導入すると発表しました。第一弾として青山一丁目、淡路町、中野坂上、東銀座の4駅で運用を始めており、改札口付近に設置したタブレット端末を通じて、駅員と利用者が直接通話できるようになっています。
この端末には、サイエンスアーツが開発したIP無線インカムアプリ「Buddycom(バディコム)」のコール機能が組み込まれています。利用者は画面の「呼び出し」ボタンを押すことで、事務室など離れた場所にいる駅員と通話できます。音声だけでなく、テキストチャットや動画のやりとりも可能で、9言語の翻訳に対応しているのも特徴です。外国人旅行者や日本語での会話に不安がある人にとっても、使いやすい仕組みになっています。
なぜ「駅係員不在」が広がるのか
東京メトロがこうした運用を進める理由は、単に人員を減らすためではありません。駅員を改札口に固定せず、必要な場所に柔軟に配置することで、限られた人員でもより多くの利用者に対応しやすくなるためです。駅の利用状況や時間帯によっては、改札に人が常にいるよりも、遠隔対応のほうが効率的な場合があります。
また、駅員の業務は案内だけではありません。乗り降りの安全確認、精算対応、忘れ物への対応、設備の確認など、幅広い業務があります。遠隔案内端末の導入により、改札口の案内業務をまとめて対応しやすくなれば、駅員は他の必要な業務に時間を割けるようになります。
東京メトロは発表で、駅社員が離れた場所からでも的確にお客様対応を行うことが可能になり、多様化する利用者のニーズに応じた質の高いサービス提供につながると説明しています。つまり、駅員が見えなくなることを目的にしているのではなく、必要なときに必要な対応をしやすくするための仕組みといえます。
ICカードのエラーやシャッター開閉も遠隔対応へ
今回の動きは、案内端末だけにとどまりません。報道では、地下鉄駅員の業務省力化に向けて、ICカードのエラーへの遠隔対応や、駅出入り口シャッターの開閉自動化も進められていると伝えられています。こうした設備の自動化・遠隔化が広がれば、駅係員がその場にいなくても対応できる範囲はさらに広がります。
たとえば、ICカードの読み取りエラーが起きた場合、これまでは改札付近の係員が直接確認して対応する場面が多くありました。今後は、遠隔の担当者が端末越しに状況を確認し、案内や操作を行う流れが増えていくと見られます。駅の出入り口シャッターの開閉についても、現場の人手に頼りきらない運用が進めば、夜間や利用者の少ない時間帯の管理もしやすくなります。
こうした仕組みは、駅運営の省力化につながる一方で、利用者にとっては「駅に行ってもすぐ係員に会えないのでは」と不安に感じる場面もあるかもしれません。そのため、東京メトロのような事業者には、端末の場所を分かりやすく示すことや、呼び出し方法を丁寧に案内することが大切になります。
利用者にとってのメリットと気をつけたい点
遠隔案内端末には、利用者側にも分かりやすいメリットがあります。まず、改札口に係員がいなくても、呼び出しボタンを押せば会話ができるため、「誰に聞けばよいのか分からない」という不安が減ります。さらに、音声に加えて文字や動画での案内ができるため、聞き取りにくい場面や複雑な説明にも対応しやすくなります。
9言語翻訳に対応している点も重要です。東京の地下鉄は国内の通勤客だけでなく、観光客や海外からの利用者も多いため、多言語対応は今後ますます求められます。駅員の人数を増やすことが難しい中で、技術を使って案内の質を保とうとする取り組みは、都市鉄道にとって現実的な選択肢といえるでしょう。
一方で、すべての利用者がデジタル機器に慣れているわけではありません。高齢者や、急いでいる人、機械の操作に不慣れな人にとっては、タブレットの呼び出し方が分かりにくい場合もあります。そのため、画面表示をできるだけ簡単にすることや、駅構内での案内を充実させることが欠かせません。遠隔化が進んでも、利用者が迷わず使える工夫は今後も重要です。
東京メトロが示す駅運営の新しい形
東京メトロの今回の取り組みは、駅員を減らすことそのものが目的ではなく、駅の役割を見直しながら、必要なサービスを維持するための試みと見ることができます。駅員が改札口に立つ姿は、これまで鉄道利用の安心感を支えてきましたが、今は通信技術や端末の進化によって、そのあり方が変わりつつあります。
駅係員不在の運用が増えることで、駅の印象は少し変わるかもしれません。ただ、その一方で、遠隔であっても素早く案内できる体制が整えば、利用者にとってはむしろ便利になる場面もあります。東京メトロは全171駅への導入を2028年3月末までに進める方針であり、今後はこうした新しい駅運営がどこまで定着するかが注目されます。
人の目と技術をどう組み合わせるか。東京メトロの「駅係員不在」運用は、都市の鉄道サービスが次の段階へ移りつつあることを示しています。利用者にとって分かりやすく、安心して使える仕組みへと育てられるかどうかが、今後の大きなポイントになりそうです。


