豊島逸夫氏が語る「年後半の金価格」と足元の相場下落──いま何が起きているのか
金(ゴールド)は「安全資産」「有事の金」として多くの投資家に知られていますが、足元では金価格が11週ぶりの安値に下落し、「本当に安全資産なのか?」という戸惑いの声も聞こえ始めています。
一方で、金市場の第一人者として知られる豊島逸夫氏は、最新のコラムで「年後半の金価格予測」を発表し、足元の調整局面と今後の見通しについて詳しく解説しています。
この記事では、
- 年後半の金価格に関する豊島氏の見方
- 金価格が11週ぶり安値となった背景(利上げ懸念など)
- 「有事の金」はどこに行ったのかという疑問と、その答え
- 今後の金投資を考えるうえでのポイント
を、できるだけわかりやすく丁寧な言葉で整理してお伝えします。
年後半の金価格予測──歴史的高値圏の「休憩局面」
豊島逸夫氏は、三菱マテリアルや三菱UFJ信託銀行などのサイトで、継続的に金市場を解説しており、2026年6月10日付で「年後半の金価格予測」というコラムを公開しています。
その前提として、金価格はすでに歴史的高値圏にあります。2026年6月初めの段階で、国際金価格はおおむね1オンス=4450~4540ドル前後のレンジで推移しているとされています。
豊島氏は、こうした高値圏の相場について、
- 急騰してきた相場が、
- 一服しながら方向感を探る局面
と捉えたうえで、年後半に向けてのシナリオを慎重に見極めようとしています。
金市場は「二極化」している
豊島氏が最近のコラムで強調しているキーワードのひとつが「金市場の二極化」です。
これは、
- 長期・構造的な買い手(各国中銀、年金・機関投資家、長期保有を目的とした個人投資家)
- 短期売買の投機マネー(先物・オプション、レバレッジ取引など)
という、性質の異なるマネーが金市場の中で共存し、ときに逆方向に動くことを指します。
長期投資家は、地政学リスクや通貨価値の低下、インフレヘッジなどを意識しながら、相場の調整局面でも粘り強く買いを入れる傾向があります。一方、短期の投機筋は、米金利の動向や経済指標を見て、
- 利上げ観測の強まり → 金売り
- 利下げ観測や安全資産需要の高まり → 金買い
と、短期の値幅取りを狙って売買を繰り返します。
その結果、表面的には「金価格が急落している」と見えても、
- 中長期の資金は淡々と買い増ししている
- 短期マネーが大きくポジションを傾けている
といった、内側の構造はかなり複雑になっているのです。
年後半に向けた視点:インフレと金利、そしてドル
年後半の金価格を考えるうえで、豊島氏が重視しているのは、
- 米国のインフレ動向
- FRB(米連邦準備制度)の金融政策──とくに利下げのタイミングとペース
- 米ドルの動き
といった、マクロ経済のファクターです。
金には利息や配当はつきません。そのため、
- 金利が高くなる局面では、
- 「金を持つよりも、利息がつく資産を持った方が得だ」と考える投資家が増える
傾向があり、これが金価格の重しになります。
逆に、
- 金利低下(利下げ)
- インフレ懸念の高まり
- ドル安
といった環境は、金にとって追い風になりやすいとされます。
豊島氏は、こうした要因が年後半にどのような組み合わせで出てくるかを見極めながら、金価格が高値圏を維持するのか、いったん深めの調整に入るのかを見ていると解説しています。
金価格が11週ぶり安値に──利上げ懸念でなぜ下がるのか
足元では、金価格が11週ぶりの安値水準に下落し、ニュースでも「金が急落」といった見出しが目立つようになっています。
背景にあるのが、
- 利上げ(または利下げ先送り)への懸念
- 強い雇用統計などを受けた米景気の底堅さ
です。
雇用統計ショックと金の急落
豊島氏は、6月8日付のコラムで「雇用統計ショックで貴金属全滅、これからどうなる」と題して、米雇用統計のサプライズが金市場に与えた影響を分析しています。
米国の雇用が予想以上に強いと、
- 「景気はまだ十分に強い」→ FRBは利下げを急ぐ必要がない
- むしろインフレ再燃を警戒して、利上げスタンスを維持する可能性も意識される
こうした見方が市場で広がると、
- 金利上昇(または高金利の長期化)懸念 → 金売り
- ドル高 → ドル建てで取引される金の割高感 → 金売り
という形で、金価格に下押し圧力がかかります。
この結果、短期間に金・銀・プラチナなどの貴金属全般が売られる現象が起き、「貴金属全滅」と表現されるような相場となっています。
なぜ「利上げ懸念=金安」なのか
金価格と利上げ(あるいは利下げ先送り)がなぜ結びつくのか、イメージしにくい方も多いと思います。かんたんに整理すると、
- 金には利息がつかない
- 利上げで債券の利回りや預金金利が上がると、そちらに資金が流れやすくなる
- 金を持つ「機会コスト(本来得られたはずの利息)」が高くなる
という構図があります。
そのため、市場で「利上げが続きそうだ」「利下げは遠のいた」と受け止められると、
- 短期筋を中心に金売りの動きが強まる
- ヘッジ目的で積み上がっていたロングポジションの巻き戻し(利益確定売り)が出る
ことで、相場が急落しやすくなります。
今回の11週ぶり安値という水準は、まさにこうした利上げ懸念とポジション調整が重なった結果といえます。
「有事の金」はどこへ行ったのか?──ピクテ・ゴールドの視点
今回の下落局面を受けて、多くの投資家が抱いた疑問が、
「有事の金はどこへ行ったのか?」
というものです。
地政学リスクが高まったり、世界情勢が不安定になったりすると、通常なら安全資産として金が買われると理解されてきました。その一方で、足元では有事リスクが意識される局面でも、
- 金が思ったほど上がらない
- むしろ金よりもドルや米国債に資金が向かう
といった現象も見られます。
こうした現象について、ピクテ投信などが提供するレポート「ピクテ・ゴールド|『有事の金』はどこへ行ったのか? ~金価格調整の背景と今後の投資環境~」では、次のようなポイントが整理されています。
短期の「リスクオフ」と長期の「安全資産需要」は違う
レポートでは、まず投資家の時間軸の違いに注目しています。
- 短期的なリスクオフ局面では、「一度全部売って現金化する」という動きが強まり、金も含めてさまざまな資産が売られることがある
- その後、落ち着いた段階で、改めて安全資産として金が買われてくるケースが多い
という指摘です。
つまり、
- 「有事=必ず金が即座に上がる」とは限らない
- むしろ「有事の初動では、金も一緒に売られる」こともある
- その後、時間をかけて安全資産としての金の需要がじわじわ効いてくる
という、時間差を意識する必要があると説明しています。
ドルの存在感と、金の「立ち位置」の変化
また、ピクテ・ゴールドのレポートでは、「有事の資金の受け皿」が必ずしも金だけではないという点も強調されています。
- 米ドルや米国債が、依然として世界最大の「安全資産」として機能している
- したがって、有事局面ではまずドル買い・米国債買いが強まりやすい
- その結果、ドル高が進行すると、ドル建ての金は相対的に割高に見え、短期的には金が上がりにくい局面も出てくる
という構図です。
これは、豊島氏が指摘する「金市場の二極化」とも通じます。長期的な目線では、
- 各国中銀の金準備の積み増し
- 通貨の信認に対する不安
などから、金の「準備資産」「通貨の代替」としての役割はむしろ強まっています。
一方で、短期の値動きだけを見ると、
- ドルと金が逆相関で動く場面
- 有事でも金よりドルが先に買われる場面
があり、「有事の金」が見えづらくなっていると言えます。
「有事の金」は消えていない──ただし、見え方が変わった
ピクテ・ゴールドのレポートや豊島氏の解説を総合すると、
- 「有事の金」という機能自体は消えていない
- ただし、
- ・短期ショックでは金も売られることがある
- ・ドルや債券との「安全資産の住み分け」が進んでいる
- ・中長期の資金は着実に金に向かっている
という形で、
「有事の金」の見え方が、昔よりも複雑になっている
と整理することができます。
これからの金投資を考えるうえでのポイント
ここまでの内容を踏まえ、今後の金投資を検討する方にとって重要と思われるポイントを、やさしく整理しておきます。
1. 短期の値動きと長期の役割を分けて考える
金は、
- 短期には、金利・ドル・投機マネーの影響を強く受ける
- 長期には、通貨価値やインフレ、地政学リスクへの備えとして機能する
という性格があり、この二つを切り分けて考えることが大切です。
11週ぶり安値となるような急落局面でも、
- 短期筋の売買
- ポジション調整
- 金利観測の変化
が主因となっていることが多く、これだけで「金という資産クラスの価値が失われた」と判断するのは早計だといえます。
2. 「一点集中」ではなく、ポートフォリオ全体の中で位置づける
豊島氏やピクテ・ゴールドが共通して強調しているのは、金をポートフォリオ全体の一部として位置づけるという考え方です。
- 株式や債券とは異なる値動きをする資産として、
- 全体の価格変動をならす「クッション」の役割を期待する
というイメージです。
この観点からは、
- 短期の急騰局面で一気に買い増すより、
- 時間をかけて積み立てる、
- 保有比率を一定範囲でコントロールする
といったスタイルの方が、リスク管理の面では合理的だと考えられます。
3. 情報源を絞り、冷静に判断する
金市場は、
- 地政学ニュース
- 中央銀行の発言
- 金融政策の思惑
など、さまざまなニュースが飛び交いやすい分野です。
豊島逸夫氏のように、金市場を長年にわたり専門的に追い続けているアナリストのコラムや、ピクテ・ゴールドのような運用会社のレポートは、
- 短期のセンチメントだけに流されない
- 中長期の視点を踏まえた整理
がされており、情報整理のうえで参考になります。
金は「絶対安全な資産」ではありませんし、価格が上下に大きく振れる資産でもあります。ただし、その変動要因を丁寧に理解し、自分の投資目的や期間に照らして位置づけることで、
「怖い存在」から「頼れる分散先」
へと、見え方を変えていくことも十分可能です。
まとめ──調整局面の中で問われる「金とのつきあい方」
金価格が11週ぶりの安値に下落し、「有事の金はどこへ行ったのか」といった声が上がる今だからこそ、
- なぜ金が下がっているのか(利上げ懸念・ドル高・短期筋の動き)
- 長期の視点では何が起きているのか(各国中銀の買い、通貨不安への備えなど)
- 自分は金に何を期待するのか(値上がり益か、リスク分散か、インフレヘッジか)
を、改めて見直すタイミングと言えるかもしれません。
豊島逸夫氏の「年後半の金価格予測」や、ピクテ・ゴールドの「『有事の金』はどこへ行ったのか?」といった解説は、
- 感情的な不安をあおるのではなく、
- 冷静に金市場の構造と投資環境を整理する
という点で、これから金投資を考える個人にとって大きなヒントを与えてくれます。
急騰と急落を繰り返しながらも、長い時間軸で見れば、金は世界の金融・経済の変化を映し出してきました。年後半に向けた相場展開を見守りつつ、自分なりの「金とのつきあい方」を考えてみることが、大切な一歩となりそうです。




