オリンピックと誹謗中傷対策──JOC・JPCの新たな取り組みと啓発映像
はじめに
2025年9月1日、日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)は、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピックや国内外のスポーツ大会に向け、選手を取り巻くインターネット上の誹謗中傷対策をより強化する方針を発表しました。特にSNS等での選手への誹謗中傷が社会問題化する中、JOCとJPCは多層的な取り組みを進めてきましたが、新たに俳優・亀梨和也さんがナレーションを務める啓発映像の制作・公開が大きな注目を集めています。
インターネット時代に問われる選手の「安心と尊重」
現代のオリンピックやパラリンピックは、スポーツの祭典としてだけでなく、インターネットやSNSの普及により、選手の活躍や素顔が瞬時に世界中で共有される時代となりました。しかしその一方で、アスリートに対する心無い誹謗中傷や不適切な投稿が後を絶たず、精神的なダメージや競技への悪影響など、多くの課題が浮かび上がっています。
こうした状況の中で、JOCとJPCは2025年3月に誹謗中傷に関する相談窓口の設置や、第三者によるモニタリング体制の強化など、アスリートの誰もが「安心して競技に集中できる」環境づくりに取り組んできました。JOCの橋本聖子会長も「健全で希望に満ちたスポーツ文化を次世代へつなぐ」ことの重要性を繰り返し強調しています。
2026年冬季五輪などを視野に入れた取り組み
JOCとJPCは、2026年開催のミラノ・コルティナ冬季オリンピック・パラリンピックや、同年に開幕する東京陸上世界選手権など、今後開催される国内外の大規模スポーツ大会で特にネット上の誹謗中傷・不適切な書き込みのモニタリングを強化すると発表しています。
- 大会期間中や、注目度が高まる局面で専門スタッフが投稿内容を監視
- 異常な投稿や悪質な誹謗中傷が確認された場合は、即座に運営サイドで対応
- 選手や関係者からの相談には、専門窓口で迅速にサポートを提供
これにより競技者が不要なストレスや恐怖心から解放され、本来の力を発揮できる環境の実現を目指します。
「その道のりに、賞賛を」──啓発映像の狙いと内容
注目される取り組みの一つが、啓発映像「その道のりに、賞賛を」の制作です。本映像は、アスリートへの正しい理解とリスペクト、そして挑戦の過程にある努力への称賛を社会全体で共有することを目指しています。俳優の亀梨和也さんがナレーションを担当し、彼自身のあたたかい語り口で、競技者たちが積み重ねてきた日々や壁、支えてくれる人々への感謝などが丁寧に描かれています。
この映像は今後、
- 国内外のスポーツ大会会場で上映
- 各種イベントや教育現場での活用
- JOC・JPC公式Webサイトでの公開
という形で広く社会に発信される予定です。
映像のコンセプトは、「選手ひとり一人の人生に敬意を」「結果だけでなく、その過程に目を向けよう」という呼びかけ。フィニッシュラインの瞬間だけでなく、そこに至るまでの日々の努力や挑戦。勝敗に左右されない「人としての成長」や「協力、助け合い」といった価値観にも焦点を当てています。
社会とともにつくる「誹謗中傷のない未来」
JOCとJPCの誹謗中傷対策は、単なるモニタリングや啓発活動にとどまらず、社会全体が協力して「健全な応援文化」を醸成することも目標に据えています。
アスリートは、社会のさまざまな課題への気づきや前向きなメッセージを発信する役割も担っています。だからこそ、
- 応援する人々の思いやりの輪を広げる
- 選手が安心して成長し、挑戦できる社会をつくる
- SNSなどデジタル時代の新たな応援のあり方を模索する
という視点が、国際的な大舞台で今、より強く求められています。
日本国内でも、SNSでの匿名性を悪用した攻撃的な投稿や、根拠のない中傷に苦しむ選手が増加傾向にあることから、スポーツに関わるすべての人やファン、そして社会全体が当事者意識を持ち、より良い未来を目指す必要があります。
アスリートの声とファンの役割
多くのアスリートが、自分の経験や感じた苦しさ、そして「応援や温かいコメントの支え」がもたらす力について語っています。誹謗中傷が心身のコンディションやパフォーマンスに与える影響は計り知れませんが、その中でも正しい応援やリスペクトは選手たちに大きな勇気と希望を与えてくれます。
ファンや市民ひとりひとりの行動が、最終的には大きな「安心できるスポーツ文化」を育みます。JOC・JPCは今後も、各競技団体や教育機関、メディアと連携し、多様な角度から誹謗中傷問題について社会と共に歩んでいく方針です。
おわりに──次世代へ受け継ぐスポーツの価値
オリンピックやパラリンピックは、人間の限界に挑戦するアスリートの姿を通して、スポーツの楽しさや素晴らしさを社会全体に伝える貴重な舞台です。その光に影を落とすのが、ネット上の誹謗中傷。今回のJOC・JPCの取り組みは、「その道のり」にこそ賞賛を、誰もが安心して夢を追えるスポーツ社会を目指して、大きな一歩を踏み出したものといえるでしょう。
スポーツの「応援のかたち」を次世代に伝えるためにも、私たち一人ひとりが、共に考え、行動していくことが求められています。