馬瓜エブリン、30代からの新たな挑戦――ENEOS移籍と皇后杯クラッチスリーが示したもの
女子バスケットボール界を代表する存在のひとり、馬瓜エブリン選手が、30代を迎えて大きな転機の中にいます。2025年夏にデンソーアイリスからENEOSサンフラワーズへ移籍し、今季の皇后杯ではさっそくチームを決勝へ導く活躍を見せました。
本記事では、「30代からのチャレンジ」というテーマを軸に、馬瓜エブリン選手のキャリアと現在地、そして皇后杯2025-26における活躍や、同大会で名前が挙がる他選手・他チームの動きも交えながら、わかりやすくお伝えします。
30代で迎えた大きな決断――デンソーからENEOSへ
1995年生まれの馬瓜エブリン選手は、2025年夏、2シーズンを過ごしたデンソーアイリスからENEOSサンフラワーズへ移籍しました。30代に差しかかるタイミングでの移籍は、選手としても人としても大きな決断です。
馬瓜選手は、これまで日本代表として数々の国際大会に出場し、東京オリンピック銀メダルなど輝かしい実績を積み上げてきました。一方で、2022-23シーズンにはあえて所属チームを持たず、休養に充てるという選択もしています。この「一度立ち止まる」決断と、その後のデンソーでの復帰を経て、さらに新天地ENEOSを選んだことは、「30代からのチャレンジ」というタイトルどおり、新しい自分を試すステージに踏み出した表れと言えそうです。
ENEOSサンフラワーズは、皇后杯で最多27度の優勝を誇る女子バスケットボール界の名門チームです。その伝統あるクラブが、経験豊富で存在感の大きい馬瓜選手を迎え入れたことは、チームにとっても大きな意味を持ちます。若い選手が多い中で、コート内外でのリーダーシップや、日本代表クラスの経験が期待されていると言えるでしょう。
皇后杯2025-26準決勝で見せた「クラッチスリー」
「30代からのチャレンジ」が物語として一気に色濃くなったのが、2026年1月9日に行われた皇后杯2025-26・準決勝でした。ENEOSサンフラワーズはトヨタ自動車アンテロープスと対戦し、60-55で接戦を制して決勝進出を決めます。
試合は序盤から互いに点を取り合う展開となり、トヨタ自動車は平下愛佳選手が第1クォーターだけで10得点を挙げるなど好調なスタート。一方のENEOSは追いかける形でしたが、第2クォーターに入るとオコエ桃仁花選手や、今季新戦力のプレッチェル・アシュテン選手らビッグマンの3ポイントが決まり、逆転に成功します。
後半はトヨタ自動車の強い追い上げを受け、リードチェンジを繰り返す大激戦に。その均衡を破ったのが、馬瓜エブリン選手のクラッチスリーでした。
残り50秒、1点リードで迎えた場面。インサイドでのミスマッチを狙ったトヨタ自動車のパスを、ENEOSのアシュテン選手がスティール。そこからボールは、今季限りでの引退を表明しているベテランガード宮崎早織選手の手に渡ります。宮崎選手が冷静にキックアウトパスを出し、その先でシュートを放ったのが馬瓜選手でした。
この勝負どころの3ポイントシュートがリングを射抜き、ENEOSは勝利を大きく手繰り寄せます。最終的に馬瓜選手はゲームハイの18得点を記録し、まさにチームの大黒柱としての役割を果たしました。
「勝負強さ」と「経験」が支えた一発勝負
この準決勝は、単なる一試合以上の意味を持っていました。リーグ戦では、今季トヨタ自動車がENEOSに対して4戦全勝と大きく勝ち越していた相手です。それでも「負けたら終わり」のトーナメントでENEOSが勝利をつかんだ背景には、選手それぞれの「ここ一番」での集中力と勝負強さがあります。
なかでも馬瓜選手は、第4クォーターにクラッチショットを連発し、流れがどちらに転ぶかわからない場面で何度もチームを救っています。一発勝負の重圧の中で結果を出す力は、国内外を問わず大舞台を経験してきたからこそ備わったものだと言えるでしょう。
また、決勝点のアシストをした宮崎早織選手、スティールで流れをつくったアシュテン選手らとの連携は、ENEOSというチームが持つ「勝ち慣れた文化」の象徴ともいえます。そこに馬瓜選手が加わったことで、経験値とゲームコントロールの幅はさらに広がりつつあります。
決勝の相手は「因縁」のデンソーアイリス
準決勝を制したENEOSサンフラワーズは、皇后杯決勝でデンソーアイリスと対戦します。この組み合わせは、過去11大会のうち7度も決勝で顔を合わせているという因縁のカードです。
デンソーが勝てば2大会ぶり2度目の優勝、ENEOSが勝てば3大会ぶり28度目の優勝となる重要な一戦であり、女子バスケットボールファンにとっては見逃せない対決と言えます。
馬瓜エブリン選手にとって、このカードには特別な意味があります。2023年から2025年夏まで、自身が所属していたチームがデンソーアイリスだからです。かつてのチームメイトと対戦し、古巣の優勝を阻む立場としてコートに立つことになります。
自らが育ててもらったチームへの敬意と、現在の所属チームENEOSで結果を出したいという強い思い。その両方を心に抱えながらプレーすることになるでしょう。こうした複雑な感情を受け止めながらも、冷静に自分の役割を果たせるかどうか――そこにも30代のベテランとしての成長が表れるはずです。
デンソーアイリスの視点――今野紀花の「個の融合」
決勝の相手となるデンソーアイリスも、皇后杯2025-26を通してチームの在り方を模索し続けています。その中で注目されているのが、今野紀花選手のコメントです。
今野選手は、皇后杯を戦う中で「自分の力をもっとチームに融合させたい」という趣旨の思いを語っています(BASKET COUNTのインタビューより)。個人のスキルをどのようにチーム戦術の中で生かすか、また、チームとしてどう個性を引き出し合うか。デンソーアイリスはそのバランスを追求しながら、富士通の連覇を阻み、2大会ぶりの決勝進出を決めました。
かつてデンソーに在籍し、今はENEOSの一員として戦う馬瓜選手にとって、「個をどう生かし、どう融合させるか」というテーマは他人事ではありません。自らも、デンソー在籍時代にはチームの中での役割を模索し、若い選手たちを引っ張る立場を経験してきました。
今野選手をはじめとするデンソーの選手たちが目指す「個とチームの融合」と、ENEOSで馬瓜選手が担う「経験と勝負強さの還元」。この2つの方向性が、決勝の舞台でどうぶつかり合うのかに注目が集まります。
ENEOSの新戦力、プレッチェル・アシュテンの存在感
皇后杯2025-26でのENEOSサンフラワーズには、もうひとり注目の新戦力がいます。それがプレッチェル・アシュテン選手です。
アシュテン選手は、NCAAトーナメント優勝経験を持つ196cmのシューターであり、日本でも非常に貴重なタイプのビッグマンです(BASKET COUNTの記事より)。準決勝のトヨタ自動車戦でも、要所で得点を重ね、第2クォーターには3ポイントで逆転のきっかけを作るなど、存在感を発揮しました。
最終的なスタッツでも11得点5リバウンド3スティールと、攻守両面でチームに大きく貢献しています。特に残り50秒のスティールは、そのまま馬瓜選手のウイニングショットへとつながる重要なプレーでした。
196cmの高さを持ちながらアウトサイドシュートを打てるアシュテン選手の存在は、相手ディフェンスにとって大きな脅威です。加えて、馬瓜選手やオコエ選手といったインサイド・アウトサイド両方に顔を出せる選手が並ぶことで、ENEOSのオフェンスは「誰がどこからでも点を取れる」多彩さを備えつつあります。
馬瓜エブリンが示す「30代からのチャレンジ」のかたち
馬瓜エブリン選手のここまでのキャリアを振り返ると、10代から日本代表に名を連ね、20代で世界大会やオリンピックの大舞台を経験し、Wリーグでも複数チームで優勝を味わってきました。そのうえで、一度休養を選び、芸能事務所への所属やメディア活動など、バスケットボール以外の分野にも挑戦しています。
そうした多様な経験を経て30代を迎えた今、彼女が選んだのは、再び日本の女子バスケットボールの「ど真ん中」、そして優勝が義務づけられるような名門チームであるENEOSへの移籍でした。これは「まだまだプレーヤーとして成長したい」「自分の価値をコートの上で証明したい」という強い意志の表れと言えるでしょう。
準決勝で見せたクラッチスリーは、そうした気持ちが形になった瞬間でした。勝負どころでボールを託されること、その期待に応えることは、決して簡単ではありません。それでも、彼女は迷わずシュートを放ち、結果を出しました。この「覚悟」と「責任感」は、若い頃には持ち得なかった、30代ならではの成熟した姿ともいえます。
また、チームメイトや相手チーム、ファンに対するリスペクトを忘れない姿勢も、彼女の魅力のひとつです。古巣デンソーとの決勝で、どんな言葉を発し、どんなプレーを見せるのか。そこには、勝敗以上のメッセージが込められるかもしれません。
皇后杯決勝に向けて注目したいポイント
最後に、皇后杯2025-26決勝「ENEOSサンフラワーズ vs デンソーアイリス」で注目したいポイントを、簡単に整理しておきます。
- 馬瓜エブリンのメンタルとリーダーシップ
古巣デンソーとの決勝で、どれだけ平常心を保ちつつ、勝負どころで存在感を出せるかがカギになります。 - ENEOSの新旧タレントの融合
宮崎早織選手のベテランらしいゲームメイク、アシュテン選手の高さとシュート力、オコエ桃仁花選手らのアグレッシブさが、馬瓜選手とどう噛み合うかに注目です。 - デンソーの「個とチーム」のバランス
今野紀花選手が語る「自分の力をもっと融合させたい」というテーマが、決勝のプレーにどう表れてくるのか。デンソーがチーム力でENEOSの個々のタレントをどこまで抑えられるかが勝負どころです。 - 伝統と新陳代謝のぶつかり合い
皇后杯で圧倒的な歴史を持つENEOSと、その牙城を崩そうとするデンソー。過去11大会で7度も決勝で対戦してきた「因縁のカード」が、新たな世代の力を得てどう進化するかが注目されます。
女子バスケットボールの世界では、10代後半から20代前半が「伸び盛り」と言われる一方で、近年は30代以降も高いパフォーマンスを維持する選手が増えてきました。その中で、馬瓜エブリン選手は「30代からこそできる挑戦」のモデルケースのひとりになりつつあります。
新チームでの役割、古巣との対戦、大舞台でのクラッチショット――その一つひとつが、これからの女子バスケットボールをより魅力的なものにしていくはずです。皇后杯決勝のコートに立つ馬瓜エブリン選手の姿から、年齢を重ねても挑戦を続けることの大切さと、その楽しさを感じ取れるのではないでしょうか。


