ベネズエラで今、何が起きているのか?――“鉄の女”が暴いた不正選挙、ノーベル平和賞受賞者への圧力、そして世界最大の石油埋蔵国の苦悩

はじめに

南米ベネズエラは、「世界最大の石油埋蔵量」を誇りつつも、深刻な政治・経済危機に見舞われてきました。しかし2025年10月、ベネズエラをめぐる複数のニュースが世界の注目を集めています。不正選挙疑惑人権問題と、長年ベネズエラ社会を支えてきた石油産業の現状――その核心では何が起きているのでしょうか。国際政治・資源・人権という複雑な側面から、誰にでもわかりやすく現状を解説します。

“鉄の女”が暴いた不正選挙の証拠――ベネズエラの民主主義は今

2025年現在、ベネズエラでは民主主義の根幹を揺るがす大きな問題が発生しています。池畑修平氏の「国際ニュースCORE」によれば、〈“鉄の女”〉と呼ばれる女性リーダーが、マドゥーロ政権による選挙に不正があったことを動かぬ証拠で告発したことで、国内外に大きな衝撃が走りました。

これまでベネズエラでは、大統領選挙や国民投票で「不正選挙」の疑惑が常に付きまとってきました。票の操作、国営メディアによる情報統制、野党候補への圧力や弾圧――これらが露骨に行われてきたことで、民主主義の形骸化が進んでいます。今回、池畑修平氏の報告では、選挙管理組織が政府の影響下で操作され、まともな監査や実地調査が機能していない現状が明るみに出ています。

この証拠提出により、市民社会・野党の抗議活動は活発化し、市内では連日デモが発生しています。しかし政権側は強硬な姿勢を崩さず、「国外勢力やテロ勢力の介入」として、野党や市民団体への取り締まりが厳しくなっているのが現状です。

  • 不正選挙の証拠が国際社会に認識されることで、経済制裁強化や支援停止などの圧力が各国から課されています。
  • しかし、政権維持のために強権的対応が続き、「民主と独裁のせめぎあい」が激しさを増しています。

ノーベル平和賞受賞者への国籍剥奪要求――ベネズエラの人権問題

もう一つの重大なニュースは、「ノーベル平和賞受賞者の国籍剝奪」をベネズエラ大統領側近が求めているという衝撃の内容です。これは民主主義や人権への挑戦ととらえられ、国内外で厳しい非難の声が上がっています。

  • ベネズエラでは、反政権活動家やジャーナリスト、NGOのメンバーが国外逃亡や逮捕を強いられるケースが増加中です。
  • ノーベル平和賞を受賞した社会活動家は、国際的に知名度が高く、その発言や活動が国内外に大きな影響を与えます。そのため、政権側は「敵対的勢力」と見なし、国籍を剥奪して発言権を奪おうとしています。
  • 国際人権団体や欧米諸国は「言論弾圧」として強い抗議を発し、制裁強化や国際司法への提訴も視野に入れています。

このような人権抑圧の状況下で、市民の自由や表現の権利は著しく制限されています。投獄・拷問・強制失踪など重い人権問題が発生し続けており、一般市民だけでなく、政府批判を続けてきた著名人さえもその標的になっています。

ベネズエラ国内では経済危機に加え、政治的な弾圧が民衆の不満を爆発させる要因になっており、「新たな社会契約」「自由で公正な選挙」を求める声が高まっています。

なぜ「世界一の石油埋蔵量」国が動揺するのか――ベネズエラの資源と経済の現実

ベネズエラはその石油埋蔵量で世界最大を誇ります。2020年末時点の確認埋蔵量は世界シェア17.5%で、サウジアラビアを抜いてトップとなっています。しかし、経済状況は芳しくなく、石油産業の衰退が社会に深刻な影響を及ぼしています。

  • 産油量の減少:2016年には日量237万3,000バレルだった原油生産量は急減し、2017年には207万2,000バレル、2025年2月にはOPEC算定で91万8,000バレル、政府申告値で102万5,000バレルと大幅に落ち込んでいます。
  • 経済の多角化失敗:石油依存があまりに高いため、世界的な原油価格の低迷、制裁による輸出減、投資不足、人材流出などが一挙に表面化しています。
  • 隣国ガイアナの台頭:近年はベネズエラの隣国ガイアナが急成長しており、2024年には日量61万6,000バレルの産油となっています。このことでベネズエラの「資源大国」としての威信にも陰りが見えてきています。
  • 政治的背景と経済制裁:マドゥーロ政権による軍人の登用や粛清、国内企業への圧力、指導層の汚職などが相次ぎ、米国やEUによる経済制裁も継続中です。制裁下で企業の操業は縮小し、支払い遅延やリグ稼働数減少など悪循環が広がっています。

石油価格の変動も経済の不安定さに拍車をかけており、原油売却益の減少は国内財政や市民生活への影響となって跳ね返っています。インフレ率の高騰、失業率増加、生活必需品や医薬品の不足は慢性的な社会問題となり、国民の不満は高まるばかりです。

歴史的背景と現在の国民生活

一度はラテンアメリカ全域で「資源で豊かな国、社会福祉が進んだ国」として注目されたベネズエラですが、近年の情勢は一転しています。

  • 資源依存からの脱却失敗:石油産業以外の産業育成・輸出拡大が進まなかったため、国際原油価格の下落とともに経済危機が深刻化しました。
  • 独自通貨の暴落・インフレ:強力な通貨安政策や金融政策の失敗が続き、日用品の価格は市民が手に入れられない水準まで高騰しています。スーパーや薬局では空棚が目立つ状況です。
  • 市民による抗議活動:民主化と自由選挙を求める市民の声は高まり、政権の弾圧や武力衝突にもかかわらず、抗議活動はやむ気配がありません。国際社会からの連帯も高まっています。

国際社会の対応と今後

先述した「不正選挙疑惑」や「人権弾圧」「石油政策の迷走」により、国際社会の対応も厳しいものとなっています。米国やEUは経済制裁を追加し、外交的圧力を強めています。国際人権団体はベネズエラ政府による市民弾圧の証拠提出、国際司法裁判所への提訴など多面的な活動を続けています。

一方で、原油生産量こそ世界一のポテンシャルを持ちながら、持続的な経済成長の実現国民の自由と安全の保障という課題は、依然解決していません。

  • ベネズエラの今後は、政治体制の正常化、持続的な資源利用、国民生活の安定化に大きくかかっています。
  • 真の民主主義、市民の人権、世界資源の健全な活用を実現するためには、国内外の冷静な対話と協調が必要です。

まとめ:ベネズエラは今、どこへ向かうのか

このように、ベネズエラでは政治・人権・経済という三つの危機が今まさに同時進行しています。前例のない規模で世界の資源を抱えつつも、市民が平和に暮らせる社会が遠のいている現実。それでも市民や国際社会の働きかけによって、一歩でも「公正で自由な社会」への道が開かれることを望みます。

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