ももクロが届けた「元気」と「寄り添い」――犯罪被害者遺族を招いた特別なクリスマスライブ
人気アイドルグループ「ももいろクローバーZ」(ももクロ)のクリスマスコンサートに、事件・事故で大切な家族を亡くした犯罪被害者遺族が招待されました。警視庁などが中心となって企画したこの取り組みは、「悲しみを抱えながら生きる人たちに、少しでも笑顔と元気を届けたい」という思いから生まれたものです。
会場となったのは、ももクロの冬の恒例公演として知られるライブ「Momoiro Christmas 2025 ODYSSEY(ももいろクリスマス2025)」。埼玉県のさいたまスーパーアリーナで開催され、多くのファンが集うなか、その一角に、警視庁などの招待で訪れた遺族たちの姿がありました。
警視庁などが主催 遺族31人をコンサートに招待
今回の企画は、警視庁や犯罪被害者支援に取り組む関係機関が共同で実施したものです。ニュースによると、合計31人の犯罪被害者遺族が、ももクロのコンサートを鑑賞しました。招待されたのは、事件や事故で配偶者や子ども、親などを失い、その後も心の傷と向き合い続けている人たちです。
日々の生活の中で、遺族が「心から楽しむ時間」を持つことは、決して簡単ではありません。特に年末やクリスマスシーズンは、かつて一緒に過ごした時間を思い出し、つらさが増してしまうという声も多く聞かれます。そうした中で、「一晩だけでも、音楽やステージに身を委ねてほしい」「笑うきっかけを持ってほしい」との願いを込めて、このコンサート招待が企画されました。
「本当に元気をもらえた」――58歳の遺族が語る気持ち
ニュース内容によれば、参加した遺族のひとりで、事件で夫を亡くした58歳の女性は、コンサート後の取材に対し、「本当に元気をもらえた」と語っています。長い時間、悲しみや不安を抱えながら過ごしてきた中で、会場全体を包む明るさや、ファンと一体となる熱気に触れ、「久しぶりに心から笑えた」といった思いがにじむコメントでした。
ももクロのライブは、激しいダンスや力強い歌声に加え、「笑顔」や「前向きさ」をテーマにした演出が特徴です。客席と一緒にジャンプしたり、ペンライトの光が会場を彩ったりと、ステージと観客の距離が近い雰囲気も魅力とされています。そうした空間に身を置いた遺族たちは、ほんのひとときではあっても、日常とは違う「明るさ」に包まれた時間を過ごしました。
ももクロの「ももいろクリスマス2025」とは
今回、遺族が招待されたのは、ももいろクローバーZの冬の大型ライブ「Momoiro Christmas 2025 ODYSSEY」です。公式サイトによると、この公演は2025年12月20日と21日の2日間、さいたまスーパーアリーナで開催されました。通称「ももクリ」と呼ばれ、春の「春の一大事」、夏の「夏のバカ騒ぎ」と並ぶ、グループの三大ライブのひとつとして、毎年多くのファンが楽しみにしているイベントです。
2025年のテーマは「ODYSSEY(オデッセイ)」、つまり「宇宙旅行」をイメージした壮大なスペクタクルライブとして企画されました。映像演出や舞台装置も工夫され、客席ごと宇宙空間へと旅立つような世界観がつくられています。その中で、ももクロのメンバーが力いっぱい歌い、踊り、会場全体にメッセージを届けました。
また、このライブは「360 Reality Audio Live」アプリを通じて生配信されることも発表されており、会場に足を運べないファンも、自宅から立体音響の迫力あるサウンドで楽しめるようになっています。会場とオンラインの両方で、多くの人の心をつなぐ試みが行われています。
さいたま新都心駅と連動した街ぐるみの盛り上げ
この「ももいろクリスマス2025」は、ライブ会場だけでなく、周辺地域とも連携して開催されました。JR東日本によると、さいたま新都心駅では、ライブ期間に合わせて大型ポスターやフォトスポットなど、ももクロとのコラボ企画が実施されています。駅構内には特大シートや装飾が設置され、ライブに訪れるファンが写真撮影を楽しめるようなスペースが用意されました。
こうした取り組みは、ライブをきっかけに地域全体を盛り上げるとともに、訪れた人が「非日常」を味わえる工夫でもあります。遺族として招待された人たちにとっても、駅に降り立った瞬間から、いつもとは違う華やかな雰囲気を感じることができたはずです。
音楽が持つ「支え」の力
犯罪被害者遺族は、突然の出来事で家族を失い、その後も裁判や手続き、生活再建など、心身ともに大きな負担を抱え続けます。周囲の理解や支援も十分とはいえず、「孤立感」や「行き場のない悲しみ」を抱える人も少なくありません。
そうした中で、今回のようなコンサートへの招待は、経済的な支援とは別のかたちで、心に寄り添う取り組みと言えます。音楽やステージは、直接問題を解決することはできませんが、「自分は一人ではない」と感じたり、「明日も少し頑張ってみよう」と思えたりする、ささやかなきっかけになり得ます。
特に、ももクロはこれまでから「笑顔」「前向き」「全力」というメッセージを大切に活動を続けてきたグループです。ファンの中には、「ももクロのライブに支えられて、つらい時期を乗り越えた」と語る人も多くいます。犯罪被害者遺族にとっても、その明るさや全力さは、心に届くものがあったことでしょう。
警視庁による犯罪被害者支援の一環として
今回の招待は、単なる「イベント」ではなく、警視庁などが主催する犯罪被害者支援の一環として行われた点にも意味があります。被害者支援というと、相談窓口の設置やカウンセリング、見舞金などがまずイメージされますが、「心のケア」は数字では表しにくく、その重要性が見えにくい部分でもあります。
そこで、音楽ライブやスポーツ観戦など、文化・エンターテインメントを通じた支援が、近年少しずつ取り入れられるようになってきました。今回のももクロのコンサート招待も、その流れの中に位置づけられる取り組みです。明るい空間で、同じように招待された人たちが隣り合って過ごす時間は、言葉にしなくても「同じ痛みを抱えた人が他にもいる」と感じられる場にもなります。
笑顔の裏にある、それぞれの物語
ステージから見れば、ペンライトを振り、リズムに合わせて身体を揺らす観客は、皆一様に「楽しんでいる人たち」に見えるかもしれません。しかし、その一人ひとりの心の中には、それぞれの事情や物語があります。今回招待された遺族も、会場で笑顔を見せながらも、心のどこかには、もう隣にいない家族の存在を感じていたかもしれません。
それでも、「亡くなったあの人が好きだった曲だから」「一緒に来たかったライブだから」という思いを胸に、ステージを見つめる時間は、悲しみと向き合いながらも、前へ進もうとする静かな決意の瞬間にもなり得ます。ニュースで伝えられた「本当に元気をもらえた」という言葉の背景には、そんな複雑な感情が折り重なっていると考えられます。
社会全体で支えるというメッセージ
犯罪被害者やその遺族をどう支えていくかは、警察や支援団体だけでなく、社会全体で考えていくべき課題です。今回、人気グループであるももいろクローバーZのライブに遺族が招待されたというニュースは、「支援は特別な専門機関だけが担うものではない」というメッセージでもあります。
アーティストやスポーツチーム、企業、地域コミュニティなど、さまざまな立場の人が、それぞれの方法で寄り添いを示すことができます。ももクロのように、「いつも通り全力でステージに立つ」こと自体が、誰かの励ましになっている場合もあります。
遺族をコンサートに招いた警視庁などの企画は、その一歩として、「エンターテインメントの力」を信じ、実際の支援の場につなげた取り組みと言えるでしょう。
「また明日から頑張ろう」と思える時間を
犯罪被害者遺族の生活は、コンサートが終わった翌日からも続いていきます。悲しみが消えるわけではなく、現実の課題もそのまま残ります。それでも、心のどこかで「あの日、会場で感じた温かさ」「あのとき、久しぶりに声を出して笑った」という記憶が、小さな支えになることがあります。
ももいろクローバーZのライブに招待された31人の遺族にとって、この日の経験は、それぞれの胸の中に違った形で残っていくでしょう。大きな声で歌に合わせた人もいれば、静かにステージを見つめていた人もいるはずです。そのどれもが、「自分なりのペースで、悲しみと共に生きていく」ための一歩です。
今回のニュースは、「音楽が人の心を支える力」と同時に、「被害者や遺族に寄り添おうとする社会の姿」を伝えてくれました。ももクロの全力のパフォーマンスと、警視庁などによる支援の思いが重なり合ったこの企画が、今後、同じように苦しみを抱える人たちへの支援の広がりにつながっていくことが期待されます。



