沖縄・石垣市の小中学生「君が代」アンケート調査決議をめぐる議論―制度と教育現場のはざまで

はじめに

2025年9月24日、沖縄県石垣市議会において、市内の小中学生を対象とした「君が代」についてのアンケート調査実施を求める決議が可決されました。この動きに対し、教育現場や保護者、専門家の間では賛否両論が巻き起こっています。この記事では、今回の決議の背景、社会的な意義、行政側や教育現場から寄せられている意見、そして日本社会における「君が代」と教育との関わりについて、わかりやすく丁寧に解説します。

1. 決議の背景と内容

  • 決議の可決:2025年9月24日、石垣市議会では与党および一部中立議員の賛成多数によって、市内の小中学生を対象に「君が代」について尋ねるアンケート実施を求める決議が可決されました。
  • 決議の主な内容:アンケートは「君が代」を音楽の授業で習ったか、入学式や卒業式で実際に歌っているか、日本の国歌を知っているか、歌うことができるか――の4項目で構成され、市教育委員会に実施が要請されています。
  • 提案理由:提案議員は「子どもたちが国歌を歌えていないという保護者の懸念がある」「学習指導要領に基づき国歌『君が代』を歌えるようになるため」と説明しています。

2. 教育関係者・市民からの反応

  • 懸念の声:沖教祖(沖縄県教職員組合)や保護者、教育専門家からは、「教職員や子どもたちへの『君が代』の押しつけや調査回答の強制につながるのでは」という懸念が示されています。教育現場の自主性や指導内容への行政介入、教職員の負担増も指摘されています。
  • 人権への配慮:調査が日本国憲法で保障される「思想・信条の自由」「内心の自由」を侵害するのではという声もあり、特に思想信条の違いが子供や家庭、教員にプレッシャーとして作用することが危惧されています。
  • 実施判断は保留:石垣市教育委員会は現時点で「今後、教育委員の意見も踏まえて対応を検討する」としており、アンケートの実施については最終決定を保留しています。

3. あべ俊子文部科学大臣の説明と国の立場

  • 文部科学大臣の見解:9月26日のあべ俊子文部科学大臣の記者会見で、石垣市の動きについて記者から質問が上がりました。大臣は「今回のアンケートは、国歌の指導を強制する趣旨ではない」と強調し、現場の実情や児童生徒の理解度把握の一環であること、児童・生徒や保護者の人権にも配慮すべきとの認識を示しました。
  • 学習指導要領の位置づけ:国語や音楽の学習指導要領には「国歌『君が代』に親しむ」ことが明記されており、「君が代」の指導は日本全国で規定されています。ただし、強制するのではなく児童生徒の発達段階や個性を考慮して行われるものとされています。

4. 「君が代」と学校教育の現状

  • 学校行事での「君が代」:多くの公立学校では、入学式や卒業式の際に「君が代」を斉唱していますが、歌詞や曲への感じ方、教育的意義の捉え方については地域差、学校差が見られます。
  • 歴史的経緯と現在の課題:「君が代」は長らく国家としての象徴である一方、歴史的背景や歌詞への異論、戦前・戦中の教育現場での使われ方を含め、今なお意見が分かれています。
  • 教育現場の葛藤:教員の中には「子どもたち自身の価値観や家庭環境、多様な背景を尊重しながら指導したい」という思いと、「法律や指導要領に基づいた教育」とのはざまで苦慮する姿が見られます。

5. 憲法と子どもの権利―「思想・良心の自由」とその守り方

  • 日本国憲法の保障:日本国憲法第19条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と規定しており、教育現場でも多様な考え方の共存が求められています。
  • 調査の人権的問題:今回の石垣市のアンケートは、実際に「君が代」を歌っているかどうかなど、個人の内心や実践に関わるため、人権を害する可能性があるとの指摘もされています。

6. 前川喜平氏(元文部科学省官僚)によるコラムと専門家の意見

  • 意見のポイント:前川喜平氏は、今回の石垣市議会の決議とアンケート調査について「学校教育の自主性、多様性が脅かされる。憲法の精神に照らして慎重であるべきだ」と指摘しています。また、「君が代」や「日の丸」のみを一方向的に強調するのではなく、歴史的背景や歌詞の意味、現代社会へのつながりを深く議論することがもっと重要だと述べています。
  • 教育現場の自主性の大切さ:過去にも同様の調査や指導が各地で問題化してきました。音楽の授業のあり方や、国旗・国歌掲揚・斉唱の意味をひとりひとりが考えること自体が、民主主義教育の根幹だという声もあります。

7. いま一度考えたい―国歌・国旗・多様性の尊重

  • 多様な社会と折り合い:国歌や国旗に込められた歴史的意義を理解することは大切ですが、同時に現代社会においては、考えや感じ方が異なることの価値も大切にしなければなりません。
  • 子どもたちへの配慮:「君が代」をただ押しつけるのではなく、その意味や歴史、様々な意見もあることを対話的に学ぶ授業づくりが今後一層求められています。子どもたちが自ら考え、自分で選び取る力を育むことこそ、学校教育の役割の一つです。

まとめ―君が代と日本の未来の教育を考える

今回の石垣市議会での「君が代」アンケート決議は、教育現場における国家観や子どもの人権、多様な価値観とのバランスを改めて社会全体に問いかけるものです。行政が掲げる「現状把握」は、現場に誤った強制や圧力、萎縮をもたらさぬよう、慎重な検討と人権的配慮が必要です。近年、日本国内外で多様性と包摂がいっそう重視される時代に、国旗・国歌という「共通のシンボル」をどう伝えていくのか。対話的な教育を通じて、子どもたちが自らの意思を大切にしつつ、多様な他者とかかわる力を養うことが期待されています。

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