香川県立体育館解体問題――揺れる歴史的建築の今
「船の体育館」旧香川県立体育館、解体をめぐる決定とその背景
香川県高松市に建つ旧香川県立体育館は、その独特な外観から「船の体育館」と呼ばれ、多くの人々に親しまれてきました。世界的建築家・丹下健三氏の設計によるこの建築は、完成当時から地域のシンボルの一つとなり、香川県のスポーツ振興にも大きな役割を果たしてきました。しかし、老朽化と耐震不足という現実を前に、香川県はこの体育館の解体を進める方針を明らかにしています。
解体決定の経緯――県の判断と理由
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耐震不足:
体育館は建築から長い年月が経過し、大規模な地震発生時の安全性に大きな不安が残るとされています。特に南海トラフ級の地震が発生した場合、倒壊の危険が高いと県は繰り返し主張しています。 -
再利用案とその難航:
体育館をホテルなど別用途に再生させる提案も民間団体から寄せられていましたが、事業の具体性や安全性などについて県と意見が一致せず、十分な活用策が示されないまま解体決定に至った経緯があります。 -
議会・県民の声:
歴史的・文化的価値の高さに鑑み、壊してしまえば二度と造れないとの危惧が議員や市民の間で強く持たれています。県議会議員の有志や市民グループからも、解体手続きの中止と十分な協議の場を求める申し入れが行われてきました。
入札手続きと池田知事の方針
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2025年9月2日、解体工事の入札開始予定:
民間団体や県議有志は入札中止を強く求めましたが、池田知事は「予定通り始める」と明言。8月末に行われた民間再生委員会との非公開協議でも、安全性や技術的な課題に関する意見交換は行われましたが、知事の方針は変わりませんでした。 -
入札予定価格:
解体工事の入札額は約9億2000万円とされています。
民間団体の動きと再生委員会の取り組み
旧香川県立体育館再生委員会は、建築家をはじめとした有識者によって構成され、主に体育館の保存と再生を目指した提案活動を続けてきました。8月28日には県との初協議が実現し、約2時間半にわたり具体案や条件、安全性について深い意見交換がなされました。再生委員会は、体育館のホテル化などによる新たな活用方法を県に働きかけていますが、県側は事業の具体性や、安全性・経済性の担保といった課題が解決されていないとして、解体方針を変更しない姿勢です。
歴史的建築の価値と保存をめぐる議論
旧香川県立体育館の建物は、戦後日本のモダニズム建築を象徴する作品として国内外から高く評価されています。特に丹下健三氏の設計は、芸術的価値のみならず地域の文化遺産として、長く後世に伝えるべきとの声も少なくありません。そのため解体問題は、単に建物の老朽化や安全性といった実利的な面だけでなく、建築・歴史・文化の観点から広く議論されています。
「船の体育館」解体に関する世論と県民感情
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保存賛成派:
歴史的・建築的価値を評価し「壊してしまえば二度と造れない」と保護・再生を求める動きが広がっています。市民グループや建築系有識者も保存活動を後押ししています。 -
解体賛成派:
老朽化と耐震不足、維持コストや用途の不明確さから、撤去して新たな使用方法や施設建設を望む声も存在します。 -
県の立場:
最終的には、大規模災害リスクへの対応と再生事業の具体性不足を理由に「予定通り解体を進める」方針で決着を図ろうとしています。
県議有志・市民グループの申し入れと今後の動き
8月29日には香川県議会議員の有志によって、知事や教育委員会に対し入札手続き中止の申し入れがなされました。申し入れでは、歴史的建造物としての価値や、再生案を真剣に検討することの重要性が強調されています。議員たちは再生委員会との協議の場を設けることも強く求めており、今後さらなる議論の場が設けられる可能性も残されています。
再生委員会の提案と課題
再生委員会が県へ提出した提案書には、体育館をホテル・文化施設として活用するアイディアや、活用後の維持コスト削減策、民間投資の促進に関する具体案などが含まれています。しかし、県側からは安全性や事業採算性、地域の公共性についてのさらなる詳細と検証が求められており、提案が具体的な実現段階に進むためには課題の解消が不可欠です。
今後の展望と香川県の課題
旧香川県立体育館の解体問題は、単なる建築物の撤去をめぐるものではありません。これは歴史的建造物の保存と都市の安全性――そして地域社会における文化遺産の活用と公共性――という普遍的な課題を孕んでいます。
今後も県、議会、市民、民間団体の間で意見が交わされていくことが予想されますが、建築の記憶をどう未来へ紡ぐかという問いは、多くの県民の心に残り続けるでしょう。
まとめ:香川県立体育館解体をめぐる諸問題への理解と対話の必要性
2025年9月2日から予定通り入札が実施される一方、保存・再生を願う声や歴史的建築としての価値を評価する意見も絶えず寄せられています。この問題は香川県の公共政策における意思決定のあり方、そして文化・歴史遺産の扱い方を問い直すものでもあり、今後の行政・市民・専門家のさらなる対話が期待されます。