サグラダ・ファミリア「イエスの塔」ついに完成 外尾悦郎さんが見つめた“ガウディの夢”の到達点

スペイン・バルセロナで144年にわたり建設が続いてきたサグラダ・ファミリア教会の中心塔、「イエス・キリストの塔(イエスの塔)」が完成しました。ローマ・カトリック教会のローマ教皇レオ14世が完成記念ミサを執り行い、世界に向けて「戦争はできない」と強い平和メッセージを発信したことで、この歴史的な節目は、単なる建築の完成を超えた大きな意味を持つ出来事になりました。

この偉業の舞台裏には、長年にわたってサグラダ・ファミリアの彫刻を手がけてきた日本人彫刻家、外尾悦郎(そとお・えつろう)さんの存在があります。ガウディの思想を受け継ぎ、教会の表情を形づくってきた外尾さんにとっても、「イエスの塔」の完成は大きな区切りとなりました。

「イエスの塔」とは何か ― サグラダ・ファミリアの“頂点”となる主塔

サグラダ・ファミリアには複数の塔がありますが、その中心にそびえ立つ最大の塔こそが「イエス・キリストの塔」です。この塔は、建物の中核に位置し、全体のシルエットを決定づける「メインタワー」として計画されてきました。

  • サグラダ・ファミリアは1882年に着工したカトリック教会の大聖堂
  • ガウディが本格的な設計と指揮を執ったが、1926年に事故で逝去
  • 当初は「完成まで300年かかる」とも言われていた長期プロジェクト
  • 技術の進歩と資金確保により、ガウディ没後100年にあたる2026年ごろの完成が目標とされてきた

その中で、「イエスの塔」は教会の象徴となる塔として、長い建設の歴史の「最終盤」を飾る存在でした。今回、この塔の構造が完成し、点灯や装飾も整えられたことで、サグラダ・ファミリアにとって大きな節目を迎えたことになります。

ただし、教会全体としての完成は、まだ約10年先とされており、残る塔や装飾、細部の工事は今後も続けられる予定です。つまり、「イエスの塔」の完成はあくまで“クライマックスへの到達”であり、物語の完全な終幕ではありません。

ローマ教皇のミサと「戦争はできない」というメッセージ

「イエスの塔」の完成記念ミサは、サグラダ・ファミリアの工事が始まってから144年という、途方もない年月を振り返る象徴的な式典となりました。ミサにはローマ教皇レオ14世が出席し、教会内外には多くの信者や市民、世界中のメディアが集まりました。

教皇はミサの中で、現在も各地で続く紛争や対立に触れ、「人は戦争をしてはならない」「戦争はできない」という趣旨の強いメッセージを発しました。サグラダ・ファミリアは、ガウディが「神への祈り」を形にした建物ともいわれますが、その中心塔が完成する瞬間に、世界平和を訴える言葉が響いたことは、多くの人にとって心に残る出来事となりました。

ガウディは生前、「私のクライアントは急いでいない(=神は急いでいない)」という言葉を残したとされています。長い時間をかけて築き上げられた教会が、戦争を否定し平和を求める祈りの場として改めて注目されたことは、現代を生きる私たちにとっても、大切なメッセージとなっています。

NHKが「メインタワー」内部を世界初撮影 ― どんな映像なのか

今回の「イエスの塔」完成に合わせて、日本ではNHKがサグラダ・ファミリアの「メインタワー」の内部を“世界で初めて”撮影したと報じられています。ニュースや特集番組では、これまで一般公開されてこなかった塔内部の構造や、工事の最前線、細部に宿る職人たちの技を伝える内容が予定されています。

塔の内部は、らせん階段や内部を貫く光の通り道など、ガウディ特有の自然を模したデザインが複雑に組み合わさる空間です。その構造は安全性や技術面の配慮から、これまで詳細に撮影・公開される機会が限られていました。しかし今回、主塔の完成という節目を受け、特別な許可のもとで撮影が行われた形です。

NHKでは、ニュースや特集番組に加え、「NHKスペシャル」としてサグラダ・ファミリアを大きく取り上げる企画も用意されています。見逃し配信やオンデマンド配信を通じて、塔内部の貴重な映像を自宅から視聴できるようになる見込みで、建築ファンだけでなく、多くの視聴者が楽しめる内容となっています。

NHKスペシャル「サグラダ・ファミリア 『イエスの塔』完成 独占密着」

「イエスの塔」完成の舞台裏を追ったNHKスペシャルでは、塔の建設に携わった人々への密着取材や、完成までの葛藤、そしてそこに流れる祈りの時間が描かれます。ガウディ没後100年という節目を前に、受け継がれてきた思想と技術、そして未来へとつながる建設のバトンがどのように渡されていくのかを見つめる内容です。

番組では、塔の外観やライトアップされた「イエスの塔」の姿はもちろん、塔頂部の細かな装飾、夜のバルセロナの街との対比など、視覚的にも印象的な映像が期待されます。また、建設に関わる人々のインタビューを通じて、「この仕事に人生を捧げる」という覚悟や、巨大建築に挑む者だけが知る喜びと苦しみが語られます。

なかでも、日本人の外尾悦郎さん

外尾悦郎さんとは ― サグラダ・ファミリアを形づくった日本人彫刻家

外尾悦郎さんは、長年にわたってサグラダ・ファミリアで仕事を続けてきた日本人彫刻家で、主任彫刻家として世界的に知られています。福岡県出身で、若くしてスペインに渡り、ガウディの建築と出会いました。その後、サグラダ・ファミリアの彫刻チームに参加し、教会の顔ともいえる部分を次々と手がけていきます。

  • サグラダ・ファミリアの「生誕の門」の彫刻制作に深く関わる
  • 「生誕の門」は2005年に世界遺産に登録され、高く評価された
  • 長年、現場を統率する主任彫刻家としてガウディの思想を継承

「生誕の門」の彫刻には、聖書の場面だけでなく、子どもたちや動物、自然のモチーフが生き生きと表現されています。それは、ガウディが自然をこよなく愛し、「自然は神の作品であり、学ぶべき教師だ」と考えていたこととも響き合います。外尾さんは、そのガウディの精神を自らの手で具現化する役割を担ってきました。

インタビューなどで外尾さんは、「いつ完成するか」だけが注目される風潮に違和感があると語っています。ガウディの遺志は、「早く完成させること」ではなく、「神への捧げものとしてふさわしい建物をつくること」であり、時間は二の次だったという考え方です。そのため、2026年の完成を盛り上げる派手な宣伝についても、「それはガウディの本意ではないのではないか」と冷静に見つめてきました。

今回の「イエスの塔」完成は、そうした外尾さんの長年の仕事と信念が、ひとつの大きな形となって結実した瞬間でもあります。ただし、外尾さん自身もたびたび語ってきたように、サグラダ・ファミリアの本質は「完成形」よりも、「永遠に続く祈りと創造のプロセス」にあるのかもしれません。

ガウディ没後100年へ ― 完成まで「さらに10年」の意味

サグラダ・ファミリアは、ガウディが亡くなった1926年から数えて没後100年となる年をひとつの区切りとして、工事を加速させてきました。当初は2026年に全体が完成するとみられていましたが、新型コロナウイルスなどの影響もあり、工期には見直しも行われました。現在は、全体の完成にはさらにおよそ10年が必要とされています。

これは、残りの塔の建設や、ファサード(正面装飾)、内部の細部に至るまでの仕上げ作業など、多くの工程が残されているためです。ガウディが生前にすべての図面を残していたわけではなく、膨大な模型やスケッチをもとに、後世の建築家や職人たちが「ガウディならどう考えたか」を想像しながら作り続けている部分も少なくありません。

技術の進歩により、コンピューター解析や3Dモデルを駆使して設計や工事が進められている一方で、最後はやはり人の手によって、石や彫刻が丁寧に仕上げられていきます。この「最新技術」と「伝統的な職人技」の融合も、現代のサグラダ・ファミリアの大きな特徴です。

「いつか行きたい人」へ ― 今のサグラダ・ファミリアの魅力

今回、「イエスの塔」の完成によって、サグラダ・ファミリアはこれまで以上に“完成形に近づいた姿”を見せています。バルセロナの街中から見上げると、中心にそびえる主塔が明確なシルエットを描き、その周りを他の塔が取り囲む壮大な姿は、まさに「都市の象徴」と呼べるものです。

サグラダ・ファミリアをすでに訪れたことがある人にとっても、10年前、20年前とは大きく違う表情を見せているはずです。塔の数も増え、内部の装飾も大きく進化しています。逆に、まだ訪れたことのない人にとっては、「建設途中の姿を見られる最後のチャンス」ともいえるかもしれません。

  • 完成に向かう途中の「変化し続ける建物」を体感できる
  • ガウディの設計思想と、現代の技術が交差する現場を見られる
  • 内部のステンドグラスや光の演出は、時間帯によってまったく表情が異なる

これから10年の間に、サグラダ・ファミリアはさらに姿を変え、完成に向けて少しずつ近づいていくはずです。今日という日を生きる私たちは、「完全にできあがった姿」を見る代わりに、「今しか見られない未完成の美しさ」を楽しむことができます。

外尾悦郎さんが教えてくれる、サグラダ・ファミリアとの向き合い方

外尾悦郎さんは、これまで多くのインタビューや講演で、「サグラダ・ファミリアの本当の魅力」について語ってきました。そのメッセージをかみ砕いていくと、サグラダ・ファミリアを見る私たちにとっても、ひとつのヒントになります。

  • 完成の日付ではなく、建物が語りかけてくる物語に耳を傾けること
  • ガウディの建築を、「不思議な形」ではなく、「自然や信仰へのまなざし」として感じること
  • 「未完成」であることを、マイナスではなく「生きている証」として楽しむこと

外尾さん自身、「自分がサグラダ・ファミリアの完成を見届けることはないだろう」と語っていました。にもかかわらず、何十年も現場に通い続けたのは、「完成を見届けるためではなく、今この瞬間の仕事が尊いから」だといえるのかもしれません。

「イエスの塔」の完成は、確かに歴史的な一歩です。しかし、それは同時に、ガウディ、外尾さん、そして無数の職人たちが紡いできた長い物語の、ひとつの章にすぎません。これから先も、サグラダ・ファミリアは静かに変化を続け、訪れる人それぞれに、新しい気づきや感動を与え続けてくれるでしょう。

もしテレビやネットで、「イエスの塔」完成のニュースやNHKスペシャルを目にする機会があれば、ぜひ外尾悦郎さんという名前にも注目してみてください。日本からガウディの夢に挑み続けてきたひとりの彫刻家の存在を知ることで、サグラダ・ファミリアはきっと、もっと身近で、もっと温かい物語として感じられるはずです。

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