日航機墜落事故から40年――遺族の思いと「安全文化」への新たな誓い

昭和最大の航空事故――御巣鷹山への墜落

1985年8月12日、日本航空123便(通称:日航ジャンボ機)は羽田空港を出発し、大阪・伊丹空港へ向けて飛び立ちました。しかしその途中、高度7,200m地点で機体後部の圧力隔壁が破壊され、それに伴い油圧制御装置や垂直尾翼も損壊、ほぼ完全に操縦不能の状態に陥りました。機体は迷走飛行を続け、約32分後、群馬県多野郡上野村の御巣鷹山尾根に墜落。乗員乗客524名のうち520名が犠牲となりました。これは単独機による航空事故としては日本、そして世界史上最悪の事故です

  • 事故発生:1985年8月12日 18時56分ごろ
  • 墜落場所:群馬県多野郡上野村 御巣鷹の尾根
  • 死者:520人
  • 生存者:4人(奇跡的に機体後部座席にいた方のみ)

事故の直接の原因は、製造元ボーイング社による圧力隔壁の不適切な修理と設計上の欠陥でした。事故をきっかけに、航空機の安全基準や運航体制は劇的に強化され、「安全文化」の発展に大きく寄与しました

空白の44分間――家族を待ち続けた遺族の想い

事故で家族を失った遺族の人生は、大きく変わりました。たとえば、事故で父親を失い、当時高校3年生ながら「喪主」を務めた男性。突然の通知を受けた瞬間から現実とは思えない感覚が続き、「感覚がまひしていた」と語ります。遺体確認の時まで、父の帰りを信じていた日々。彼は「周囲の大人と話しても、頭が真っ白で、ただ待ち続けるしかなかった」と回顧しています。

遺族の多くは、事故現場での身元確認や葬儀さえも、深い実感なく耐えるしかありませんでした。静かに涙した日々の中で、それでも自分自身や家族を支え続けました。事故から40年、当時の「まひした感覚」はやがて哀しみや怒り、そして記憶として心に刻まれ、今なお語り継がれる事実となっています。

「安全の文化」を未来へ――御巣鷹慰霊登山とシンポジウム

2025年、事故から40年を迎える今年も、事故現場・御巣鷹山では遺族や関係者による慰霊登山が行われています。520人もの命が一瞬で奪われた悲劇を忘れず、「再発防止」と「安全への誓い」を新たにする場として続けられています。

  • 登山は毎年8月12日前後に実施
  • 遺族やJAL関係者、救助に当たった地元住民らが参列
  • 事故を“語り継ぐ”活動や「安全の文化」啓発が重要視されている

さらに、40年という節目の2025年11月8日には、群馬県上野村で初めてとなる安全文化に関するシンポジウムが予定されています。事故の詳細な検証や、その教訓をいかに未来の世代に伝えるかについて議論されるほか、遺族の思いや、群馬県民・航空業界関係者の声も幅広く取り上げられる見込みです。今後も、悲劇を繰り返さないために「安全文化」の継承は社会にとって欠かせない課題です。

残された者の「40年」――癒えぬ心、そして伝える使命

事故で家族や知人を亡くした人々にとって、この40年は「喪失」と「記憶」との闘いでした。残された家族は、自分自身が生き抜いて前を向くために、ひたすら歩き続けてきたと言います。「父をこの手で弔ったとき、ようやく現実に向き合えた」と語る方もいます。

事故の記憶は、遺族だけではなく社会全体の記憶である――そんな思いから、遺族たちは慰霊登山や語り部として活動を続け、安全な空の旅の実現に向けて声を上げています。「520人の犠牲を決して無駄にしない」――これが、今を生きるすべての人々へのメッセージです。

教訓から生まれた「安全啓発」

事故後、国土交通省やJALをはじめとする航空業界では、「再発防止」「安全文化の構築」といったキーワードのもと、多くの改革が進められました。JALでは安全啓発センターを設置、事故の教訓を幅広い層に伝えるための活動を継続。技術面だけでなく、ヒューマンエラー対策やコミュニケーションの徹底など、組織全体での安全体制強化が図られるようになりました。

  • 安全啓発プログラムの実施
  • 航空機部品の非破壊検査や修理基準の強化
  • 現場スタッフの研修や意識改革
  • 利用者への情報公開と誠実な説明責任重視

これら事故を契機とした変革の数々は、今なお「安全文化」を支える礎となっています。そして遺族や関係者の声も、未来の航空安全を築くための貴重な財産です。

世代を超えて紡がれるもの――語り継ぐ責任

事故から40年経った今でも、毎年多くの方が御巣鷹の尾根を訪れ、犠牲者の冥福を祈るとともに、「命の重さ」「再発防止」の大切さを胸に刻み直しています。事故の教訓は、単なる“記憶”ではなく、世代を超えて「語り継ぐべき歴史」です。

航空機事故だけではなく、どんな分野・状況でも「安全」への追究は終わることがありません。正しい情報の共有、失敗や過ちの徹底的な検証、そして人と人が心を寄せ合い助け合う社会づくり――事故の教訓にはこうした普遍的な願いも込められています。

最後に、事故で亡くなられたすべての方々のご冥福と、ご遺族の心の平安をお祈り申し上げます。そして、あの日の誓いが今も、そしてこの先も、社会を支える大きな力であり続けることを、全員で確かめ合いたいと思います。

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