水素燃料電池自動車の新たな時代―無錫市の2025年度プロジェクト始動と日本自動車業界への影響

2025年9月、中国無錫市が発表した「2025年度水素燃料電池自動車(FCV)デモンストレーションプロジェクト」の公示が、日本の自動車業界と技術開発に多大な影響を与えています。2社53台規模という、この地域での大規模な取り組みが、自動車とエネルギーの今後を大きく変える契機になると注目されています。

水素燃料電池車(FCV)とは?

FCV(Fuel Cell Vehicle)とは、水素と酸素の化学反応から発電して走行する自動車のことです。排出されるのは水のみで、二酸化炭素(CO2)や有害物質をほとんど出さない環境性能の高さから、次世代のエコカーとして日本を含む世界で研究と導入が進められています。また、水素エネルギー自体も再生可能エネルギーから製造できるため、「本当のゼロ・エミッション車」とも言われています。

無錫市の水素プロジェクトとは?

  • 主な内容: 無錫市が2025年度のFCV推進プロジェクトを発表。2社が選定され、合計53台の水素自動車が公的デモンストレーション事業の対象となります。
  • 目的: 地域経済の活性化と低炭素社会モデルの確立、新産業創出を目的としています。
  • 背景: 中国全土において水素社会のモデルケースづくりが活発化しており、今後の国家戦略に位置付けられています。

日本におけるFCV開発の現状と課題

日本は、トヨタ・ホンダ・日産など自動車メーカーがいち早くFCVの研究開発・量産化に取り組んできました。例えば、トヨタのMIRAIやホンダのクラリティ・フューエルセルなどは、既に一般ユーザー向けに販売されています。日本政府も「カーボンニュートラル」「ゼロエミッション化」実現のため、水素を柱とするエネルギー政策を推進しており、国内製造業・インフラ企業が一体となって水素社会の構築を目指しています。

  • 主な取り組み:

    • 水素ステーション網の拡充
    • 再生可能エネルギーからの水素製造
    • 自動車技術とエネルギーマネジメントの高度化
  • 課題:

    • 水素供給インフラの整備コスト・安全性
    • FCV本体価格の高さ
    • ユーザー認知と採算性の確立

日中水素モビリティ競争とグローバル展開

無錫市のプロジェクトは、中国が国家レベルでFCVや水素技術の商業化・実用化を加速している象徴です。これにより日本企業が先駆してきた技術競争が激化しています。さらに、FCVに関連する次世代部品・バッテリー・充填設備、インフラ整備、独自の知財戦略など競争分野が広がりつつあります。

技術者の視点からみる水素エネルギーの可能性

例えば、日本国内の学術会議や技術展示会でも、燃料電池自動車および関連システム技術の進展が毎年取り上げられています。2025年春にはパシフィコ横浜で自動車技術会の学術講演会が開催されました。燃料電池、水電解によるグリーン水素製造、さらには航空機向けの水素ガスタービンエンジンの研究など、多岐にわたる最先端研究が進められています。

  • 産業界の発言: 「2050年ゼロ・カーボン社会実現のため、電動化技術や水素利活用、次世代交通社会のモデルを世界に先駆けて実現していきたい」
  • 産学官連携: 東京大学・名古屋大学などが企業と連携し、燃料電池の高効率化・長寿命化技術の研究を推進しています。

水素社会実現までのロードマップと今後の展望

日本を含むアジア各国が「水素社会」構築を目指しています。無錫市のプロジェクトや日本企業の取り組みから、水素の『製造(発電)→運搬→蓄積→利用』まで一貫したサプライチェーンをどう構築するかが次の焦点となりそうです。

インフラ整備や技術標準化、法規制との整合、他燃料との競合力強化といった課題は残っていますが、アジア発の新しいモビリティ・エネルギーイノベーションとして期待されています。日本国内でも、産業界・自治体・大学が連携した実証事業や地域水素ステーションの数が着実に増加していることから、近い将来、一般ユーザーの暮らしの中にも水素エネルギーがより身近な存在になるかもしれません。

宮崎敏郎氏の視座から―自動車業界と水素技術の未来

著名な自動車技術者であり多数の研究成果を持つ宮崎敏郎氏もまた、過去のインタビューや学術論文の中でこう語っています。

  • 「水素社会実現のカギは、ユーザー視点の使いやすさとコストダウン。エンジニアとして“クリーン”だけでなく“楽しいモビリティ”を目指したい」
  • 「中国や北欧など世界の先進モデル事例を貪欲に吸収し、日本らしい効率的かつ安全な社会インフラを技術者全体で創っていくべき」

このような志のもと、宮崎氏をはじめとする技術者たちの研究が、次世代FCVの実用化や新しい都市インフラのデザイン、そして地球環境への貢献につながっていくことでしょう。

おわりに―これからの社会と水素自動車

2025年、無錫市のような都市型パイロットプロジェクトが東アジアの次世代エネルギー・モビリティ政策をリードする中、日本の自動車業界や市民の日常も徐々に「水素社会」の輪郭をつくり始めています。環境技術・新モビリティ産業の未来は、今まさに新たな一歩を踏み出そうとしています。今後も両国の動向から目が離せません。

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