高島屋堺店、61年の歴史に幕へ 「最後までおもてなし」を掲げたファイナルセールがスタート
大阪・堺市の百貨店「高島屋堺店」が、2026年1月7日をもって営業を終了します。1964年の開店からおよそ60年以上にわたり地域に親しまれてきた老舗百貨店が、ついにその歴史に幕を下ろすことになりました。館内では現在、「最後までおもてなし」を合言葉に、感謝を込めたファイナルセールや、歩みを振り返る企画展などが行われています。
1964年開店、堺東駅前とともに歩んだ「堺タカシマヤ」
高島屋堺店は、1964年10月4日に開店しました。開店当時から南海高野線・堺東駅に直結
高島屋の発表によると、堺店は開店以来、約60年にわたって地域の生活に根ざした品ぞろえやサービスを展開し、食料品売場の改装や大型テナントの導入など、時代に合わせた店舗づくりを進めてきました。百貨店売り場と専門店を合わせた売場面積は約2万5000平方メートルにおよび、堺の「顔」として市民に知られてきました。
営業終了の理由 コロナ禍以降も戻らなかった客足
長い歴史を持つ堺店が営業終了に至った背景には、業績の悪化があります。高島屋によると、同店は2021年2月期から4期連続で赤字となっており、新型コロナウイルス禍による来店客減少の影響から十分に回復できませんでした。
また、高島屋は会社としての説明の中で、中長期的に黒字化の目処が立たないこと、そして建物の賃貸借契約の満了時期を踏まえた判断であることを明らかにしています。こうした要因を総合的に勘案し、2026年1月をもって堺店の営業を終了する決定が取締役会で行われました。
コロナ禍を契機に、全国の百貨店がインバウンド需要の減少や外出控えの影響を受けましたが、堺店もその流れの中で客足の回復が十分ではなかったとされています。加えて、消費者の購買行動がネット通販や郊外型ショッピングセンターへ移る中、都心型・駅前型百貨店としての在り方が問われる状況でもありました。
「最後までおもてなし」ファイナルセールと感謝企画
営業終了が発表された後も、堺店は閉店日まで通常営業を続けています。店内では、これまでの感謝を込めた「ファイナルセール」が開催されており、各階でさまざまな割引やお買い得企画が行われています。
地元メディアによると、館内では「感謝袋」と題した福袋のような商品企画も登場し、長年の常連客やかつて通っていた人たちが思い出を語り合いながら買い物を楽しむ姿が見られるといいます。食品、衣料品、生活雑貨など、日常を彩ってきた売り場が、最後までにぎわいを保てるよう工夫が凝らされています。
高島屋は、公式のお知らせの中で「長らくのご愛顧に対し心より御礼申し上げる」としたうえで、営業終了に伴い不便をかけることへのお詫びを表明しています。その姿勢は、「最後の一日までお客様をお迎えする」という百貨店ならではのおもてなしの精神にも通じています。
「堺タカシマヤ61年の歩み展」 思い出を共有する場に
堺店では、店舗の歴史を振り返る企画展も開催されています。「堺タカシマヤ61年の歩み展」と題されたこの展示は、館内5階の特設会場で行われており、1964年の開店当時の写真や、当時の広告ビジュアルなどがパネルで紹介されています。
展示会場には、来店客から寄せられたメッセージや思い出の写真も並び、「子どものころ家族で来た」「入学式のスーツをここで買った」など、世代を超えて堺店と関わってきた人々のエピソードが集められています。堺店オリジナルキャラクターとして親しまれてきた「古墳ワンピースのローズちゃん」も展示されており、堺らしいユニークな文化発信の歴史も感じられる内容です。
この企画展は、2025年12月10日から2026年1月7日まで開催される予定で、まさに最終日まで堺店の歩みを見届ける場となります。「懐かしいね」「こんなイベントもあったね」と写真をのぞき込みながら語り合う姿は、堺タカシマヤが地域の思い出の「舞台装置」だったことを物語っています。
テナントも相次ぎ閉店 広がる「堺東の節目」
堺店の営業終了は、本館だけでなく、館内テナントにも大きな影響を与えています。書店チェーンの丸善 高島屋堺店は、2026年1月7日をもって営業を終了すると発表し、「長らくのご愛顧、まことにありがとうございました」と閉店を知らせています。
また、リラクゼーションサロン「ナチュラルガーデン 高島屋堺店」も、高島屋堺店の閉館に伴い、同じく2026年1月7日で営業終了となることを明らかにしました。店舗の公式サイトでは、「長きにわたるご愛顧に心より感謝申し上げます。最終日まで、皆様のご来店を心よりお待ちしております」とメッセージが添えられています。
このように、本館の閉店に合わせて、数多くのテナントも堺東の地を離れることになります。長年「高島屋の中に行けば何でもそろう」と言われてきた館内の専門店街が一体となって幕を閉じることは、地域にとっても大きな節目と言えるでしょう。
市民からは「寂しい」の声 生活の一部だった百貨店
地元テレビ局の取材では、買い物客から「閉まってしまうのは寂しい」「昔、子どもを遊ばせた思い出がある」といった声が相次いでいます。堺東駅前という日常の動線に位置していたことから、「待ち合わせは堺タカシマヤの前で」「お祝いごとの贈り物はここで選ぶ」といった、生活の習慣そのものに組み込まれていた存在でした。
子どものころ、屋上の遊具コーナーやおもちゃ売り場を楽しみにしていた世代も多く、親子三代にわたって利用してきた家族も少なくありません。店内のレストランでハレの日の食事をしたり、入学・卒業の節目にフォーマルウェアを購入したりと、人生の節目を彩る場所でもあったことがうかがえます。
今後の買い物は大阪店・泉北店へ 跡地には新たな商業施設の見通し
高島屋は、堺店の営業終了後について、大阪店や泉北店を中心に、引き続き顧客の受け入れ体制を整えるとしています。同じ大阪府内の店舗間でサービスを引き継ぎ、堺店で培った顧客との関係を今後も大切にしていく方針です。
一方で、堺店の跡地については、報道により新たな商業施設がオープンする見通しが伝えられています。具体的な業態やオープン時期などは今後明らかになる見込みですが、半世紀以上にわたり堺の中心市街地のシンボルだった建物が、新たな形で活用される可能性があります。
高島屋堺店という大きな看板は下ろされるものの、その場所がこれからも人々の集いの場として使われていくならば、地域のにぎわいのバトンが手渡されるとも言えそうです。
「最後までおもてなし」の気持ちで迎える最終日まで
営業終了のお知らせの中で、高島屋は「堺店をご利用いただいているお客様には、ご不便をおかけする」としながらも、「今後も各店で一層のサービス向上に努める」としています。堺店に足を運ぶと、売り場のスタッフがいつも通りに明るく接客をしている姿が印象的で、最後の時まで百貨店らしい丁寧なおもてなしを貫こうとする姿勢がうかがえます。
館内の案内ポスターや特設コーナーには、「長年のご愛顧に感謝を込めて」「思い出をお寄せください」といった温かい言葉が並び、訪れる人にとっては買い物だけでなく、自分の人生と堺タカシマヤとの関わりを振り返る時間にもなっています。
高島屋堺店の営業終了は、百貨店業界が直面する構造変化を象徴する出来事でもありますが、同時に、一つの店が地域に与えてきた影響の大きさを改めて感じさせる出来事でもあります。ファイナルセールや企画展には、「最後にもう一度、あの場所へ行っておきたい」という思いを抱いた多くの人々が足を運ぶことでしょう。
61年にわたって、堺の街の日常とハレの日を見つめ続けてきた「堺タカシマヤ」。2026年1月7日の最終日まで、「最後までおもてなし」の心を大切にしながら、その長い歴史に静かに幕を下ろします。



