韓国、TPP加盟検討を正式表明 —米中摩擦と今後の貿易のゆくえ—
はじめに
2025年9月3日、韓国政府は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、通称CPTPPへの加盟を正式に検討する方針を明らかにしました。米中摩擦の激化や、米国による高関税政策の影響を背景に、今後の韓国経済・アジア太平洋地域に大きなインパクトをもたらす動きとして注目を集めています。
TPP(CPTPP)とは何か
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、日本やオーストラリアなど12カ国が加盟し、域内での貿易の自由化や経済的な協力の深化を目指す大型の自由貿易協定です。2018年に発効したCPTPP(包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定)は、加盟国間の関税の撤廃や規制緩和を進めています。新たな加盟国が加わるには、現加盟国すべての同意が必要となっています。
韓国による加盟検討の背景と動機
今回の決定の背景には、米国と中国への貿易依存リスクの顕在化があります。米中間の摩擦の激化と、米国による高関税政策の導入によって、韓国経済に大きな影響が及んでいます。韓国政府はこうしたリスクを分散し、貿易の多角化を進める必要があると判断しました。
- リスク分散:特定の国への過度な依存からの脱却を目指す
- 貿易多角化:より多様なパートナーと安定した貿易関係の構築
- 経済安定:長期的な経済安全保障の強化
日韓関係の変化と国内調整
実は、韓国のTPP加盟検討は今回が初めてではありません。2020年の文在寅政権時代にも一度検討が表明されていましたが、当時は国内の農業関係者の強い反発や、日韓関係の悪化による政治的な摩擦から議論は停滞していました。
李在明政権は、今回は「類似した立場の国同士の経済同盟ネットワークを強化するため」TPP加盟が不可欠だとし、停滞していた議論の再開と加盟への道を本格的に模索するとしています。
韓国国内の課題と争点
TPP加盟に際して、韓国国内ではいくつかの課題が浮かび上がっています。なかでも特に重要なのが、農業・水産業の市場開放問題と水産物輸入規制の見直しです。
- 農業分野の懸念:海外産品との競争激化による国内農家の収益悪化や雇用問題。
- 水産物輸入規制:TPP加盟国からの輸入水産物の安全性と規制緩和への国内不安。
- 食品安全・検疫問題:放射性物質検査や輸入基準をどう調整するかが大きな争点。
このため、政府内でも産業界・農業界・消費者団体などとの対話や調整が求められています。
TPP加盟で韓国にもたらされる効果
韓国にとってTPP加盟は、単なる貿易協定の枠を超え、地政学的・経済的なシフトの意味を持つ可能性があります。主な効果は以下の通りです。
- 経済の成長機会拡大:約5億人規模の市場へのアクセスが可能に。
- 関税障壁の撤廃:加工品や自動車など主力輸出産業への恩恵。
- グローバル・サプライチェーンの強化:複数国での分業が加速し、安定的な部品・原材料調達を実現。
- 他国との経済協力強化:日豪などとの通商関係が一層密接に。
特に韓国にとっては、「米中対立」による外的ショックを緩和し、中立的な貿易枠組みの中で安定した経済運営を図る意義が大きいといえるでしょう。
加盟交渉の今後の流れ
TPP加盟を果たすには、次のプロセスを踏む必要があります。
- 国内手続きと調整:法整備や業界調整、影響評価。
- 既存加盟国との公式協議:全12カ国の同意取り付け。
- 加盟条件の調整:農業・水産分野や知的財産など分野ごとの譲歩内容の交渉。
特に全加盟国の同意は簡単に得られるものではなく、加盟国ごとに異なる関心や条件があり、粘り強い外交折衝が続く見通しです。
アジア太平洋経済の広がりと韓国の役割
TPPはもともとアジア太平洋地域での自由貿易拡大を目的とした枠組みです。経済規模や産業のバランス、法規制の共通化など、多国間での調整が問われています。
韓国がこの協定に加わることで、今回あらためて日本、オーストラリア、カナダ、シンガポールなどとの結びつきが強化され、域内経済の競争力が一層高まることが期待されます。加えて、韓国が今後のデジタル経済やグリーン経済分野での国際ルールづくりにも積極的な存在となる可能性が高まります。
アメリカ・中国との関係
TPP加盟をめぐり、アメリカや中国との経済・外交関係も無視できません。アメリカはもともとTPPの枠組みを主導していましたが2017年に離脱。中国は現在、RCEPとCPTPPの両方への関心を強めています。韓国の加盟は、2大国とのバランスを図る上でも戦略的意味をもちます。
韓国市民の声と今後の課題
市民や業界団体からは、TPP加盟への期待と懸念が混在しています。
- 「輸出機会の拡大による雇用創出効果を期待する」
- 「国内農業や水産業への影響を懸念し、十分な支援策を求める」
- 「食の安全基準の緩和に反対する声」
こうした幅広い意見を踏まえ、韓国政府は社会的な対話や十分な情報公開、業界支援の強化が欠かせません。
おわりに
韓国政府の今回のTPP加盟検討表明は、自国経済の安定を模索しつつ、世界的な貿易環境の変化に主体的に対応しようという意思の表れです。今後国内外での議論や交渉が続きますが、アジア太平洋地域の経済統合にとっても極めて重要な一歩となるでしょう。