大阪市の障害者就労支援給付金過大受給疑惑、全事業所へ実態調査~14都府県にも波及
大阪市で障害者の就労支援を行う一部の事業所が、給付金を過大に受け取っていた疑惑が明らかになりました。この問題を受けて、大阪市は市内すべての障害者就労支援事業所を対象に、給付金の受給実態について大規模な調査を開始しました。本記事では、現時点で報じられている内容をもとに、調査の背景や現在の進捗、今後の展開、関係機関や社会への影響について詳しく解説します。
事案の概要と発覚経緯
給付金過大受給疑惑は、福祉事業会社「絆ホールディングス」に関連する5つの事業所で明らかとなりました。障害者の就労支援を標榜しながら、利用者を自らの事業所で雇用した後、一度利用者の立場に戻してから再び雇用するなどの手法で、繰り返し加算金を申請していたとされます。これにより、20億円以上の給付金を過剰に受け取っていた疑いが示されています。
市は、この事態を重く見て、2025年11月17日から、全ての障害者就労支援事業所(合計1649事業所)を対象にした実態調査を開始しました。調査は2025年11月28日までに各事業所から回答を求めており、通常とは異なる申請や不正が疑われる状況が判明した場合には、重点的な監査をさらに進める方針となっています。
調査の主なポイント
- 障害者就労支援加算金の申請がルールどおりに行われているかの点検
- 過大受給の手口やその再発防止策の徹底
- 全事業所に対するヒアリングおよび書類調査の実施
- 事業所による自主的な返還の有無や対応状況の確認
これらの調査を通じて、市は不当な申請がなされていなかったかの全容解明を目指すとしています。また、事業所に対しては精神的・業務的な負担が大きいものの、信頼回復のためにも正確な回答と協力が求められます。
14都府県に波及する給付金受給問題
さらに本件は、大阪市のみならず14都府県に波及していることも判明しました。具体的には、同様の就労支援加算金について、多数の市町村で給付金の受け取りが報告されており、全国で104の市町村が関連給付金の過大受給やその可能性について調査を進めています。
この広がり方から、行政側だけでなく障害者支援サービス全体の制度が、悪意ある手法に対してどこまで抑止力を持っていたのかというシステム的な課題も浮き彫りになっています。もともと障害者自立や社会参加の促進を目的とした重要な福祉制度に対して、信頼回復と制度の公平性確保のための早期対応が求められています。
行政の対応と現場の声
- 大阪市の横山英幸市長は「調査により状況を的確に把握し、通常では考えられない不審なケースには重点的に監査を進める」との方針を発表
- 市は、既に関係事業所に対し必要書類の提出およびヒアリング調査を開始
- 「ルール遵守」を再度徹底する旨、事業所向けに通知
- 他自治体にも調査協力と再発防止策の導入を要請
この件を受けて、現場の障害者支援スタッフからは「支援の現場が一部不正によって疑念の目で見られるのはつらい。自分たちは日々、利用者の自立のため真摯に働いている」との声が多く上がっています。また、「まじめな事業所ほど過度な書類負担や対応に悩む」といった現実的な悩みも噴出しています。
給付金加算制度の仕組みと課題
障害者就労支援に対する給付金加算は、利用者が一定条件を満たして就労または訓練参加した場合に、国や自治体から事業所へ支給される仕組みです。多くの現場では、給付金はスタッフ配置や職業訓練の設備投資、利用者の交通・弁当支給等に活用されています。しかし今回のケースのように、加算申請の根拠となる手続きが複雑なため、不正や抜け道が生じやすい現状も以前から指摘されていました。
- 通常:利用者が事業所で一定日数、所定の支援を受けることで加算を申請
- 問題点:利用者の出席日数や就労状況を不正に記録・重複申請することで過大な加算金が支給されてしまう仕組みの穴が存在
大阪市や関係自治体は今回の調査を受けて、制度運用チェック体制や事業所向け研修、ガイドラインの見直しなど、法令遵守と透明性を高める対策に着手しています。
過去の同様事例と再発防止策
大阪市では過去にも、障害福祉サービス事業者による給付金の不適切受給が発覚し、指定取り消しや返還請求といった厳しい対応を行ってきた経緯があります。今回も不正が明らかになった事業所には、指定取り消しや給付金の返還要求など法的措置が取られる見通しです。また、全国的にも施設側への監査強化や、障害者雇用・支援事業の透明性向上が制度見直し議論の重要テーマとなっています。
- 職員の倫理研修および不正防止ガイドラインの再徹底
- デジタル管理による出席記録や加算申請手続きの厳格化
- 第三者機関による定期的なモニタリングの実施
- 通報・相談窓口の新設、および利用者・家族へのルール啓発の強化
今後の制度運用と市民・利用者への影響
今回の問題は、障害者支援の公正性や信頼性を大きく揺るがす事件であり、すべての関係者にとって重大な教訓となる出来事です。一方で、就労支援を受けている利用者やその家族にとって、自らの福祉制度が適切に機能することは生活基盤に直結します。市民・利用者が安心して支援を受けられるよう、制度の運用改善と信頼の再構築が不可欠です。
行政は状況が明らかになり次第、その都度公表し、透明性の高い運営および再発防止に努める方針です。今後も大阪市および関係自治体の最新報告・動向には十分な注視が求められます。
まとめ
- 大阪市の一部福祉事業所で就労支援給付金の過大受給疑惑が発覚
- 市は全ての障害者就労支援事業所(1649か所)に調査を開始
- 同様の問題は14都府県・104市町村にも拡大
- 信頼回復と制度の透明性確保のため、今後も厳しい調査と再発防止策が求められる
障害者支援制度の健全な運営には、現場の誠実な努力と、行政による厳格な監視、そして市民一人ひとりの関心と理解が不可欠です。市民や事業者はより良い制度づくりに参加する意識を持ち、今後も不正の起きにくい社会を目指して歩みを進めていく必要があります。


