三菱ケミカル、希望退職者を募集 事務職中心に大規模な人員適正化策を発表
三菱ケミカル株式会社は、2025年9月28日深夜に希望退職募集を行う方針を発表しました。今回の募集は、国内の事務職を中心に対象とし、募集人数は定めず、この施策に係る費用として約300億円を特別損失として計上する見込みです。日本を代表する大手素材メーカーの人員再編策に、産業界や社会から大きな注目が集まっています。
なぜ今、希望退職を実施するのか――背景と目的
三菱ケミカルは、これまでの年功序列型の雇用制度から「ジョブ型」と呼ばれる職務や専門性による評価制度への移行を加速させてきました。
- グローバル競争が激しさを増す中で人材の専門性と流動性を高める必要性が強く指摘されてきました。
- 国内市場の人口減少や少子高齢化といった環境変化に柔軟に対応し、競争力ある組織体制へ改編する意図があります。
特に今後は「成長戦略実現に必要なケイパビリティを持つ人材」の最適配置や、「専門性の高い多様な人材が活躍する組織」を目指し、人材ポートフォリオの抜本的な見直しを迫られている段階です。
募集の詳細——対象・期間・優遇措置
2025年9月時点での情報によれば、希望退職の募集人数自体は特に決めていないものの、対象となるのは国内の事務職が中心です。募集の時期や最終的な退職日は、社内告知や今後の公式リリースで改めて明言される予定ですが、
通常の退職金に「割増退職金」が加算されるほか、希望者には再就職支援サービスも提供されます。
- 概算300億円を特別損失として計上予定
- 「人数を定めない」方式で余剰人員の自主的応募を促進
- 早期退職による割増退職金など優遇制度
- 再就職エージェント等による転職支援
従業員数や待遇の現状
三菱ケミカルの2025年3月期決算データによれば、
- 平均年収は1,060万円
- 平均年齢は47.6歳
- 離職率は2.47%(2023年度)
- 有給取得率は80.6%(2023年度)
- 中途採用比率は51.2%(2023年度)
比較的恵まれた処遇が続いていましたが、日本全体の終身雇用体制の揺らぎ、ジョブ型雇用へのシフトといった大きな流れの中で、今後の人材戦略の転換点に立たされているといえます。
過去の希望退職募集との位置づけ
三菱ケミカルが希望退職者を大規模に募るのは初めてではありません。2020年11月にも、50歳以上かつ勤続10年以上の管理職などを対象に希望退職」を実施し、最大50か月分の賃金上乗せや再雇用支援を実施しています。
この時は国内だけでなくグローバルに競争力を維持するため、「年功序列」から「ジョブ型」制度への移行を円滑に進める目的で大規模な人員見直しを図りました。グローバル大手企業特有の「キャリア自立化施策」ともいえる選択制リストラであり、今回の施策も同じ流れを引き継ぐものです。
三菱グループ他社や国内大手に広がる「黒字リストラ」時代
三菱ケミカル以外でも、昨今大手企業による「黒字リストラ」や「構造改革型の希望退職募集」が拡大しています。直近ではグループ企業の三菱電機も、人員体制の最適化に向けて53歳以上を対象に早期退職者を募集するなど、富士通・NECなどと並び、国内製造業において人材構造の変革が進んでいます。
- 「黒字経営下」での人員整理は、今や珍しくありません。
- 長年勤続の社員に新たなキャリア選択肢と経済的余裕を提供しつつ、世代交代と専門性強化を同時に進める意図があります。
- 特にホワイトカラー・大手企業ではこの傾向が強まりやすい状況です。
産業界・従業員・求職者への影響
こうした動きが活発化するなかで、現役社員への心理的不安や離職リスクの増加が懸念されている一方、社外では三菱ケミカルの中途採用比率が50%を超え、多様な人材流入とジョブ型組織への転換を加速させています。
有給取得率や働き方改革推進などで優れた職場環境を維持しつつも、「定年まで安泰」だった従来の雇用モデルに大きな転機が訪れた象徴的な事例といえるでしょう。
また、340億円規模のコストをかけてでも人材再編成を断行するという企業姿勢は、日本産業界全体の変革スピードや人材活用の考え方に大きな影響を与えています。
今後の企業戦略と社会的な意義
三菱ケミカルは、希望退職者のスムーズなキャリア移行を支援しつつ、自社組織内での専門職・研究開発職などへの投資と再配置、人材育成の強化、さらなるグローバル化対応など、次世代に向けた変革を本格化させます。
転職市場でも三菱ケミカル出身者の経験やスキルは高く評価される傾向が強くなっており、「キャリア自立」の波は今後さらに加速する見込みです。
- 従業員にとっては「人生100年時代」に向けた新たなキャリア設計機会
- 求職者・転職志望者には、三菱ケミカルグループの多様な職種・分野で活躍できる可能性
- 日本経済全体にも、中高年の再就職市場活性化や産業構造転換への示唆
三菱ケミカルは今後も、社会的責任・従業員支援と経営効率化を両立させつつ、
国際競争力の高い企業モデルを目指して新たな人材マネジメント政策を断行していくと見られています。
まとめ ── 新しい働き方、そして雇用モデルの転換点
今回の三菱ケミカル希望退職者募集は、国内大企業の「安定雇用モデル」の転機を象徴するとともに、従業員自身のキャリア自律化=「自ら選ぶ働き方」の時代が本格到来したことを物語っています。「黒字リストラ」やジョブ型雇用への転換といったテーマは、今後も多くの産業・企業に広がり、私たち一人一人の働き方や人生設計にも大きな変革をもたらすでしょう。