FRBの12月金利判断、雇用統計の発表が鍵に~政府閉鎖の影響が続く中での難しい決断

10月FOMC後の急展開:パウエル議長のサプライズ発言

米連邦準備制度理事会(FRB)は10月28日から29日にかけて開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で、市場予想通りフェデラルファンド(FF)金利を0.25%(25ベーシスポイント)引き下げることを決定しました。これにより、FF金利の誘導目標は3.75%~4.00%に設定されています。同時にバランスシート縮小(QT)を12月1日で終了することも決定され、金融緩和の方向性が明確になったかに見えました。

しかし、その後のパウエル議長の記者会見での発言は市場に大きなサプライズをもたらしました。次回12月のFOMC会合での利下げについて、議長は「決まったことではなく、むしろその逆だ」と明言したのです。この発言を受けて、金融市場では急速に環境が変わりました。FOMC公表前日の10月28日には利下げ確率が99.9%と織り込まれていたのに対し、FOMC後の29日には68.9%まで低下してしまったのです。

政府閉鎖が招く統計空白:雇用統計の遅延

12月の利下げ判断が不確定になった背景には、米国政府の部分閉鎖が大きく関係しています。政府機関の閉鎖により、労働省などが発表する重要な経済統計の公表が見送られている状況が続いているのです。最も重要な指標である米雇用統計も延期されたままであり、FRBが経済判断を下すための重要な情報が不足しているのが現状です。

パウエル議長は記者会見で、政府の閉鎖が継続する中で労働市場の実態が把握しにくくなっていることを認めました。同時に、統計が発表されないことで12月会合での利下げの判断ができない可能性まで示唆しています。言い換えれば、雇用に関する悪いニュースが出ていない状況では、景気が思ったより強いという判断になり、利下げの必要性が低下するということです。

複雑な経済環境:雇用と景気の見方が分かれる

現在の米経済は非常に複雑な状況に置かれています。一つの見方としては、インフレが足元で比較的落ち着いていることから、金融市場では2025年から2026年の景気見通しを上方修正する動きが強まっています。景気が思ったより強いのであれば、FRBが利下げによって景気を支える必要性は低いということになります。

一方で、既に弱めの動きとなっている雇用が想定よりも悪化する場合には、追加的な利下げによる対応が必要になるという見方も存在します。10月のFOMC声明では「雇用の下振れリスクが高まった」という判断が維持されており、労働市場への懸念は払拭されていません。実際、雇用増加は年初から大幅に鈍化しており、この減速の相当部分は移民減少と労働参加率の低下による労働供給の減速を反映している可能性が指摘されています。

12月FOMCの可能性:三つのシナリオ

パウエル議長の発言を踏まえると、次回12月のFOMCにおける政策判断は、今後の経済データ次第で複数の選択肢が考えられるようになりました。第一のシナリオは利下げの継続です。雇用統計が予想以上に悪化する指標が公表される場合、FRBは経済を支援するために追加の利下げを決定する可能性があります。

第二のシナリオは利下げの一時停止です。景気が堅調に推移し、インフレが抑制されている状況が確認されれば、FRBは政策金利を据え置く判断をするかもしれません。実際に、今回のFOMC投票でも反対票を投じた委員がいました。ミラン理事は50ベーシスポイントの利下げを主張し、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は据え置きを主張していたのです。

第三のシナリオは利上げの検討です。景気が予想以上に強く、インフレが再び上昇する懸念が高まった場合、FRBは政策方針を転換する必要に迫られるでしょう。ただし、現在のところこのシナリオの可能性は低いと考えられています。

雇用統計発表の重要性が急増

このような背景の中で、今後公表される雇用関連指標の重要性がかつてないほど高まっています。政府機関の閉鎖が終了し、雇用統計が正常に発表されるようになれば、FRBの政策判断に大きな影響を与えることになるでしょう。特に、雇用増加のペースが予想より悪いのか、それとも実は堅調なのかという点が、12月FOMC会合での利下げ判断を左右する最大のポイントになります。

投資家や市場参加者も同様の観点からこれからの雇用統計の発表を注視しています。次回の雇用統計で同様の悪化が見られた場合、利下げ判断に影響を及ぼす可能性があるとの見方が市場に広がっているのです。

今後のシナリオと投資への影響

政府機関の閉鎖がいつまで続くのかもまた重要な要素です。閉鎖が長期化すれば、経済統計の公表遅延がさらに続き、FRBの判断材料が限定されたままになります。これは市場の不確実性を高め、ボラティリティの上昇につながる可能性があります。

一方、FRB内でも意見が分かれていることが明らかになりました。賛成票を投じたのは12名中10名でしたが、反対票を投じた2名の委員が主張する「より積極的な利下げ」や「据え置き」という見方も無視できません。このように政策委員会内での意見の多様性が、今後の政策判断の予測を難しくしています。

市場の見通しと企業・家計への影響

パウエル議長のサプライズ発言以来、米国債の利回りが短期から超長期にかけて上昇しており、金融市場全体が調整局面を迎えています。これは、市場が現在のところ景気が思ったより強いという判断に傾いていることを示しています。

企業と家計の観点からすると、金利の上昇トレンドが続けば、借り入れコストが増加する可能性があります。特に、不動産ローンや企業向けの借り入れに影響が出やすくなります。一方、銀行などの金融機関にとっては、利ザヤの拡大につながる可能性があり、業種によって影響が異なります。

結論:雇用統計が決める12月の政策方針

結論として、12月のFOMC会合での政策判断は、今後公表される雇用統計と経済指標によって大きく左右されることは間違いありません。政府閉鎖の影響で統計空白が生じている現在、雇用統計の発表は市場と投資家にとって極めて重要なイベントとなります。悪いニュースが出なければ利下げしにくくなり、一方で雇用が想定より悪化すれば利下げは不可避となるでしょう。

今後数週間の経済統計の発表状況が、米金融市場全体の方向性を決める重大な局面を迎えているのです。投資家にとっては、政府機関の再開時期と雇用統計の内容に最大限の注意を払う必要があります。

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