リース・プレスコッド、物議をかもす「エンハンスト・ゲームズ」の100m種目に参戦表明
イギリスの元陸上短距離選手、リース・プレスコッド(Reece Prescod)が、物議を呼んでいる新大会「エンハンスト・ゲームズ(Enhanced Games)」の男子100mに出場することを表明し、世界の陸上界で大きな波紋が広がっています。
「ドーピング容認」とも言われるこの大会への参加を決めたのは、かつて世界の舞台で活躍し、9秒台を持つトップスプリンター。彼の決断に対して、陸上界の関係者や主管組織からは強い懸念と批判の声があがっています。
リース・プレスコッドとはどんな選手?
まずは、今回のニュースの中心人物であるリース・プレスコッドについて、わかりやすく整理しておきましょう。
- 1996年2月29日生まれのイギリス人短距離選手
- 専門種目は100mと200m
- 自己ベスト:100m9秒93(向かい風 -1.2m/s)で、イギリス歴代4位の記録
- 2018年ヨーロッパ選手権100m銀メダル獲得
- 2022年世界選手権4×100mリレーで銅メダル獲得
- 東京オリンピックでは男子100m準決勝に進出するも、フライングで失格という波乱も経験
- 国内では100mイギリス選手権を2度制覇(2017年、2018年)しているトップスプリンター
世界大会のメダルを持ち、9秒台を何度も記録している選手であることから、プレスコッドはイギリスを代表するスプリンターの一人として長く知られてきました。
しかし、彼は2025年8月に現役引退を表明しており、一度は「元選手」となっていました。 そんな彼が引退後に選んだ新たな舞台が、今回話題となっているエンハンスト・ゲームズです。
エンハンスト・ゲームズとは?
今回のニュースを理解するうえで重要なのが、このエンハンスト・ゲームズという大会の性質です。
報道によると、この大会は従来のオリンピックや世界選手権とは大きく異なり、禁止薬物を含む「パフォーマンス向上手段」を事実上容認するコンセプトで計画されている、非常に物議をかもすイベントです。
- ドーピングを禁止する従来のスポーツの価値観に真っ向から挑戦するような大会
- 公式な国際競技連盟やオリンピック運動とは別の枠組みで開催予定
- 「強化(Enhanced)」という名称自体が、薬物などによる身体能力の底上げを連想させる
現在、この大会は各国の陸上競技団体やスポーツ組織から厳しい目で見られており、スポンサーや放送局もほとんどついていない状況だと報じられています。
プレスコッドの参戦表明の中身
イギリスの新聞「The Times」の報道などによれば、プレスコッドは男子100m種目の出場選手としてエンハンスト・ゲームズにコミットしたとされています。
- 彼は10秒の壁を破った「サブ10秒スプリンター」としては、同大会への参加を表明した3人目の選手と報じられています。
- エンハンスト・ゲームズの100mは、主催者側にとって「目玉種目」のひとつであり、プレスコッド級の選手がそろうことで、注目を集めようとしているとみられます。
また、彼の自己ベスト9秒93という記録は英国歴代4位であり、このクラスの選手がドーピング容認色の強い大会へ向かうことは、競技界全体にとって象徴的な出来事となっています。
陸上界からの強い批判と懸念
プレスコッドの決断に対し、陸上競技の関係者や指導的立場にある人々からは、強い懸念と批判の声が上がっています。
報道では、陸上界の「チーフ」「トップ」たちが、この決断を公然と非難していると伝えています。 その理由には、次のようなポイントがあります。
- ドーピングを容認する大会に参加することは、クリーンスポーツの理念に反するという考え方
- 若い選手たちに、「薬物を使ってでも強くなればよい」という誤ったメッセージを与えかねないという懸念
- プレスコッドは元オリンピアンであり、世界大会のメダリストでもあるため、その影響力の大きさが特に問題視されている
また、エンハンスト・ゲームズそのものについても、スポーツビジネスやスポンサーの観点から厳しい評価が出ています。
- 報道によると、この大会は現在、主要なスポンサーや放送パートナーをほとんど獲得できていないとされています。
- ドーピングへの厳しい姿勢が世界的に広がる中、企業イメージを重視するスポンサーにとって、この大会への協賛はリスクが高いと見られているようです。
なぜこの決断がこれほど問題になるのか
プレスコッドの参戦表明が大きく取り上げられている背景には、スポーツにおける「公正さ」や「安全性」への強い関心があります。
近年、世界のスポーツ界では、ドーピングを防ぐために厳しい検査やルールが導入されてきました。これは、
- 選手同士が公平な条件で競い合うこと
- 薬物の乱用から選手の健康を守ること
といった目的のためです。
ところが、エンハンスト・ゲームズは、そうした流れと真逆の方向に進んでいると受け止められています。
特に、プレスコッドのように、すでに世界の大舞台で成功をおさめた選手がこの大会に加わることで、
- 「トップ選手もやっているのだから、自分も」という心理的なハードルの低下
- 若い世代に対する間違ったロールモデルの提示
といった影響が懸念されています。
リース・プレスコッドのキャリアと今回の決断の重み
プレスコッドは、純粋な競技成績だけを見れば、イギリス陸上界において確かな実績を持つエリートスプリンターです。
- 2017年世界選手権100m決勝進出(7位)
- 2018年ヨーロッパ選手権100m銀メダル
- 2022年世界選手権4×100mリレー銅メダル
- ダイヤモンドリーグ・上海大会で100m優勝(2018年)
こうした経歴から、彼は「クリーンな条件の中で結果を出してきたトップアスリート」として、多くのファンや若い選手にとって憧れの存在でもありました。
その彼が引退後、ドーピング容認色の強い大会に進むという決断は、キャリア全体の文脈から見ても非常に重い意味を持ちます。
もちろん、本人には経済的理由や競技への未練など、さまざまな背景がある可能性も考えられます。ただし、現時点で報道されている範囲では、彼自身の詳しい心境や判断の理由は大きく語られていません。
エンハンスト・ゲームズをめぐる今後の行方
エンハンスト・ゲームズは、まだ初開催を控えた段階にあり、その成否や社会的な受け止められ方は、今後の動き次第で大きく変わっていくと見られています。
- 主催者側は、プレスコッドのような実績ある選手の参加を足がかりに注目を集めようとしているとみられます。
- 一方で、国際陸連や各国の陸上競技連盟は、こうした大会を公認しない姿勢を維持すると考えられます。
- スポンサーや放送局がどこまで関わるかによって、この大会の規模や影響力は大きく左右されるでしょう。
その中で、プレスコッドのような元オリンピアンの決断は、今後の議論のひとつの象徴として、長く語り継がれる可能性があります。
私たちがこのニュースから考えられること
今回のニュースは、単に「一人の選手が新しい大会に出る」という話に留まりません。スポーツの価値とは何か、記録と健康、倫理のバランスをどう考えるかといった、より大きなテーマを投げかけています。
特に、短距離100mという種目は、「人間がどこまで速く走れるのか」を象徴する種目として、古くから世界中の人々を魅了してきました。その記録が、科学的なトレーニングや用具の進歩を超えて、薬物によって塗り替えられていくとすれば、それをどう受け止めるのかは、観る側にも問われる問題です。
リース・プレスコッドの今回の決断は、賛否両論を呼びつつも、スポーツのあり方が大きく変わろうとしている「境界線」の一つを示していると言えるかもしれません。
今後、エンハンスト・ゲームズに誰が参加し、世界のスポーツ界がそれにどう向き合うのか。プレスコッドの名前は、その議論の中で何度も登場することになりそうです。



