第62回全国大学ラグビー選手権3回戦、伝統と新風がぶつかる一日へ
第62回全国大学ラグビーフットボール選手権大会は、いよいよ3回戦を迎えました。ノックアウト方式のトーナメントで、ここからは「負ければ終わり」の真剣勝負。各地の会場では、ファン待望の好カードが並び、年末の大学ラグビーシーズンが一気にヒートアップしています。
中でも注目を集めているのが、かつて大学ラグビー界を沸かせた早稲田大学対関東学院大学の一戦、そして関西勢として「4強の壁」突破を狙う京都産業大学の戦いです。この記事では、3回戦当日の情報とともに、話題のカードや主将のコメントなどを、ラグビー初心者の方にもわかりやすくお伝えします。
3回戦の主なカードと会場情報
3回戦は、関東の秩父宮ラグビー場と、ラグビーの聖地として知られる花園ラグビー場を中心に開催されます。当日の主な対戦カードは次のとおりです。
- 東洋大学 vs 帝京大学(秩父宮ラグビー場、11:30キックオフ)
- 早稲田大学 vs 関東学院大学(秩父宮ラグビー場、14:00キックオフ)
- 関西学院大学 vs 福岡工業大学(花園ラグビー場、12:00キックオフ)
- 京都産業大学 vs 慶應義塾大学(花園ラグビー場、14:00キックオフ)
帝京大学や早稲田大学といった、近年の大学ラグビーをけん引してきた名門に加え、東洋大学や関東学院大学、京都産業大学、慶應義塾大学など、個性と伝統を併せ持ったチームが顔をそろえています。
秩父宮ラグビー場:東洋大vs帝京大、そして「伝統の一戦」早大vs関東学院
まず、3回戦の舞台として大きな注目を集めるのが秩父宮ラグビー場です。この日、秩父宮では2試合が組まれています。
重量級FW対決・東洋大学vs帝京大学
第1試合は東洋大学 vs 帝京大学。どちらも重量級フォワード(FW)を武器とするチームで、スクラムやラインアウト、モールといったセットプレーで激しいぶつかり合いが予想されます。
東洋大学は関東リーグ戦2位での出場で、FW8人の合計体重が860kg(1人平均107.5kg)と、迫力あるパワーを誇ります。一方、大学選手権で連覇中の帝京大学もFW8人で835kg(1人平均104.4kg)と、サイズではやや劣るものの、これまで培ってきた経験値と完成度の高い組織力が持ち味です。
どちらが先に主導権を握るかは、FWの密集戦と、ブレイクダウンでの激しさにかかっているといえるでしょう。早いテンポでボールを動かしたい東洋大学が、機動力あるアタックで帝京ディフェンスにどこまで揺さぶりをかけられるかも見どころです。
「6年連続決勝カード」が3回戦で復活:早稲田大学vs関東学院大学
第2試合は、今大会3回戦の中でも特に話題となっている早稲田大学 vs 関東学院大学です。このカードは、2001年度から2006年度まで、なんと6年連続で大学選手権決勝を戦った組み合わせとして知られています。当時の6度の決勝は、早稲田が3勝、関東学院が3勝と五分の戦績で、大学ラグビー史に残る名勝負の数々を生み出しました。
その後、両校が大学選手権で顔を合わせる機会は減り、この「伝統の一戦」が大学選手権で実現するのは2011年度以来とされています。かつての決勝カードが、今回は3回戦という早い段階で実現し、ファンの注目度は自然と高まっています。
早稲田大学は、今季の関東大学対抗戦で3位という成績。優勝をかけた早明戦では、前半10-10の接戦から後半に逆転を許し、タイトル奪取はなりませんでした。しかし、その敗戦がチームの気持ちをかえって奮い立たせる結果となり、選手たちは「厳しい山に入ったことはわかっている。やるしかない」と、選手権に向けて強い覚悟を口にしています。
一方の関東学院大学は、関東大学リーグ戦で粘り強い戦いを続け、青ジャージの東海大学など強豪と互角に渡り合いながら成長を見せました。特に、モールを武器としたセットプレーの強化が光り、東海大戦ではモールでインゴールをこじ開けるなど、復活の兆しを感じさせる内容でした。その結果、関東学院大学は14大会ぶり22回目の大学選手権出場を決め、再び全国の舞台へ戻ってきています。
この試合のポイントとして挙げられているのが、FWによるセットプレーです。早稲田側も「関東学院大のモールは要注意」と見ており、関東学院のNo.8リー・ティポアイールーテルを中心とした強力モールを、早稲田FW陣がどこまで押し返せるかが勝負を左右しそうです。
また、早稲田はメンバー構成を一部入れ替え、これまで主に関東大学ジュニア選手権を戦ってきた選手たちにもチャンスが与えられています。ラストイヤーにかける4年生の思いや、スタメンに選ばれた選手たちの「ここで存在感を示したい」という気持ちがプレーにどう表れるかも、見どころの一つです。
花園ラグビー場:関西勢とリーグ戦勢の意地がぶつかる
もう一つの会場である花園ラグビー場では、関西勢と九州勢、そして伝統ある関東の私学がぶつかり合います。
関西学院大学vs福岡工業大学:粘り強さと意地のぶつかり合い
第1試合は関西学院大学 vs 福岡工業大学です。関西学院大学は関西リーグ3位で選手権出場を決めており、怪我で戦列を離れていた主力選手たちも徐々に復帰してきているとされています。チームとしての完成度がどこまで高まっているかを確認したい一戦です。
一方、福岡工業大学は、朝日大との接戦を1点差で制して大学選手権出場をつかみ取りました。点差のない緊迫した試合展開の中でも粘り切る勝負強さが持ち味で、この3回戦でも序盤からしっかりと食らいつき、接戦に持ち込めるかが鍵となります。
解説では、「福工大としては序盤から粘って僅差のゲームを作っていけるかどうか、前半が大事」と指摘されており、前半の入り方ひとつで試合の流れが大きく変わる可能性があります。
京都産業大学vs慶應義塾大学:「4強の壁」を破りたい京産大と、セットプレーに自信を持つ慶應
花園の第2試合、そして関西のファンが特に注目するのが京都産業大学 vs 慶應義塾大学です。京都産業大学は関西Aリーグ2位で、13大会連続39回目の大学選手権出場という実績を誇ります。一方の慶應義塾大学は、関東大学対抗戦5位の位置から、トーナメントでの上位進出を狙います。
両校は、現在のトーナメント形式になってから大学選手権で3度対戦しており、その戦績は慶應の2勝1敗。
- 2018年度 3回戦 慶應 43 – 25 京産
- 2020年度 3回戦 慶應 47 – 14 京産
- 2022年度 準々決勝 京産 34 – 33 慶應
2022年度の準々決勝では、京都産業大学が1点差で慶應を退けており、両校の実力は拮抗しています。京産大は、外国人選手を起点としたパワフルなアタックで相手を圧倒したいところですが、今季は「これまでほどパフォーマンスは高くない」とする見方もあり、チームとしてのまとまりと試合運びの巧さが問われる試合になるでしょう。
対する慶應義塾大学は、今季チーム状態が上向きとされ、主力である小野澤選手の先発復帰など、メンバー面でも明るい材料が出てきています。粘り強いディフェンスとセットプレーで食い下がり、京産大の強みである接点の激しさにどこまで対抗できるかがポイントです。
京産大主将・伊藤森心「僕が火つけ役になれたら」――4強の壁に挑む想い
この京都産業大学をけん引するのが、主将の伊藤森心(いとう・しん)選手です。日刊スポーツのインタビューで伊藤主将は、「僕が火つけ役になれたら」という言葉で、自身の役割とチームへの思いを語っています。
京都産業大学は近年、大学選手権でベスト4(4強)に迫りながらも、あと一歩届かない試合が続いてきました。いわゆる「4強の壁」を破ることが、チームにとって大きな目標となっています。その中で伊藤主将は、自らが先頭に立って激しいタックルと泥くさいプレーを見せ、仲間たちの闘志に火をつけたいという強い覚悟を示しています。
選手権はトーナメント形式のため、一度のミスや一瞬の隙が、そのままシーズンの終わりにつながってしまう厳しい大会です。だからこそ、主将のリーダーシップや、1プレーに懸ける気迫が試合の結果に直結します。伊藤主将の言葉は、その重みをよく理解したうえでの決意表明ともいえるでしょう。
大学ラグビー選手権3回戦が持つ意味――帝京の連覇か、明治・早稲田の巻き返しか、関西勢の台頭か
大学ラグビー全国大学選手権は、12月14日に3回戦を迎え、ここから準々決勝、準決勝、決勝へと一気に進んでいきます。近年は帝京大学が圧倒的な強さで優勝を重ねており、今大会でも「5連覇」がかかる状況です。
一方、伝統校である明治大学早稲田大学は、「帝京一強」の流れに終止符を打つべく、選手権での巻き返しを狙っています。さらに、京都産業大学をはじめとした関西勢や、今回対戦する関東学院大学、東洋大学などのリーグ戦勢も、番狂わせを起こす力を秘めています。
3回戦は、ある意味で「勢力図」が見え始めるラウンドでもあります。帝京、早稲田、明治といった優勝候補が順当に勝ち上がるのか、それとも関西勢やリーグ戦勢が歴史に残るアップセットを起こすのか――。80分ずつの試合の積み重ねが、やがて頂点への道を形作っていきます。
ラグビーファンも、初心者も楽しめる「大学ラグビーの今」
今回の3回戦は、かつての名勝負カードの復活から、新たなスターの台頭、そして各大学の「紡いできた歴史」と「今の若者たちの挑戦」が交差する一日になりそうです。
- 早稲田vs関東学院という、2000年代の大学ラグビー黄金期を知るファンにはたまらないカード
- 帝京大学の5連覇への挑戦と、それを止めようとする各校の意地
- 京都産業大学・伊藤森心主将に象徴される、「4強の壁」を越えたいという強い思い
ラグビーをこれから見始める方にとっても、大学選手権は非常にわかりやすい大会です。「負けたら終わり」のトーナメント形式で、どの試合も全力勝負。難しいルールがわからなくても、ボールを追いかける選手たちの真剣さや、試合後に笑うチームと泣くチームがはっきり分かれるドラマは、きっと心に響くはずです。
第62回全国大学ラグビー選手権3回戦は、そんな大学ラグビーの魅力がぎゅっと詰まった一日となります。伝統の一戦、初挑戦の舞台、そして主将たちの熱い言葉。そのすべてが、冬のラグビーシーズンを彩ります。



