泊原発の再稼働をめぐって
北海道電力が運営する泊原子力発電所3号機の再稼働をめぐり、今、北海道で大きな議論が広がっています。再稼働の是非について、地元住民や市民団体、自治体、そして北海道庁の間でさまざまな意見が交わされており、エネルギー政策だけでなく、安全や暮らしの問題としても注目されています。
再稼働の動きと電気料金の見通し
北海道電力は、泊発電所3号機の再稼働に向けた取り組みを着実に進めています。2025年7月30日には、原子力規制委員会から3号機の原子炉設置変更許可が下り、再稼働への大きな一歩を踏み出しました。この許可は、福島第一原発事故後の新規制基準に適合していることを意味しており、北海道電力は「安全性を最優先に取り組んでいる」と説明しています。
同社は、再稼働後には電気料金の値下げも見込んでいると発表しています。具体的には、泊原発3号機の再稼働によって、家庭用電気料金を約11%程度引き下げることが可能になると説明会などで明らかにしています。北海道のようにエネルギー資源に乏しい地域では、原発の稼働が電力の安定供給と経済効率性の両立に貢献するとされています。
北海道知事の「現実的な選択」という判断
北海道の鈴木直道知事は、2025年11月28日の道議会で、泊原発3号機の再稼働について「原発の活用は現実的な選択と考えている」と明言しました。知事は、道民の間には不安や懸念があることを認めつつも、次のような理由から再稼働を支持する考えを示しています。
- 電力供給の安定化
- 電気料金の引き下げ
- 脱炭素電源としての役割
特に、北海道では次世代半導体の量産を目指すラピダスの工場や大規模なデータセンターの稼働が控えており、今後、電力需要がさらに増えることが予想されています。こうした中で、泊原発3号機が地域の電力需要の5分の1から3分の1をまかなえるとされ、再稼働は電力価格や供給の安定に大きな影響を与えるとされています。
地元4町村との意見交換と安全性の議論
泊原発の立地に近い地元4町村(泊村、神恵内村、積丹町、古宇郡の一部)との間でも、再稼働をめぐる議論が続いています。2025年12月上旬、北海道庁と北海道電力は、地元自治体の首長らと意見交換を行いました。この場では、「安全性の確保には終わりがない」という認識が共有され、万が一の事故に備えた防災対策や避難計画の徹底が重要だという意見が強調されました。
地元4町村の議会は、それぞれ早期再稼働を求める意見書を採択しており、町村長も再稼働への理解を表明しています。北海道庁は、こうした地元の判断を重く受け止めつつ、道議会の議論を踏まえて最終的な判断を下していくとしています。
住民説明会で反対意見が相次ぐ
一方で、再稼働に反対する声も根強くあります。2025年11月15日、北海道と資源エネルギー庁が旭川市で開いた住民説明会では、泊原発3号機の再稼働に反対する意見が相次ぎました。参加者からは、「福島の教訓を忘れてはいけない」「原発に頼らずに再生可能エネルギーでやっていくべきだ」「避難計画が本当に実効性があるのか不安だ」といった声が聞かれました。
エネルギー庁は、国の第七次エネルギー基本計画に基づき、「再生可能エネルギーか原子力かという二項対立ではなく、脱炭素電源を最大限活用することが必要不可欠だ」と説明。北海道電力も、「安全性を前提に、安定供給と経済効率性、環境適合を同時に達成することが重要」として、泊原発の重要性を強調しています。
346団体が署名を提出、平和運動フォーラムが反対の声を上げる
再稼働に反対する市民の動きも活発です。2025年12月上旬、北海道平和運動フォーラムなど346の市民団体が、泊原発3号機の再稼働に反対する署名を北海道に提出しました。署名には、原発のリスクや福島事故の記憶を踏まえた「もう一度原発に頼るべきではない」という強い思いが込められています。
提出を受けた北海道庁は、こうした声も真摯に受け止め、安全性や防災対策の説明をさらに丁寧に行っていく必要があると認識しています。市民団体側は、「電気料金の問題よりも、命と安全が最優先だ」と訴え、再稼働の容認には慎重な姿勢を求めています。
社説「再稼働容認、住民の不安解消が最優先」
最近の社説では、「泊原発の再稼働を容認するとしても、住民の不安を解消することが最優先だ」という意見が強調されています。原発の再稼働は、電力の安定供給や経済的なメリットだけでなく、住民の信頼と安心がなければ成り立たないという指摘です。
社説は、以下のような点を重要視しています。
- 安全対策の透明性と徹底
- 避難計画の実効性と周知
- 住民との対話の継続
- 再稼働後のモニタリングと情報公開
「原発に頼るかどうかは、技術的な問題だけではなく、社会的な合意の問題でもある」とし、北海道電力や行政が、住民の声に耳を傾けながら、丁寧な説明と対話を重ねていくことが求められています。
今後の見通しと課題
北海道電力は、泊原発3号機を2027年初頭に、他の2基を2030年代前半までに再稼働させる方針を示しています。そのためには、今後も安全対策工事(例:高さ19メートルの防波堤など)を着実に進めるとともに、住民や自治体との信頼関係を築いていく必要があります。
北海道庁は、道議会の議論や地元4町村の意見、そして市民団体の声を踏まえて、最終的な判断を下していくとしています。再稼働の可否だけでなく、そのプロセスがいかに公正で透明なものになるかが、今後の信頼を左右する鍵となるでしょう。
まとめ:泊原発をめぐる多様な声
泊原発3号機の再稼働をめぐる議論は、単なる電力政策の話ではなく、北海道の未来、暮らし、安全、環境、そして地域の信頼をどう守っていくかという大きなテーマを含んでいます。
電気料金の引き下げや電力の安定供給、脱炭素社会の実現というメリットがある一方で、原発事故のリスクや避難の現実性、住民の不安という課題も確かに存在します。北海道電力や行政、自治体、そして市民の間で、こうした多様な声を丁寧にすり合わせながら、北海道にとって本当に「現実的で、安全な選択」がなされていくことが期待されます。



