トランプ大統領と金正恩氏、再会談の可能性が浮上

2025年10月27日、アジア歴訪中のドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談に前向きな姿勢を示したことで、国際社会の注目が集まっています。トランプ氏はマレーシアから東京に向かう大統領専用機の機内で記者団に対し、「彼と会いたい。彼が会いたければ」と明言し、韓国訪問中の会談実現に意欲を見せました。

トランプ氏は「私は金正恩氏と非常に良い関係を維持してきた」と強調し、「彼が会いたければ、私は韓国にいるだろう」と付け加えました。さらに、金委員長との会談のためにアジア歴訪日程を延長する可能性について問われると、「それはまだ考えていないが、おそらくそうだと言えると思う」と答え、柔軟な対応を示唆しました。別の報道では「考えたことはないが、私の答えは『もちろん。そのようにしよう』だ」とも述べています。

2019年以来の「サプライズ会談」再現の可能性

今回の発言は、トランプ氏が今回のアジア歴訪中、何度も金正恩氏との会談意向を表明してきたことの延長線上にあります。トランプ氏は24日にも専用機で記者たちに対し、韓国訪問中の非武装地帯(DMZ)での会談可能性について質問を受けた際、「彼が連絡すればそうしたい」と答えていました。

その際、トランプ氏は「前回(2019年6月)彼に会った時は私が韓国に来るという事実をインターネットに公開した。彼が会いたければ、私は確かに開かれている」と言及しました。2019年6月30日、トランプ氏は現職の米大統領として初めて北朝鮮の領土に足を踏み入れ、板門店で金正恩氏と歴史的な会談を行いました。今回の発言は、あの時のような「サプライズ会談」の再現を示唆するものとして受け止められています。

「核兵器保有国」としての北朝鮮への言及

注目すべき点として、トランプ氏は北朝鮮を「一種のニュークリアパワー(核兵器保有国)」と呼んでいます。この表現は、北朝鮮の核保有の現実を事実上認める発言として解釈できます。これまで米国をはじめとする国際社会は、北朝鮮を核保有国として公式に認めることを避けてきました。しかし、トランプ氏のこの発言は、北朝鮮との対話を進める上で、現実的なアプローチを取る姿勢を示しているとも考えられます。

このような表現を使うことで、トランプ氏は金正恩氏に対して一定の敬意を示し、対話のテーブルに着くよう促している可能性があります。北朝鮮は長年、核保有国としての地位を国際社会に認めさせることを外交目標の一つとしてきました。トランプ氏の発言は、こうした北朝鮮の立場に一定の配慮を示すものと言えるでしょう。

トランプ大統領のアジア歴訪日程

トランプ氏は10月26日、マレーシアで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席し、アジア歴訪をスタートさせました。その後、27日から29日まで日本を訪問し、続いて韓国の慶州で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、29日から30日にかけて韓国を訪問する予定です。

この訪韓日程を機に、トランプ氏と金正恩氏の「サプライズ会合」の可能性が一部で提起されてきました。特に、トランプ氏が韓国滞在中にDMZを訪問し、そこで金正恩氏と会談するというシナリオが注目されています。2019年の板門店会談の前例があることから、今回も同様のサプライズ演出が行われる可能性は十分にあると見られています。

韓国政府の反応

韓国政府は、今回のAPEC首脳会議が朝米首脳会談の良い機会になるとの立場を示しています。統一部のク・ビョンサム報道官は27日の定例会見で、関連質問に対し「今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)契機が朝米首脳が会える良い機会だという点をもう一度申し上げる」と明らかにしました。韓国政府としても、朝米対話の再開を通じて朝鮮半島の緊張緩和が進むことを期待している様子がうかがえます。

会談実現の障壁

しかし、朝米首脳会談の実現には依然として障壁も存在します。北朝鮮の労働党機関紙「労働新聞」によると、北朝鮮外交トップの崔善姫外相がロシアとベラルーシ外務省の招待でこれらの国を訪問するため、前日に平壌を離れたことが明らかになりました。外交トップが国外にいることから、朝米首脳会談の可能性は低いのではないかという見方も出ています。

また、会談が実現するためには、北朝鮮側からの明確な意思表示が必要です。トランプ氏は一貫して「彼が連絡すれば」「彼が会いたければ」という条件付きで会談への意欲を示していますが、北朝鮮側がどのような反応を示すかは現時点では不明です。

金正恩氏の東南アジア外交

一方、金正恩氏自身も近年、東南アジア諸国との関係強化を図ってきました。北朝鮮は伝統的に非同盟運動の一員として、東南アジア諸国とは比較的良好な関係を維持してきた歴史があります。特に、ベトナムやラオスなどの社会主義国家とは、イデオロギー的な親近性もあり、緊密な関係を築いてきました。

2019年2月には、ベトナムのハノイで第2回米朝首脳会談が開催されました。金正恩氏はこの機会にベトナムを訪問し、ベトナムの指導者たちとも会談を行いました。このように、東南アジアは北朝鮮にとって重要な外交舞台となっており、金正恩氏は国際的な孤立を打破するため、この地域との関係強化に力を入れていると見られています。

過去の朝米首脳会談の経緯

トランプ氏と金正恩氏は、2018年6月にシンガポールで初めての首脳会談を行いました。これは史上初の米朝首脳会談として世界中の注目を集めました。両首脳は共同声明に署名し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて協力することで合意しました。

その後、2019年2月にはベトナムのハノイで第2回会談が開催されましたが、非核化の具体的な措置や制裁解除をめぐって意見が対立し、合意には至りませんでした。しかし、同年6月には板門店で両首脳が会談を行い、作業レベルでの協議を再開することで合意しました。

それ以降、実質的な進展は見られていませんでしたが、今回のトランプ氏の発言により、朝米対話が再び動き出す可能性が出てきたと言えるでしょう。

国際社会への影響

朝米首脳会談が実現すれば、北東アジアの安全保障環境に大きな影響を与えることになります。日本政府は、拉致問題の解決を最優先課題としており、朝米対話の進展を注視しています。また、中国やロシアも朝鮮半島情勢の安定化に関心を持っており、朝米対話の行方を見守っています。

一方で、北朝鮮の核・ミサイル開発は依然として国際社会の懸念事項です。国連安全保障理事会の制裁決議も継続されており、北朝鮮が具体的な非核化措置を取らない限り、制裁解除は困難な状況です。トランプ氏が金正恩氏との会談でどのような成果を引き出せるかが、今後の焦点となるでしょう。

今後の展望

トランプ氏の韓国訪問は29日から30日にかけて予定されており、その間に朝米首脳会談が実現するかどうかが最大の注目点となっています。仮に会談が実現すれば、2019年6月以来、約6年ぶりの対面での首脳会談となります。

ただし、外交専門家の間では、短期間での突然の会談では実質的な成果を上げることは難しいという慎重な見方も出ています。非核化の具体的な工程や検証方法、制裁解除の条件など、解決すべき課題は山積しており、これらを短時間の会談で解決することは現実的ではないとの指摘もあります。

それでも、首脳同士が直接対話することには大きな意義があります。信頼関係の構築や相互理解の深化は、長期的な問題解決の基礎となるからです。トランプ氏と金正恩氏の「個人的な良好な関係」が、膠着状態にある朝米関係を打開する突破口となるかどうか、世界中が注目しています。

今後数日間の動きが、朝鮮半島の平和と安定、そして北東アジア全体の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があります。トランプ氏の訪韓中の動向、そして北朝鮮側の反応に、引き続き注目が集まることになるでしょう。

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