藤本壮介氏が設計した「大屋根リング」――大阪・関西万博の象徴、その誕生と軌跡
2025年に開催された大阪・関西万博。その中心に君臨し、多くの訪問者を魅了したのが、建築家・藤本壮介氏が手がけた木造建築「大屋根リング」です。世界最大級の木の輪が作り上げたこの空間は、壮大なスケールの建築美とともに、「多様でありながら、ひとつ」という万博の理念を体現しました。本記事では、リングの設計思想や構造、万博を通じて生まれた人々の和とその軌跡、そして閉幕後も続くその存在意義について、やさしく分かりやすく解説します。
大屋根リングの設計者――藤本壮介氏とは
藤本壮介(ふじもと そうすけ)氏は、1971年北海道生まれの建築家です。東京、パリ、深圳に拠点を持ち、個人住宅から美術館、大学、複合施設まで世界各地で多様な建築を手がけてきました。国内外で高い評価を受けており、大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーとしてプロジェクト全体を牽引しました。
藤本氏の建築は、自然と人、人と人、人と都市――それぞれの関係を新築的に捉え直し、「空」「森」「循環」「共生」といった普遍的なテーマを形にする点が特徴です。「大屋根リング」はその集大成であり、現代建築の新たな象徴となりました。
設計思想:「ひとつの空」のもとで多様性をつなぐ
「最初に夢洲(ゆめしま)に立ったとき、埋立地の広大な空の美しさに圧倒された。どんな建築をしても、この空の力にはかなわない――」藤本氏はそう語ります。
大屋根リングは、その「空」をそのままシンボルとするという発想からスタートしました。リング状の大屋根によって中央に大きな空間を切り取り、来場者が芝生に寝転んで空を見上げる体験を提供します。
世界中の多様な文化背景を持つ人々が、この「ひとつの空」の下に集い、それぞれの違いを感じながらもつながり合う。そんな「共生」や「多様性」の象徴として設計されたのが、この建築です。
構造と規模――伝統と革新の融合
- 建築面積:61,035.55㎡
- 内径:約615m、外径:約675m
- 幅:約30m
- 高さ:約12m(外側最大約20m。歩行可能なスカイウォークあり)
- 使用木材:国産(スギ、ヒノキ)約7割、外国産(オウシュウアカマツ)約3割
- 設計・監理:藤本壮介/東畑・梓設計共同企業体 他、国内の有名建設会社多数
構造面では、日本の伝統的な「貫(ぬき)接合」技法に現代の建築工法を組み合わせて実現しています。その巨大さゆえ、世界の木造建築の歴史にも新たな1ページを刻むものとなりました。
大屋根リングの持つ社会的・環境的意味
藤本氏は「木」と「空」を通して、持続可能性や循環、そして日本らしい自然観を表現しようとしました。建材の多くは国産材が使われ、木材は万博終了後も循環・再利用される方針が採られました。また、リング自体も全て解体されるのではなく、一部が保存されることが決まっています。
都市と自然の「あいだ」を見つめ、環境と文化が共生する未来像がこの建築には込められています。
2年超にわたる軌跡――更地からお別れまで
2023年、夢洲はまだ何もない更地でした。そこに多くの人々が集い、大屋根リングの建設が始まりました。工事関係者、設計担当者、地域住民、行政、ボランティアなど、多様な人々が手を取り合い、約2年にわたる巨大プロジェクトが動き出したのです。
完成後は、その独創的な空間に国内外の来場者が集い、多様なパビリオンやイベントが開催されました。その中心に常にあったのが「大屋根リング」。人々はここで世界の多様性を実感し、新たなつながりを見出しました。
閉幕を迎えた2025年秋、万博リングは役目を終えました。しかし、その一部は未来のために保存され、環境型社会の実現や現代建築の教材、関西の新たなランドマークとして新しい歴史を刻み始めています。
藤本壮介氏の語る「未来へのメッセージ」
藤本氏は、建築は物質的な「モノ」ではなく、人々の心や社会を繋ぐ「場」として重要だと繰り返し述べています。大屋根リングを囲みながら多様な人々が語り合い、時には静けさの森を抜けて未来を想像する――そのような空間として、万博リングは誕生しました。
「世界中の人々が同じ空を見上げ、一瞬でも『つながっている』と感じてくれたなら、この建築は成功だと思います」。環境配慮、地域連携、文化継承など、様々な目標が重層的に重なり合い、一つの大きな輪――未来への架け橋となったのです。
まとめ:万博リングのこれから
2025年の大阪・関西万博は、建築史、環境政策、市民社会、それぞれの文脈で重要なマイルストーンとなりました。その象徴となった「大屋根リング」は、万博終了後も人々の記憶に深く刻まれ続けます。
未来の都市や建築がどう進化していくのか――その道しるべとなるべく、藤本壮介氏と多くの関係者がつくり上げた「大屋根リング」は、今も私たちに「多様でありながら、ひとつ」というメッセージを静かに語りかけています。