今、改めて問われる「伊藤博文」とは誰か ― シンポジウムと新評伝出版から現代日本へのメッセージ ―
はじめに
2025年9月28日、山口県周南市では、日本の初代内閣総理大臣・伊藤博文の政策や人物像を改めて検証するシンポジウム「伊藤博文再起動」が開催されました。また、彼の出身地である山口県を拠点とする大学の客員教授による異色の評伝も出版され、大きな注目を集めています。「伊藤博文は偉人か、それとも大悪人か」――歴史の評価は常に揺れ動きます。本記事では、最新のシンポジウムや書籍、現代政治との接点をわかりやすく解説しながら、伊藤博文の実像に迫ります。
伊藤博文を巡る現在の議論:2つの大きなニュース
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その1:周南市で開催された政策シンポジウム
「現代にも通じる政治スタイルを分析 伊藤博文の政策を振り返るシンポジウム」が周南市で行われました。全国から80人が集まり、現代の政治や社会にも通じる伊藤の思考や決断力を語り合いました。萩博物館の学芸員は、「長州ファイブ」による工学教育や日本近代化の礎について紹介しました。
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その2:「伊藤博文は大悪人か」客員教授が異色の評伝を出版
伊藤博文の業績と暗部の双方に光を当てた新たな評伝が、出身地・山口で出版されました。その中では、「大悪人」との強い評価まで飛び出し、従来のイメージを覆しています。
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伊藤博文の歩みと政策 ― 国のかたちを決めた男の真実
伊藤博文(1841-1909)は、日本の初代内閣総理大臣であり、明治憲法の成立に尽力し、日本近代化をけん引した政治家です。彼の人生と政策を振り返るとき、最大の成果として近代国家への制度設計が挙げられます。
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内閣制度の創設と立憲政治の推進
伊藤は、明治憲法の制定作業を主導し、日本に内閣制度を導入しました。この仕組みは今も日本の政治運営の基盤です。 -
教育勅語および工学教育の普及
吉田松陰の思想を受け継いだ伊藤と「長州ファイブ」は、欧米流の工学教育を日本に導入しました。これにより、またたく間に近代産業国家への道を歩み出します。
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国際社会との交渉と安全保障
日清・日露戦争を経て欧米列強とわたりあい、日本の独立と近代化を守り抜いたのも、伊藤の決断力があったからこそです。
現代に通じる「伊藤博文の政治スタイル」と資質
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柔軟で実利的な姿勢
政策実現のためには、現実的な妥協や調整を恐れず、幅広い合意形成を重視しました。今の政治家にも通じる「調整力と決断力」を体現しています。 -
説明力とリーダーシップ
新しい制度や改革を実施する際に国民・官僚を説得した能力は、まさに現代のリーダーに必要な資質の象徴です。
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先を読む予測力
海外視察や時代変化への対応など、先見の明によって日本の進路を定めました。その「予測力」は現代の日本政治にも大きな示唆を投げかけています。
「大悪人」論争の背景と現在
一方で、伊藤博文は「大悪人」とも呼ばれることがあります。その要因は以下の点に集約されます。
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藩閥政治と権力集中
長州閥を中心とした人事、政策決定。一部では「独裁的」と批判されました。 -
朝鮮半島への介入と支配
初代韓国統監として、朝鮮半島政策と併合に深く関わり、現代では批判の的にもなっています。 -
明治維新と秩序回復の名目での強権発動
秩序維持や近代化のための強硬な政策は、しばしば民衆や他の政治勢力の反発を生みました。
評伝の中では、こうした負の面と功績の両方に光が当てられ、「善悪は単純に決められない」「なぜ今、伊藤博文を複眼的・多面的に見直すべきか」が改めて問われています。
地域と現代社会が持つ新たな視点
今回のシンポジウムや書籍出版は、山口県という伊藤のゆかりの地から始まりました。これは郷土の偉人を見直すだけでなく、現代日本の課題へのヒントを見出そうという動きでもあります。
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若い世代への歴史教育
歴史の偉人を「賛美」だけでなく、「課題」として捉え直す試みです。 -
現代の政治家に問われる資質との共鳴
集まった参加者は、「リーダーに必要な資質」や「外交における柔軟性」を伊藤博文の実績から学ぼうとしています。
現代の政策論との接点
最新の2025年参院選候補者アンケートでは、現代のリーダーに予測力・決断力・調整力・説明力が重要とされています(これは偶然にも伊藤博文の特徴と重なります)。また、「連立政権に対する柔軟な姿勢」「多様性の尊重」「生活保障政策」など、今の社会課題にも歴史の教訓が生きています。
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多様性や人権問題へのアプローチ
昨今の選択的夫婦別姓、女性天皇、同性婚など「時代が求める寛容さや包摂性」も、制度設計や国のかたちを議論する伊藤の姿勢に通じます。 -
エネルギー・社会保障・少子化問題などへの政策決断
切迫した現代課題に「決断」と「改革」のヒントを求める動きが活発です。
おわりに ― 歴史に学ぶ「リーダーの肖像」
伊藤博文は、その功績ゆえに現代社会でも高く評価され続けていますが、一方で時代の影とも言える負の側面からも目を逸らすことはできません。このような人物像を多面的に捉え直し、善悪ではなく「どのような価値を残したか」「現代にどう活かすか」を考えることが、これからの社会にとって重要です。「歴史を繰り返さない」「自分たちのリーダー像を自分たちで問い直す」ために、伊藤博文という存在が改めて注目されています。
一人のリーダーが時代をどう動かし、また時代にどう批判されるのか――伊藤博文の過去と現代の対話は、私たちに多くの気づきを与えてくれるでしょう。