トッテナム・ホットスパー、約9000億円の買収提案も断固拒否──ENICとルイス一族のクラブへの揺るぎない姿勢

歴史的買収オファーとクラブの現状

トッテナム・ホットスパーは、イングランド・プレミアリーグの中でも伝統と人気を誇るクラブです。2025年9月、元会長ダニエル・レヴィ氏の電撃退任という激動の出来事を経て、同クラブをめぐる動きが一層注目を集めています。中でも報道の中心となったのが、「約9000億円(45億ポンド)」という記録的な買収オファーです。これは単なる高額取引の話題を超え、クラブ経営やファン文化にも大きな影響を及ぼしかねない、一大事です。

ブルックリン・エアリック率いるコンソーシアムの買収提案

アメリカのテクノロジー起業家ブルックリン・エアリック氏は、12人による投資家グループを率い、トッテナム・ホットスパーの全株式取得を目指す巨大オファーを提示しました。エアリック氏とそのグループは、オーナーであるENICおよびルイス一族から、クラブ全体を33億ポンド、さらに12億ポンドを選手投資資金として用意し、計45億ポンドに達する金額を用意できる意向を示したと報じられています。

この提案は、スポーツ界全体でも最大級の買収話として関係者や世界中のファンの関心を呼びました。しかし、この「歴史的金額」の背景には、単なるマネーゲームではないさまざまな意図や思惑が交錯しています。それは、クラブの価値という経済的側面だけでなく、スポーツの社会的・文化的価値も問われる出来事です。

ENICとルイス家の即時拒絶:揺るがぬクラブ愛着と経営哲学

トッテナム・ホットスパーの最大株主であるENICグループ(持株約87%)は、エアリック氏の提案はもちろん、過去にあったほかの買収話(アジア系や著名投資家グループなど)も含め、すべて断固拒否しています。クラブがロンドン証券取引所へ提出した声明や、ENICの大株主ルイス一族からは、「トッテナムは売却対象ではない」と繰り返し強調されました。特に今年のこの騒動に先立ち、クラブ経営の中枢を24年間担ったレヴィ元会長の退任があり、その後わずかの間に三度も買収提案が舞い込んでいることからも、全世界からの期待と注目度の高さがうかがえます。

また、ENICの株式を実質支配しているジョー・ルイス家に近い関係者からは、「この一方的な関心が家族のクラブ愛や、ピッチ上での成功のためのコミットメントを損なうことは決してない」と、強い信念と互いへの結束が感じられるコメントもメディアへ出されています。

さらにトッテナムCEOのヴィナイ・ベンカテシャム氏は「ルイス家は今後何世代にもわたりトッテナムとの関わりを維持したい」との意向を明確にしています。伝統と誇りを大事にするオーナーシップの姿勢は、多くのファンや関係者から支持されています。

繰り返される買収打診と売却否定

  • 2025年9月初頭:PCPインターナショナル・ファイナンス・リミテッド(元ニューカッスル株主アマンダ・ステイブリー氏ら)が買収提案するもENICが拒否。
  • アジア投資家グループやロジャー・ケネディ氏+ン・ウィン・ファイ氏率いる別コンソーシアムもスパーズ買収を試みるが拒絶。
  • 9月25日:米国起業家ブルックリン・エアリック率いるコンソーシアムが、45億ポンド(約9000億円)の非公式オファー提示。しかしこれも即時拒否。

英国買収・合併委員会のルールにより、もし今後正式な追加オファーを提出する意思がある場合は、指定期日までに意思表示をしなければなりません。現時点では、トッテナム・ホットスパー取締役会もENICも、「クラブは売りに出ていない」と明言し続けています。

背景にある経営方針とクラブの未来

トッテナム・ホットスパーは、近年プレミアリーグでも上位を狙うだけでなく、自前スタジアムやインフラ投資、下部組織育成といった長期戦略にも注力しています。オーナーのルイス家およびENICは、単なる短期的な利益追求だけでなく、クラブの根幹を揺るがさない運営姿勢を貫いている点が特徴です。

この数年、新たな経営体制のもとで、トーマス・フランク監督ら現場スタッフとも連携し、選手の負傷対策や戦略的な補強、そして次世代タレントの発掘という課題にも力を入れてきました。近年の注目選手であるシモンズや、経験豊富なエリクセンらの比較なども議論されています。こうした現場とフロントの一体的な取り組みが、クラブの価値や魅力をさらに高めています。

それにもかかわらず、外部資本からの買収圧力や注目度の高まりは今後も続くとみられます。ですが、現時点でオーナー側がほぼ満場一致で売却を否定しており、「クラブのためならどんな手段も惜しまない」というスタンスは変わりません。

サポーターの声と地域社会への影響

サッカークラブの経営は、数字だけでは計れません。トッテナムはロンドン北部の象徴的存在であり、地元の子供たちやファンにとっても「第二の家」のような存在です。伝統的なオーナーたちのこの頑ななまでのスタンスを、多くのサポーターは誇りと感じていることでしょう。派手なマネーゲームよりも、中長期的なビジョンと地域密着の哲学が、結果としてクラブの価値を高めると信じる人も少なくありません。

また、社会貢献活動や青少年育成にも力を入れてきた経営陣の姿は、欧州サッカー全体にも一石を投じています。

まとめ

トッテナム・ホットスパーは、史上最大級の買収オファーにも動じることなく、「売却はありえない」と断固たるスタンスを明らかにしました。ENICとルイス一族のクラブ愛とコミットメントは、単なるビジネスを超えた「誇り」となって受け継がれています。今後も数々の買収話が浮上する可能性はありますが、現経営陣はクラブとファンのための運営を最優先に進めていくことになるでしょう。トッテナムの未来は「現場とフロントの連携」と「地元との共生」がキーワードです。

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