台湾の才能投手・徐若熙、美メジャー待たずに福岡ソフトバンクホークスへ決断
アジア野球界を揺るがす大型移籍劇
台湾プロ野球・味全ドラゴンズの看板投手・徐若熙(シュー・ルオシー)選手が、米大リーグからのオファーを待たずに福岡ソフトバンクホークスへの加盟を決断した。この決定は、アジア野球界における国際的な人材獲得競争の激化を象徴する出来事として、大きな注目を集めている。
24歳の右腕投手である徐若熙は、2025年シーズンに19試合に登板し、防御率2.05、120奪三振という優秀な成績を記録した。最速158キロの直球に加え、スプリット、カーブ、スライダーなど多彩な変化球を駆使する実力派投手として、米国と日本の複数球団から強い関心を集めていた。
なぜ米大リーグを選ばなかったのか
徐若熙は2025年11月に海外フリーエージェント(FA)権を行使した。当初、ロサンゼルス・ドジャースを筆頭とした複数のメジャーリーグチームが彼の獲得に積極的であり、毎試合球探を派遣するなど本気の取り組みを見せていた。しかし、彼は米大リーグからの正式なオファーを待つことなく、日本での新天地を選択したのである。
この判断の背景には、中米間の契約規定の違いが存在する。中華職業棒球聯盟(CPBL)とメジャーリーグ間の2022年新協定により、11月1日から12月15日が公告競標期限であり、45日間の交渉期間が設定されている。徐若熙が12月中旬にメジャーリーグの競標に参加した場合、米球団は2026年1月16日以降、新年度の国際サイニングボーナス枠を使用して才能を獲得する必要がある。一方、日本プロ野球(NPB)と中華職業棒球聯盟間にはこのような時間的制限が存在しないため、ソフトバンクホークスは先制攻撃が可能だったのである。
ソフトバンクホークスの戦略的勝利
福岡ソフトバンクホークスは、徐若熙獲得に向けて綿密な計画を立てていた。首席野球部長である城島健司が6月中旬に台湾を訪れて直接観察し、徐若熙の制球力、チェンジアップ、フォークボールに深い印象を受けたという。さらに、育成本部長兼球探部長の永井智浩は複数回にわたって台湾で選手を評価し、「彼のボールは非常に優れた爆発力を持ち、変化球の組み合わせが成熟している。来季にいきなり先発ローテーションに入る実力を備えており、あとは体力強化が必要なだけだ」とコメントしている。
ソフトバンクは徐若熙がFA権を行使した後、すぐさま高度な誠意を示した。福岡への来訪を招待し、球団施設の見学を組織し、名将・王貞治会長との食事時間を設定した。徐若熙はこの経験を通じて、王貞治からの親切さを深く感じ、ソフトバンクへの想いを強めたと述べている。
提示された契約内容
日本のスポーツメディアである「スポーツニッポン」の報道によると、ソフトバンクホークスは3年総額約10億円の複数年契約に加えて出来高条項を含む大型契約を提示していた。しかし、後に日本メディア「西日本スポーツ」は、ソフトバンクが提出した契約が3年総額15億円(約3.06億台湾元)という、さらに大きな規模であることを報じている。
複数の報道によれば、最終的に両者が合意した条件は、これらの公開報告値よりもさらに有利なものになると予想されている。味全ドラゴンズの関係者は、「現在も交渉が進行中であり、結果が決まれば発表する」とコメントしており、徐若熙の代理人である展逸経紀公司も、「現時点では確定した答えはなく、進展があれば別途発表する」と述べている。
米大リーグ側の反応と警戒感
米大リーグ、特にドジャースは、ソフトバンクホークスをライバルとして強く認識していた。日本の記者団による分析では、ドジャースはソフトバンクの動向に警戒心を抱いており、この中米間の人材争奪戦において、日本球界が契約規定の優位性を活用することへの懸念が示されていた。ドジャースの毎試合派遣球探と高層陣の視察は、徐若熙への関心の深さを示すものだったが、制度的な制約が米球団の迅速な行動を制限してしまったのである。
日本野球界の評価
徐若熙のソフトバンク加盟が現実味を帯びるにつれて、日本の野球評論家たちも彼の将来性について言及し始めた。前西武ライオンズのゼネラルマネージャーである渡邊久信氏は、「徐若熙は日本でプレーすれば、1シーズンで二桁勝利(10勝以上)を達成する可能性がある」とコメントしており、彼の実力に対する高い評価が日本野球界でも定着していることがうかがえる。
2024年の台湾シリーズではMVPを獲得した実績も、彼の国際的な評価を裏付けている。最速158キロの直球と多彩な変化球を備えた徐若熙は、日本のプロ野球界での活躍が大きく期待される逸材として位置付けられている。
中華職業棒球聯盟との関係
味全ドラゴンズの領隊である丁仲緯は、「現在も交渉が進行中であり、結果が決まれば大家に説明する」と慎重な姿勢を保ちながらも、ソフトバンクがFA権行使後の議約権を獲得すれば、正式な署名手続きに進むことになると示唆している。
徐若熙が中華職業棒球聯盟での契約を終了してソフトバンクの議約権獲得が公式に発表されれば、彼は新しい契約手続きに進む。スムーズに進めば、彼は2025年シーズンの中華職業棒球聯盟内で活躍した後、2026年シーズンから福岡ソフトバンクホークスでの新しい野球人生をスタートさせることになるだろう。
アジア野球界における意味
徐若熙のソフトバンク決断は、単なる一選手の移籍ではなく、アジア野球界の勢力図を示す出来事として解釈できる。日本プロ野球が持つ経済力と組織力、そして国際的な人材獲得における制度的優位性が、米大リーグという従来の人気目標地を差し置いて、有望な外国人選手を日本に招くことができたのだ。
中華職業棒球聯盟からの海外移籍は、これまで主にメジャーリーグを目指すケースが多かった。しかし、徐若熙のケースは日本プロ野球が台湾の優秀な才能を惹きつけることができる、成熟した野球環境と競争力を持つことを証明している。
今後の展開
徐若熙の福岡ソフトバンクホークスでの活躍がどのようなものになるかは、今後の大きな注目点である。最速158キロの直球と多彩な変化球で台湾での成功を収めた彼が、日本のプロ野球という異なる環境でどのようなパフォーマンスを発揮するかは、アジア野球界全体の関心を集めることになるだろう。
ソフトバンクの永井智浩が「来季にいきなり先発ローテーションに入る実力を備えている」と評価した通り、徐若熙が直ちに日本で活躍することが期待されている。彼のソフトバンク加盟が公式に発表されれば、日本野球ファンの間でも期待値が高まることは確実である。
美メジャーリーグの争奪から身を引き、日本を選んだ徐若熙。その決断が正しいものであることを、彼自身が福岡のマウンドで証明することになるだろう。



