木原龍一、失意から笑顔へ――三浦璃来と歩んだGPファイナル優勝までの3日間
ペアフィギュアスケート「りくりゅう」こと三浦璃来選手と木原龍一選手が、名古屋・IGアリーナで行われたグランプリ(GP)ファイナルで3年ぶり2度目の優勝を果たしました。
木原選手にとっては、自身の出身地・愛知であり、さらに2人がペア結成のきっかけとなるトライアウトを行った、まさに“原点”ともいえる場所での勝利でした。 しかし、その裏側には「失意」や「ごめん」という言葉がこぼれるほどの葛藤もありました。
ここでは、フリー演技直後の対照的な2人の表情、エキシビションでの笑顔の締めくくり、そして「結成の地」でつかんだ優勝の意味を、わかりやすく振り返っていきます。
フリー演技後に見えたりくりゅうの“対照的な表情”
12月5日に行われたペア・フリー。ショートプログラム(SP)を終えた段階で、三浦・木原組は僅差ながらトップに立ち、最終滑走としてフリーに臨みました。
スピード感あふれるプログラムは、会場の空気を一気に引き込みます。ところが終盤、サイドバイサイドの3連続ジャンプの最後のジャンプで木原選手がバランスを崩し、手をついてしまうミス。
演技を終えた直後、木原選手は三浦選手に向かって、まるで「ごめん」と謝るかのように手を合わせたといいます。 自分のミスが優勝を逃す原因になってしまったのではないか――そんな悔しさがにじんだ表情でした。
対照的だったのは三浦選手です。木原選手を見上げながら「そんなことないよ」と言うように笑顔で首を左右に振り続けたと伝えられています。 ミスを責めるのではなく、パートナーを励まし続ける姿が印象的でした。
リンクを降りる際にも、三浦選手は木原選手の背中に手をあてて、そっと支えるように寄り添っていたといいます。 その光景は、競技の結果以上に2人の信頼関係を物語る場面でした。
得点発表で一変した木原龍一の表情
ミスを引きずる木原選手の表情が変わったのは、得点が発表された瞬間でした。フリーのスコアは147.89点で自己ベスト。SPとのトータルは225.21点となり、今季世界最高スコアをマークします。
優勝への届かなさを一瞬覚悟した木原選手でしたが、予想を上回る高得点に、驚きの表情から次第に笑顔に変わっていったといいます。
木原選手は試合後、ミスをした瞬間について、次のように振り返っています。
「(手をついたときは優勝に)届かないなって。ただ最後まであきらめちゃいけないという思いがあったので、しっかりそこは気持ちを切り替えてやってきました」
途中のミスを引きずらず、最後まで集中を切らさずに滑り切る。その姿勢が、自己ベスト更新とシーズン世界最高スコア、そして優勝に結びついたと言えるでしょう。
「最後までやりきれたかな」三浦璃来が感じた手応え
一方の三浦選手は、結果以上に「自分たちらしい演技ができたかどうか」を大切にしていた様子がうかがえます。
記事の中では、三浦選手が「最後までやりきれたかな、って」という思いを語っていると紹介されています。 大きなプレッシャーのかかる最終滑走のフリーで、途中のミスがありながらも集中を切らさず、2人のスケートを貫くことができたという手応えがあったのでしょう。
また、SPとフリーを通して高い完成度を見せられたこと、そして世界トップレベルのペアが集う中で優勝できたことは、シーズン後半や大舞台に向けても大きな自信につながります。
「結成の地」名古屋での勝利が持つ特別な意味
今回のGPファイナルの会場となったのは、名古屋市のIGアリーナ。ここ愛知県は、木原龍一選手の出身地であり、2人がトライアウトを行いペアを結成した場所でもあります。
三浦・木原組は、木下グループ所属の日本を代表するペアとして、これまでも数々の国際大会で表彰台に上ってきました。その原点ともいえる地で迎えたGPファイナルは、2人にとって特別な大会でした。
優勝後の会見で、木原選手は「私たちがチームを結成した地が名古屋なので、こうしてここで行われたファイナルで優勝できたことは本当に素晴らしいものになったかなと思います」と語っています。
自身の地元であり、ペアのスタート地点でもある場所で、世界最高スコアをたたき出しての3年ぶりの優勝。これは、単なるタイトル以上の意味を持つ勝利だったと言えるでしょう。
GPファイナル3年ぶり2度目の優勝という快挙
三浦・木原組は、今回のGPファイナルで3年ぶり2度目の優勝を果たしました。
SPでは首位スタート。フリーではジャンプのミスこそあったものの、全体としてはスピード感と迫力のある演技を見せ、観客を魅了しました。 合計225.21点という高得点は、今季の世界最高得点として位置づけられています。
世界のトップペアが集うファイナルで、再び表彰台の頂点に立ったことは、彼らが依然として世界のトップクラスで戦う実力を備えていることの証明でもあります。
木原選手は、この結果について「オリンピック前最後の大きな国際大会なので、こうして表彰台に上がれたことはすごく自信になりましたし、またこうして表彰台に戻りたいなという思いも出てきました」とコメントしています。
世界の強豪としのぎを削る中でつかんだ優勝は、これからのシーズンや大舞台に向けての大きな追い風となりそうです。
エキシビションで見せた「迫力の滑り」と満面の笑顔
大会最終日に行われたエキシビションでは、「りくりゅう」三浦・木原組が大トリとして登場しました。
使用した曲は「Can’t Stop the Feeling」。軽快で明るいナンバーに乗せ、高さのあるリフトや豪快なスピンなど、ペアとしての魅力を存分に発揮する構成で、会場を大いに沸かせました。
このエキシビションは、8年ぶりの日本開催となったGPファイナルの締めくくりでもありました。 フリー後には悔しさをにじませていた木原選手も、この日は弾けるような笑顔を見せ、三浦選手と共に楽しそうに滑る姿が印象的でした。
優勝のプレッシャーから解き放たれた2人の「純粋にスケートを楽しむ表情」は、観客にとっても、大会全体を温かく締めくくるものとなりました。
日本選手たちが彩ったエキシビション
エキシビションでは、りくりゅう以外にも多くの日本勢が華やかな演技を披露しました。
- 中井亜美選手:初出場で銀メダルを獲得し、赤い衣装と髪飾りで「Don’t You Worry ‘Bout A Thing」を情感豊かに演じました。
- 鍵山優真選手:2大会連続2位となった男子シングルの鍵山選手は、ピアニスト角野隼斗さん書き下ろしの新曲「frostline」で優雅な演技を披露しました。
- 坂本花織選手:女子3位の坂本選手は、深紅の衣装で「poison」を力強く演じ、観客を魅了しました。
- 千葉百音選手:5位に終わりながらも、エキシビションで3本の単発ジャンプを成功させ、存在感を示しました。
- 佐藤駿選手やジュニアの中田璃士選手
こうした日本勢の活躍が、8年ぶり日本開催となったGPファイナルの最終日を、より華やかで印象的なものにしました。
「チームとして前進している」りくりゅうが見据える今後
三浦選手は大会を振り返り、「日本の地で、グランプリファイナルで、私たちらしい滑りをすることができたので、本っ当にうれしく思っています」と語っています。
また、世界トップのペアたちと競い合う中で、「自分たちでもチームとして前進していると感じられた」とも口にしており、シーズン後半への楽しみがふくらんでいる様子がうかがえます。
木原選手も、今回の大会を通じて「オリンピックのいいリハーサルになりました」と話し、厳しい戦いの中で得られた経験の大きさを強調しています。
ショートでの僅差の首位発進、フリーでのミスと自己ベスト更新、そして結成の地・名古屋での優勝。喜びと悔しさが入り混じったこの大会は、りくりゅうの2人にとって、これからのキャリアを語る上でも重要な1ページになるはずです。
木原龍一の背中を押し続ける、三浦璃来という存在
今回のGPファイナルで多くのファンの心に残ったのは、得点や順位だけではなく、フリー演技後の2人の姿だったかもしれません。
ミスを悔いる木原選手に、笑顔で首を振りながら「そんなことないよ」と伝え続ける三浦選手。 リンクを去るときに、失意の背中にそっと手を添える姿。
その光景には、「ミスをしても、2人で最後までやりきれた」という自信と、「一緒に乗り越えよう」というパートナーとしての覚悟がにじんでいました。
木原選手は、これまでもケガや環境の変化など、さまざまな困難を乗り越えてきた選手です。そんな彼の背中を押し続けているのが、明るい笑顔と強い心を持つ三浦選手の存在であり、だからこそ「りくりゅう」は世界のトップで戦い続けられているのでしょう。
名古屋の観客の前で見せた、失意から笑顔へと変わる木原龍一の表情。その変化を支えたのは、隣に立つパートナーと、温かい声援を送り続けたファンの存在でした。今回のGPファイナルは、りくりゅうにとって、そして日本フィギュアにとっても、大きな節目となる大会となりました。



