J1昇格の水戸ホーリーホック、電撃人事の全容 ― 森直樹監督退任と樹森大介氏新監督就任
J2優勝とクラブ初のJ1昇格を成し遂げた水戸ホーリーホックが、シーズン終了直後に大きな人事決定を発表しました。森直樹監督の退任とフットボールダイレクター就任、そして新監督として樹森大介氏が就任するという内容です。 さらにクラブの強化部門を担ってきた西村卓朗GMの退任も重なり、水戸はクラブの将来像を左右する大きな転換点を迎えています。
森直樹監督、J2優勝とJ1昇格を置き土産に監督退任
水戸ホーリーホックは12月8日、森直樹監督が2025シーズンをもって監督を退任し、新たにフットボールダイレクターに就任すると正式発表しました。 森監督は2024年5月にトップチームの指揮を執ると、2025シーズンにはチームをJ2優勝とクラブ史上初のJ1昇格へ導きました。
森監督はクラブ発表の中で、水戸を支えてきた多くの関係者やサポーターへの感謝を述べるとともに、「31年間、苦しい時期の方が多かった中でもクラブを存続させ、前へと進み続けてくれた先人たちのおかげでJ2優勝・J1昇格を掴み取れた」と振り返っています。 そのうえで、自身の新たな役割について「これまで築き上げてきた育成をはじめとする多くの価値を守り、さらに前へと進めていく責任を担うのは自分しかいないと強く感じた」と語り、フットボールダイレクター就任をクラブの未来を切り拓くための決断だと位置づけました。
森監督は選手時代にも水戸でプレーし、その後はユースコーチ、ユース監督、トップチームコーチ、スカウトなど、長年にわたってクラブの基盤づくりに携わってきた人物です。 こうした経歴を踏まえると、監督という「ピッチ上の指揮官」から、クラブ全体の強化や育成方針を統括するフットボールダイレクター(FD)への就任は、もう一つの“昇格”とも言えます。
西村卓朗GMが退任、森氏は強化トップへ ― フロントも大きく再編
一方で、クラブの編成を担ってきた西村卓朗ゼネラルマネジャー(GM)の退任も明らかになりました。 報道によると、西村GMは2025シーズン限りで契約満了により退任し、森監督も同シーズン限りで監督を退くことが関係者から明らかにされています。 森氏はクラブ強化部に配置転換される見込みとされ、後任GMを務める可能性も報じられていました。
実際のクラブ発表では、森氏はフットボールダイレクターとしてクラブ全体の強化方針や育成戦略を統括する役割を担うことになりました。 いずれにしても、「現場の監督」から「クラブ全体の強化責任者」へと立場を移す点で、森氏が今後の水戸の方向性を決めるキーマンであることに変わりはありません。
西村GMは、2011年からトップチームの首脳陣に加わり、編成面からクラブを支えてきた存在です。 報道によれば、森監督を途中就任させた2024年シーズン以降、「堅守速攻」を軸にしたチームづくりを推し進め、今季は15試合連続無敗という快進撃を支えました。 その西村GMと森監督の両輪が、一気に役割を変えることは、クラブにとってもサポーターにとっても大きな変化といえます。
電撃人事の核心:新監督は樹森大介氏
こうした中で、最も注目を集めているのが新監督人事です。水戸ホーリーホックは、2026シーズンのJ1特別大会に向けた新監督として、樹森大介(きもり・だいすけ)氏の就任を発表しました。 J2優勝直後の監督交代という、Jリーグでも珍しいタイミングでの決断となりました。
報道や解説によると、樹森氏は2025年シーズン途中までJ1・アルビレックス新潟の監督を務め、その後は栃木SCのコーチを経験したうえで、水戸の監督に就任する流れとなっています。 また、別の報道では、水戸が樹森大介コーチを監督に昇格させる形で2026年シーズンの指揮官に据えることが発表されており、コーチとしてクラブに在籍していた樹森氏がトップのポジションにステップアップしたと伝えられています。
成績面だけを見ると、樹森氏は新潟で4勝7分9敗と苦しい戦いを強いられ、降格圏に沈んだタイミングで解任されるなど、厳しい数字が並んでいます。 しかし、その評価は単純な勝敗だけでは測れないという指摘もあります。 クラブ側が樹森氏を新監督に招聘した背景には、戦術的な志向や若手育成への姿勢、水戸のクラブ文化との相性など、数字には表れにくい要素を重視した側面があると考えられます。(この点は、報道や分析を踏まえた推測です)
なぜ今、監督交代なのか ― 「J1初挑戦」と「クラブの哲学」
J2優勝とJ1昇格を果たした直後に、チームを成功に導いた監督を交代させることは、一見すると非常にリスクの高い判断に映ります。サポーターの中にも、驚きや戸惑いの声が少なくないでしょう。実際、J1昇格クラブが、その立役者である監督をすぐに入れ替えるケースは多くありません。
しかし、今回の人事は「森監督を切り捨てる」ものではなく、「役割の再定義」として捉えると、クラブの狙いが少し見えやすくなります。森氏は現場から離れるものの、フットボールダイレクターとしてクラブの強化と育成を一手に担うことになりました。 現場の監督は変わっても、水戸が長年大切にしてきた「育成クラブ」としてのアイデンティティや、「堅守速攻」を軸とする戦い方の根っこは、森氏を中心に保たれる可能性が高いと考えられます。(ここはクラブの方針と森氏の役割説明からの推測です)
一方で、新監督の樹森氏には、J1の舞台で勝ち抜くための新たなエッセンスをチームにもたらす役割が期待されます。 J2での成功モデルをそのままJ1に持ち込むのではなく、戦術や選手起用の面で「もう一段階上のチャレンジ」をするために、あえて監督交代という選択をしたとも考えられます。 これは、育成とクラブ哲学を守る森FDと、新たな勝負に挑む樹森監督という二本柱でJ1に挑む体制と言えるかもしれません。
樹森大介新監督に寄せられる期待と不安
もちろん、新監督への期待と同時に、不安や懸念も存在します。新潟での成績だけを見ると、数字は決して明るいものではありませんでした。 そのため、「なぜわざわざ監督を替えるのか」「昇格監督の続投で良かったのでは」という声が出るのも自然なことです。
ただし、水戸はこれまで、限られた予算の中で若手を育て上げ、粘り強く勝点を積み上げることでクラブの地位を築いてきました。 その延長線上で、森FDがクラブの長期的な強化と育成を見据えつつ、樹森監督が目の前のJ1の試合に向き合うという役割分担が機能すれば、短期と長期の両面からクラブが成長していく可能性があります。
また、昇格1年目のクラブにとって、J1の戦いはどうしても苦しいものになります。そうした中で、「負けが込んだから監督交代」という流れではなく、あらかじめ明確な役割分担と責任体制を作ったうえでJ1に挑む今回の準備は、クラブとしての覚悟の表れとも受け取れます。
サポーターにとっての「転換期」
水戸ホーリーホックは、長くJ2で戦い続けてきたクラブです。森氏がコメントで語ったように、「苦しい時期の方が多かった」歴史を、地域の人びととともに乗り越えてきました。 その先にようやく掴んだJ1昇格は、クラブにとってもサポーターにとっても、待ちに待った瞬間だったはずです。
だからこそ、その直後に訪れた監督交代とフロント再編は、驚きと同時に、大きな期待も伴うニュースと言えるでしょう。森氏はこれまでと立場こそ変わりますが、「クラブをより強く、戦う集団へと進化させていく」という思いに揺らぎはないと強調しています。 そして新たにチームの指揮を執る樹森監督は、自身の経験をもとに、J1という新たな舞台で水戸をどのようなチームへ導いていくのかが注目されます。
J1初挑戦のシーズンは、きっと順風満帆とはいかない場面も多いでしょう。しかし、長年クラブを支えてきた森FDと、新たな風を吹き込む樹森監督、そしてクラブの背中を押し続けてきたサポーターや地域の力が合わさることで、水戸ホーリーホックはまた一歩、新しいステージへ進んでいくはずです。
今回の人事は、そのための大きな一歩であり、同時にクラブが自ら選んだ「未来への覚悟」の表れでもあります。サポーターにとっても戸惑いの多いニュースかもしれませんが、これからの水戸ホーリーホックがどのようなクラブへ成長していくのかを見守るうえで、非常に重要な転換点となる出来事と言えるでしょう。



