コソボ、サッカーと歴史の交錯——ワールドカップ予選での新たな挑戦と人々の歩み
はじめに
2025年8月、バルカン半島の一角に位置するコソボが、再び国際舞台で注目を集めています。最先端スポーツだけではなく、長きにわたり続く歴史の重み、そこに生きる人々の思いが複雑に絡み合い、現在のコソボが形作られています。本特集では、コソボサッカー代表の躍進の現状、スロベニアとの熱戦、そしてコソボ紛争から25年を迎えた今、人々がどのように日常を取り戻してきたかを複合的に捉えていきます。
台頭するコソボサッカー代表——世界へ挑む若き力
コソボ代表は近年、サッカー界で着実に実力を伸ばしています。2026年ワールドカップ予選ヨーロッパ地区グループBでの戦いぶりが注目され、「コソボは台頭中だ」とスロベニア代表監督マティアス・ケクも公式記者会見で評価しています。ケク監督は、「このグループには出場権獲得を念頭に置いていないチームはない。しかし、ワールドカップ出場権を既に獲得している代表チームはない」と語り、どのチームにも可能性が残されている激戦区であることを強調しました。
コソボは2025年秋にかけて、スイスやスウェーデン、スロベニアといった強豪とグループBで対戦します。10月10日にはホームでスロベニアと戦い、11月15日にはアウェーのリュブリャナでのリターンマッチも控えています。この連戦は、コソボ代表のワールドカップ本戦出場をかけた重要な局面となるでしょう。
注目の対戦——スロベニア戦、その見どころ
- 2025年10月10日18:45(UTC) コソボ vs スロベニア(プリシュティナ)
- 2025年11月15日11:45(UTC) スロベニア vs コソボ(リュブリャナ)
これらの試合は、グループBの順位を左右する大一番であり、ホームとアウェー、それぞれのサポーターの声援を背にした戦いとなります。スロベニアのケク監督は、コソボの選手やチーム力について高く評価しています。今やコソボは「グループのダークホース」とみなされており、FWヴェダット・ムリキを筆頭に若手と経験者が融合した布陣には欧州中が注目しています。
国際化する選手たち——スイス連盟とアルドン・ヤシャリ選手の動向
サッカーの国際化現象もバルカン半島の特徴の一つです。今回、スイス連盟はアルドン・ヤシャリ選手がコソボ戦およびスロベニア戦を欠場することを発表しました。ヤシャリ選手はコソボ系スイス人として知られ、二つのルーツを持つ選手の動向は現地メディアでも大きく報道され、コソボ代表にも多くのディアスポラ(移民・難民出身選手)が在籍しています。そのためヨーロッパ中で「アイデンティティ」「帰属意識」といった問いがサッカーを通じて改めて浮き彫りになっています。
「ダルダニアン」——独自文化と新しいアイデンティティ
コソボ代表は「ダルダニアン」とも呼ばれます。これは古代イリュリア民族のダルダニア王国に由来します。スポーツを通じ「独自のアイデンティティ」を表現するのは、国家として20年余りの歴史しかないコソボにとって、非常に大きな意味を持ちます。
戦争、国際的承認、そして独立。多くの困難を乗り越えてきたコソボの若者たちが、いまピッチで汗を流している姿は、国民に大きな勇気と誇りを与えています。「私たちはダルダニアンだ」——この合言葉は、単なるサッカーチームのキャッチコピーではなく、複雑なバルカンの現代史を生き抜いてきた人々の魂の叫びでもあります。
コソボ紛争から25年——その傷跡と再生への歩み
一方、今年はコソボ紛争から25年という節目の年でもあります。1998年から99年、コソボはセルビアとの紛争で多くの犠牲を払い、戦争の痛ましい記憶は今も町や村に深く刻まれています。NHKの長期取材では、紛争によって人生が大きく変わった人々、日常を取り戻そうと努力し続ける家族、地域社会の様子が丁寧に記録されています。
- 傷ついた家族——家族を失った悲しみから立ち直る過程
- 憎しみと共存——元敵対民族同士が地域復興のために協力する姿
- 次世代への希望——戦争後に生まれた若者たちが新しい価値観を模索
コソボでは、「和解」と「記憶の継承」が今もなお重要な社会課題です。特に、紛争経験者と若い世代の間で「過去を乗り越え、未来へ進む」ための対話が日常的に積み重ねられています。国内外からの支援やNGOの継続した活動も、地域の安定と再生に大きく寄与しています。
サッカーと社会——スポーツがつなぐ人々の心
コソボにとって、サッカーがもたらす社会的な意味は非常に大きなものです。ピッチ上での勝利や敗北以上に、「国民が一つになる」体験そのものが、戦争と困難を乗り越えた歩みの証です。ワールドカップ予選での健闘は、単なるスポーツニュースの枠に収まりません。若い世代に「どんな困難も乗り越えられる」という具体的な夢と自信を与えるとともに、ヨーロッパの様々なルーツを持つ人々に共感を呼んでいます。
また、サッカーという共通言語を通じて隣国とも新たな関係を築くきっかけを提供し、地域全体の安定にもつながっています。スロベニア戦は、政治や歴史的背景を超えて公正な競技精神を体現する舞台。そこで交わされる握手や熱いプレーが、「かつての憎しみの通り」を越えて、理解と友好への新たな一歩となることを願う声も多く聞かれます。
おわりに——コソボの次なる章へ
コソボは、サッカーを通じて新しい自信と連帯を手に入れつつあります。同時に、紛争後の苦難と葛藤を胸に、次なる未来を見据えて歩んでいます。2025年秋、スロベニアとのワールドカップ予選をはじめとした公式戦は、コソボにとって単なる勝敗を超えた歴史的意味を帯びます。
サッカーの歓喜、大地に根付く平和、そして未来を切り拓いてゆく若者たち——それぞれが交錯する「コソボ」という国の現在地を、これからも見守り続けていきたいものです。