ワールドシリーズで注目を集めるブルージェイズのクレメント選手

トロント・ブルージェイズがワールドシリーズに進出した今シーズン、意外な存在がチームの中心選手として活躍しています。それが29歳のユーティリティプレイヤー、アーニー・クレメント選手です。かつて控え選手の位置づけだったクレメント選手が、どのようにしてブルージェイズのヒーローへと変貌を遂げたのか、その背景には興味深いストーリーがあります。

日本製グラブへのこだわり

クレメント選手が使用するグラブが日本製であることが、ワールドシリーズの中継時に明かされました。NHK BSの中継では、元日本ハムの加藤豪将氏による「一言メモ」が紹介され、クレメント選手が愛用するグラブについての詳細が公開されたのです。

加藤氏によると、クレメント選手が使用するグラブは日本製で、なんと中古で取り寄せたものだといいます。その購入価格は150ドル、日本円にして約2万3000円という手頃な価格でした。一般的にメジャーリーグの選手は高級なグラブを使用することが多いなか、クレメント選手の選択は多くのファンの注目を集めています。

使い込まれた愛用グラブの写真公開

NHK BSの番組では、加藤氏が提供した使い込まれたクレメント選手の愛用グラブの写真も公開されました。その写真を見たファンからは、「旧ミズノロゴのグラブを使用しているんだね」「売った人もまさかワールドシリーズで使われると思わなかっただろうな」といった反応が、SNSのX(旧Twitter)で寄せられました。

グラブの傷や色褪せなど、使い込まれた痕跡が見られることから、クレメント選手がこのグラブを長く愛用していることが伝わります。メジャーリーグの大舞台であるワールドシリーズで、このような歴史のあるグラブが活躍している事実は、多くの野球ファンの心を掴みました。

クレメント選手の異例のキャリアパス

クレメント選手のストーリーは、グラブの逸話だけに留まりません。彼のキャリアパスそのものが、下積みから大成功への象徴的な例となっています。2017年のMLBドラフト4巡目でクリーブランド・インディアンス(現ガーディアンズ)に指名されたクレメント選手は、その後6年間、優先順位の高い選手として扱われることがありませんでした。

インディアンスからアスレチックスに移籍した後も、最下位だったアスレチックスからも解雇されるなど、決して順風満帆とは言えないキャリアを歩んできました。そのような状況の中、2023年3月14日にトロント・ブルージェイズとマイナー契約を結ぶことになります。当時、クレメント選手は野球界から見放されたも同然の状態だったのです。

ブルージェイズでの大躍進

しかし、ブルージェイズというチームとの出会いが、クレメント選手のキャリアを一変させました。現在、クレメント選手はポストシーズン13試合で打率.429という驚異的な成績を記録し、わずか2三振に抑えています。下位打線からブルージェイズの攻撃を牽引する存在となったのです。

ジョン・シュナイダー監督は、クレメント選手について次のように語っています。「信じられない。ラインナップを見ると、ブラディミールは注目度も高くて、タイトルも獲得している。でも、アーニーも打率は同じなんだ。驚くべきことだ。」また、「アーニー・クレメントの一番の魅力は、野球のスキル以外で、とにかく何にも気にしないところだ。どんな状況でも、彼はプレーする準備ができている。」と、その精神性を高く評価しています。

メンタリティが支えるブルージェイズの躍進

クレメント選手の存在は、単なる打撃成績だけでなく、チーム全体のメンタリティに大きな影響を与えています。アメリカンリーグ優勝決定シリーズ第5戦での敗戦後、エウヘニオ・スアレスの満塁弾に落ち込むロッカールームで、クレメント選手は「ブルージェイズにはチャンスがある。それだけで十分だ」と肩をすくめながら言ったといいます。この一言が、チーム全体に希望と勇気をもたらしたのです。

その後、ブルージェイズはこの試練を乗り越え、ワールドシリーズへの道を切り開きました。シュナイダー監督は「クレメントはとにかく恐れ知らずで、それが大好きなんだ。それが彼のメンタリティだ。ブルーカラーだよ。首を突っ込んで、仕事をやり遂げる」と、その強さの源を語っています。

日本とのつながりを感じさせるニュース

今回、クレメント選手が日本製のグラブを中古で購入して使用していることが明かされたことで、日本の野球ファンの間でも関心が高まっています。加藤豪将氏が提供した情報により、「加藤豪将のおかげでクレメントの日本人ファンが増えそう」というコメントもSNSで見られるほどです。

日本製の機器を愛用し、それをワールドシリーズの大舞台で活躍させるというストーリーは、日本とアメリカの野球文化の交流を象徴しています。グラブという道具を通じて、異なる国の野球愛好家が一つにつながる瞬間なのです。

2024年の成績と評価

クレメント選手の活躍は、今シーズンに始まったものではありません。2024年シーズンには、139試合に出場して打率.263、12本塁打、51打点を記録し、守備では96試合で三塁を守り、ゴールドグラブ賞のファイナリストに選出されました。さらに、走攻守の貢献度を測るfWARでは3.2という優秀な成績をマークしています。もはや控え選手の位置づけではなく、ブルージェイズの中心選手の一人となっていたのです。

カルト・ヒーローとしての地位確立

クレメント選手は、球界の新たな奇人であり、カナダのカルト・ヒーローとなりました。平凡な控え内野手からワールドシリーズ進出の立役者へと変貌した彼の存在は、野球ファンに希望と勇気を与えています。

ブルージェイズとそのファンにとって、クレメント選手は本当に大切な存在です。彼はこう語っています。「この3年間、球団が私にこのような機会を与えてくれたことは、この上なく大きな意味を持つ。せめて僕ができるのは、ポストシーズンで良いプレーをして、チームの優勝に貢献すること。本当に球団の人たちに感謝している。彼らは素晴らしい人間ばかりだ。少しでも恩返しができればと思っている。」

まとめ

クレメント選手の日本製グラブの逸話は、単なる興味深い話題に留まりません。それは、下積みから大成功へと至るストーリー、チームメイトを鼓舞し、ブルージェイズをワールドシリーズへ導いたメンタリティ、そして日本とアメリカの野球文化の交流まで、多くの意味を含んでいます。ワールドシリーズの大舞台で活躍するクレメント選手と、その愛用する日本製グラブ。この光景は、野球ファンの心に長く記憶されることになるでしょう。

参考元