元阪神・鳥谷敬さんがNPO法人「Kizuna」を設立――引退選手のセカンドキャリアと中学校部活動をつなぐ新たな挑戦
2025年5月、元阪神タイガース内野手の鳥谷敬さんが、アスリートのセカンドキャリア支援と中学校部活動問題の解決を目的としたNPO法人「Kizuna」を設立しました。この試みは、引退した選手の新たな活躍の場をつくると同時に、学校現場における人材や経験の不足を補い、部活動をめぐる地域課題へのアプローチという二つの社会的使命を担っています。
鳥谷敬さんと日本野球界――引退後の「第二の人生」支援の重要性
鳥谷敬さんは、阪神タイガースの精神的支柱として長年に渡ってチームをけん引し、多くの野球ファンに愛されてきました。しかし、現役を退くアスリートの多くは「その後」のキャリアに戸惑いや不安を抱えることも珍しくありません。日本では、プロアスリートのセカンドキャリア支援の重要性が叫ばれていますが、十分な仕組み作りはまだ始まったばかりなのが現状です。
鳥谷さん自身も現役引退後、進路を模索した経験から「引退選手が安心して次のステージに進める社会づくり」が必要だと痛感。そこで、「誰もが自分らしく輝けるための土台を作りたい」という思いから今回のNPO設立に至りました。
NPO法人「Kizuna」が掲げる理念と活動内容
「Kizuna」は、スポーツを通じた人と人とのつながりを大切にし、次の4つの主な活動方針を掲げています。
- アスリートのセカンドキャリア支援:現役引退後のアスリートを対象に、キャリア相談や職業紹介、教育・研修プログラムの提供など、実社会で活躍できる人材へと育成する仕組みを作ります。
- 中学校部活動への人材派遣・指導サポート:部活動の指導体制が弱体化するなか、元プロ選手や認定コーチを部活動現場に派遣し、指導者不足や専門性の欠如といった課題の解決を目指します。
- スポーツを通じた青少年育成:部活動や地域クラブでの体験を通じて、忍耐力や協調性、リーダーシップなど、生きる力を育むプログラムを開発・実践します。
- 社会教育・啓発活動:「スポーツの価値」や「キャリア形成の多様性」をテーマにした講演会やセミナーを実施し、地域社会への理解拡大を図ります。
なぜ「中学校部活動」が注目されるのか
部活動は日本の教育現場で長年にわたり重要な役割を果たしてきました。しかし、教員の業務量増加や人材不足、専門指導力の格差など多くの課題も顕在化しています。とくに近年は、教員による指導から地域人材による運営への「地域移行」の流れが進み、「外部指導者」や「元アスリート」の経験が必要とされています。
鳥谷さんは、次のように語っています。
「これからの部活動やスポーツ現場には多様な経験や専門性がますます求められます。私たち元アスリートが“今度は外から支える側”となり、一人でも多くの子どもや若者たちの成長に貢献できればと願っています。」
NPO法人「Kizuna」設立の経緯と鳥谷敬さんの思い
2025年5月27日、大阪市内で行われた設立発表記者会見で、鳥谷さんは、自身の経験と社会への思いを率直に語りました。
- 引退後の現実:「アスリートの人生は短い。その先の未来に悩む仲間も多く、競技生活中には準備も十分にできない現実がある」
- 部活動問題との連動:「近年は教員の指導負担も増し、部活動の継続が難しい学校も目立つ。スポーツ離れの流れを止めるためにも、現場の力になりたい」
- NPO設立の願い:「一人でも多くの引退アスリートが社会に貢献し、子どもたちが夢に向かって挑戦できる社会にしたい」
この思いの源には、「スポーツを通じて学んだ価値観と絆を、次世代に引き継いでほしい」という強い願いがあります。
現場の反響――教師・生徒・元アスリートからの声
NPO設立の知らせはすぐに教育現場やアスリートコミュニティからも注目され始めています。
- 学校教員:「部活指導の担い手が減るなかで、プロアスリートの経験や人間力に触れられるのは大きな励み」
- 現役中学生:「一流選手から野球だけじゃなく、進路や生き方も学びたい」
- 引退アスリート:「競技以外の力を社会に生かせる場所ができてうれしい。自分もチャレンジしたい」
今後の展望と活動の広がり
「Kizuna」では今後、阪神タイガースのOBや現役選手、他競技からの元アスリートとも連携し、活動を全国に広げていく予定です。また、スポーツ団体や企業とも協力して、包括的なキャリアサポート体制の確立を目指すとしています。
活動資金に関しては、会員制度や寄付金、助成金、公的支援など多様な財源確保を模索し、持続可能な事業モデルの構築に取り組んでいく方針です。
アスリートの「その後」を支える社会は、子どもたちの未来ともつながる
引退アスリートの社会参画や部活動サポートは、スポーツ界・教育界にとどまらず、地域全体の活性化や青少年の健全育成に直結します。鳥谷さんが語る「Kizuna」の理念は、「誰もが挑戦と成長を支え合う社会」への大きな一歩でもあります。
子どもたちが憧れの選手と触れ合い、元アスリートたちも新たな生きがいを見つけられる――その連鎖がよりよい明日の日本をつくる原動力になるでしょう。
スポーツの力と人のつながりで、みんなが輝ける社会を――。「NPO法人Kizuna」、そして鳥谷敬さんの今後の歩みに大きな期待が寄せられています。



