F1 2026年、大変革へ――新レギュレーションとマシンの姿、そして主要チームの動き
2026年シーズンのF1は、パワーユニット(エンジン)とシャシーの両面で大幅なレギュレーション変更が行われるタイミングとなり、シリーズ全体の姿が大きく変わろうとしています。その中で、2026年型マシンの技術的特徴に加え、アストンマーティンやアルピーヌなど主要チームが新体制とともに2026年マシン発表の予定を固めており、注目が集まっています。
2026年F1を形づくる新レギュレーションの概要
FIA(国際自動車連盟)は、2026年以降に適用されるF1のテクニカルレギュレーションを発表し、「持続可能性」「競争性」「ショーとしての面白さ」の3点を重視した内容であると説明しています。特に大きなポイントは、パワーユニットの構成見直しと車体の小型・軽量化、そして新たな空力システムの導入です。
- パワーユニットの再設計:複雑なMGU-Hを廃止し、内燃エンジン(ICE)由来の出力を抑える一方で、電気モーター(MGU-K)の出力を大幅に引き上げる構成となります。
- シャシーの小型・軽量化:マシン全体のサイズと重量が削減され、より俊敏でダイナミックな挙動を目指した設計が要求されます。
- 新しいレース用機能:アクティブ・エアロダイナミクスと、ドライバー操作の「マニュアル・オーバーライド」システムという2つの新機能が導入され、従来のDRSとは異なる形でオーバーテイクを促す狙いがあります。
- 持続可能燃料:100%持続可能な“ドロップイン燃料”を採用し、カーボンニュートラル達成へ向けた技術プラットフォームとすることが掲げられています。
これらの要素が組み合わさることで、F1は従来の「内燃エンジン中心」から「電動化を強めたハイブリッドフォーミュラ」へと、さらに一歩踏み込んだ形へ進化していきます。
エンジンはどう変わる? MGU-H廃止と電動化の強化
2026年のパワーユニット最大の変化は、これまで熱エネルギー回生を担ってきたMGU-Hが廃止される一方で、MGU-Kの役割が大きく強化される点です。
- MGU-Hの廃止:技術的に複雑でコストも高いMGU-Hは、2026年以降の規則から外されます。
- ICE(内燃エンジン)の出力低減:エンジンから得られるパワーは、現在の約550~560kWから400kW程度に抑えられる方向で定められています。
- MGU-K出力の大幅増加:一方でモーター出力は約120kWから350kWへとおよそ3倍に引き上げられ、総パワーのうち約半分を電動側が担う構成になります。
- エネルギー回生量の増加:ブレーキング時の回生エネルギー量も約2倍となり、1周あたり8.5MJまで回生できるパッケージとなります。
ホンダなどのメーカーも、2026年の新PUが「燃料流量を絞りながら、MGU-K出力を350kWに高める」方向で開発されていると解説しており、電動化強化と効率向上が明確なテーマであることがわかります。
100%持続可能燃料とカーボンニュートラルへの取り組み
環境面では、2026年からF1で使用される燃料は100%持続可能燃料へ切り替えられます。この燃料は、既存の内燃エンジン車にも“ドロップイン”可能な性質を持たせる設計が想定されており、モータースポーツでの技術を一般車両の脱炭素化にもつなげる狙いが示されています。
また、FIAは2030年までにF1全体として二酸化炭素排出量のネットゼロ(実質ゼロ)を目標に掲げており、2026年レギュレーションはそのロードマップの一部と位置づけられています。レッドブルとフォードの取り組み紹介でも、「化石燃料を用いず、2013年比で燃料使用量を約半減させる」といった方向性が語られており、シリーズ全体の方向ははっきりと示されています。
新しい空力コンセプト:アクティブ・エアロと「DRS後」時代
2026年型マシンでは、これまで主にリヤウイングで使用されてきたDRS(ドラッグ・リダクション・システム)の役割を、より広い意味でのアクティブ・エアロダイナミクスが担う形へ移行していくことになります。
- アクティブ・エアロダイナミクス:可動式のフロントウイングとリヤウイングを組み合わせ、通常走行時とストレートでの低ドラッグ状態(空気抵抗軽減モード)を切り替える仕組みが導入されます。
- 2つのモード:コーナリング性能を重視する「高ダウンフォース」状態と、ストレートでの速度・効率を重視する「低ドラッグ」状態の2モードを使い分ける設計が想定されています。
- 後続車への配慮:空力コンセプト自体も、先行車からの乱気流(ダーティエア)の影響を減らす方向で見直されており、後続車がより接近しやすくなるよう狙われています。
これにより、従来の「DRSゾーンで翼を開いて一気に抜く」というパターンから、マシン挙動とバッテリー使用を組み合わせた新しいオーバーテイクパターンへと変化していくと見られています。
「マニュアル・オーバーライド」導入で、バッテリーを使った駆け引きが鍵に
2026年レギュレーションでは、DRSに代わる“攻撃ボタン”として、ドライバーが使用タイミングを選べるマニュアル・オーバーライド・システムが導入されます。
- 機能の概要:先行車に近づいた後続車が条件を満たした際、ドライバーはオーバーライドを作動させて一時的に高いモーター出力を引き出すことができます。
- モーター出力の制御:標準状態では、時速290kmを超えるとモーター出力が徐々に減少し、355kmでゼロになる設定ですが、オーバーライドを用いると時速337kmまで350kWのフル出力を維持でき、さらに追加のエネルギー(0.5MJ)を使うことが可能とされています。
- 戦略性の向上:この仕組みにより、ドライバーは「どこでオーバーライドを使うか」という駆け引きが増え、レース中の戦略に新たな要素が加わります。
これまでのDRSは指定ゾーンで半ば自動的に使用される側面がありましたが、2026年からは電気エネルギー管理と使用タイミングの読み合いが、オーバーテイクの鍵となっていくことが期待されています。
車体サイズと重量の見直し:より軽く、コンパクトなマシンへ
2022年以降のグラウンドエフェクトカーは安全性や空力のために大柄で重いマシンとなっていましたが、2026年規則ではここにも手が入ります。
- 重量の削減:2026年型シャシーは、現在より約30kgの軽量化を目指した規定となっており、コーナリングでのキビキビとした動きが期待されています。
- サイズの縮小:全長や全幅も見直され、現在よりコンパクトなマシンとなる方向が打ち出されています。
- ドライバビリティの改善:これにより、特に低速~中速コーナーでの取り回しやレスポンスが改善され、サーキットによってはバトルがしやすくなるとの見通しが示されています。
ただし、電動系コンポーネントの強化や安全装備の維持なども必要であるため、「どこまで軽くできるか」「どのように質量配分を最適化するか」は各チームの重要な開発テーマとなりそうです。
エンジン交換戦略に“終止符”――コストキャップが自然な抑止力に
2026年の新ルールでは、パワーユニット関連にコストキャップ
- 従来の問題点:現行規則では、パワーユニットそのものにコスト上限がなく、特にワークスチームは、ペナルティを受けても新しいエンジンを投入することで性能面の利益を得るケースが指摘されていました。
- 2026年以降の変更:PUメーカーにもコストキャップがかけられ、エンジン1基を追加するたびに大きな費用増となるため、「罰を受けつつ新品を入れた方が得」という発想自体が成り立ちにくくなります。
- 自然な抑制力:FIAは「余計なエンジン交換は、単純に高くつくだけ」という構図を作ることで、規則の“抜け穴”を埋める狙いを示しています。
これにより、チームはこれまで以上にパワーユニットの信頼性と長期使用を重視せざるを得なくなり、コスト面とパフォーマンス面のバランスをどう取るかが重要なテーマになっていきます。
「エンジンフォーミュラ化」への懸念も――ニューウェイの見方
2026年はエンジンとシャシーの両方が一気に刷新される年ですが、名デザイナーとして知られるエイドリアン・ニューウェイは、この大変革が少なくとも初期段階では「エンジンフォーミュラ」に傾くのではないかと懸念を示しています。
- PU性能の影響の大きさ:電動化強化により、PU側の技術的自由度や開発競争が激しくなることで、ある特定のPUメーカーが大きな優位を築く可能性が指摘されています。
- シャシー刷新との同時進行:シャシー規則も同時に変わるため、マシンコンセプト全体の最適解を見つけるには時間がかかり、その間はPU性能差がレース結果を左右しやすいのではないかという見立てです。
ただし、この懸念はあくまで技術面から見た可能性の指摘であり、実際にどの程度の差が生まれるかは、2026年の開幕時点で各メーカーの仕上がりが出そろうまでわかりません。
2026年に向けたチームの動き:アストンマーティンとアルピーヌ
こうしたレギュレーション大変革を前に、チーム側も2026年マシンと体制の準備を着々と進めています。その中でも注目を集めているのが、アストンマーティンとアルピーヌの動きです。
アストンマーティン、ニューウェイ主導の「AMR26」発表日を設定
アストンマーティンは、2026年マシンとなる「AMR26」のローンチ日を発表し、話題を呼んでいます。AMR26は、長年レッドブルで数々のタイトルマシンを手がけてきたエイドリアン・ニューウェイが主導する最初のF1マシンになると報じられており、新レギュレーション初年度というタイミングも相まって期待が高まっています(ニュース内容2)。
ニューウェイは先述の通り、2026年レギュレーションに関して「エンジンフォーミュラ化」の懸念も示しており、その視点を踏まえたうえでどのようなマシンコンセプトを打ち出してくるのかが大きな焦点です。シャシーデザインとPUパッケージングの最適化、その両輪をどうまとめ上げるかは、アストンマーティンにとってもシリーズ全体にとっても重要な試金石となります。
アルピーヌも2026年ローンチイベントの開催を正式発表
一方、アルピーヌも2026年型マシンのローンチイベントの日程を正式にアナウンスし、新体制でのスタートに向けた準備を進めています(ニュース内容3)。
2026年はパワーユニットとシャシーを含む技術パッケージが一新されるため、これまでと異なる哲学や組織体制を前面に押し出す絶好の機会とも言えます。アルピーヌとしても、自社のエンジン技術や空力開発力を強くアピールできる場として、ローンチイベントは非常に重要な位置づけになると見られます。
2026年のF1は「遅くなるが、バトルは増える」?
一部の技術解説では、2026年マシンは総合的なラップタイムこそ現在よりやや遅くなるものの、その代わりにレース中の接近戦やオーバーテイクの機会が増える可能性が指摘されています。
- ラップタイムへの影響:電動出力の制御や燃料使用制限、空力ドラッグ削減などの要素により、絶対的な速さでは現在より若干落ち込むと見られています。
- レースとしての面白さ:一方で、乱流の影響低減、アクティブエアロ、マニュアル・オーバーライドといった仕組みにより、後続車が前車に近づきやすくなることが期待されます。
- ドライバーの腕とエネルギーマネジメント:バッテリーの使い方やオーバーライドのタイミング、タイヤと燃料の管理など、ドライバーの総合的なマネジメント能力がこれまで以上に問われるかたちになりそうです。
FIAやF1側は、「単に速いだけでなく、観客にとってエキサイティングなレース」を目指すと繰り返し強調しており、2026年規則はそのための大きな実験場となります。
まとめ:2026年はF1の“第二のハイブリッド元年”に
2026年のF1は、MGU-H廃止とMGU-K強化、100%持続可能燃料、アクティブ・エアロ、マニュアル・オーバーライド、PUコストキャップなど、多くの新要素が同時に導入される節目の年になります。技術的にも運営面でもチャレンジが多い一方で、メーカーやチームにとっては自らの技術力と開発力をアピールする絶好の機会でもあります。
アストンマーティンのニューウェイ主導「AMR26」発表や、アルピーヌの2026年ローンチイベントなど、各チームの動きも着実に進んでおり、ファンにとっては今後の発表やテストの情報から目が離せない状況が続きそうです。



