江夏豊――「21球」に刻まれた魂の激闘。その真実と感動をふたたび
日本シリーズ史に残る伝説「江夏の21球」とは
江夏豊。その名は今もプロ野球ファンの心に刻まれ続けています。特に1979年11月4日、大阪球場で行われた日本シリーズ第7戦で繰り広げられた「江夏の21球」は、昭和から令和へと語り継がれる稀代のドラマとなりました。
この試合は、広島東洋カープと近鉄バファローズによる日本一をかけた決戦でした。シリーズは3勝3敗。そして迎えた最終第7戦、試合は一進一退の大接戦となります。そんな試合のクライマックスで起きたのが「江夏の21球」です。
9回裏「奇跡」の21球——球場を包んだ緊張と歓喜
- 1979年11月4日、日本一を初めて目指す広島、そして近鉄。真っ向勝負の最終戦は、運命の9回裏、カープがわずか1点リードのまま最終回を迎えます。
- 広島の守護神・江夏豊がマウンドにあがったのは、7回裏2死一塁という早いタイミング。8回を危なげなくゼロ封しますが、9回裏は想像を絶する展開となります。
- 先頭打者のヒット、代走の盗塁、続くエラーで無死三塁の大ピンチ。さらに四球に満塁策もあり、無死満塁——まさに「絶体絶命」という状況が生まれました。
球場は熱狂の渦。応援する近鉄ファンで埋め尽くされたスタンドと、緊張を隠し切れない広島ベンチ。それぞれの「初」の夢がぶつかり合うなか、江夏豊投手は、わずか21球でこの修羅場を乗り越えます。
江夏の神懸かり的なピッチング
誰もが同点、逆転を予想した土壇場から、江夏投手が見せたのは不屈の精神力と投手としての勝負勘でした。その詳細な状況を以下に紹介します。
- 9回裏、まずは満塁の場面から三振奪取で1アウト。
- 続く場面ではスクイズ(バントによる得点狙い)をウエスト(投球を外すこと)してみごとに阻止。三塁ランナーを挟殺(タッチアウト)にし、また1アウトを積み重ねます。
- 最後は力を振り絞り、21球目のカーブで見事三振に切って取り、勝利。「江夏の21球」は21球目で幕を閉じ、広島カープは初の日本一という快挙を手にしました。
この一連の攻防は、単なる勝負事を超え、選手一人ひとりの心理、人間力が凝縮されたストーリーです。江夏投手にとって最大の修羅場であり、誰もが「打たれる」「負ける」を頭によぎらせながら、それでもマウンドに立ち続ける姿が、多くのファンの心に深く刻まれました。
「江夏の21球」がもたらしたプロ野球史への影響
このドラマチックな場面はスポーツノンフィクション作家・山際淳司によって「江夏の21球」というタイトルで作品化され、『Sports Graphic Number』創刊号に掲載されることで永遠不滅の名場面となりました。またドキュメンタリー番組や特集、動画、漫画など多様なメディアで何度も取り上げられています。
- 江夏豊の21球は「結果」だけでなく、「過程」や「心理」に焦点を当てる日本スポーツ報道の転機ともなりました。
- 仲間や対戦相手、監督を含めた「ベンチ全員」のドラマがファンの共感を呼び、日本シリーズの価値観やプロ野球観を大きく変えたともいわれています。
「時をかけるテレビ」新ドキュメント、再び21球の真実に迫る
2025年になった今、「江夏の21球」は新たな形で再び注目されています。「時をかけるテレビ」という番組枠で、21球の心理ドラマや駆け引きにスポットを当てたドキュメントが放送され、今の若い世代にも「あの瞬間」の緊張感や感動が伝えられる試みがなされています。
- 当時の選手たちがどんな思いでグラウンドやベンチに立っていたのか——。選手の証言やデータ、解説者の視点など多角的に描かれており、スポーツの「物語力」の再発見になっています。
- わずか21球、わずか26分。その短い時間ながら人間の心の動きやチームワークが生み出した価値と奇跡。このドキュメントは、「江夏の21球」の歴史的意義を次代へつなぐものです。
昭和レジェンドとしての江夏豊と「神の9人」
2025年、「昭和100年記念」企画ではプロ野球ファンが選ぶ「神の9人」が発表され、王貞治、長嶋茂雄、そして江夏豊がレジェンドとして選出されました。昭和を飾った輝かしい名選手たちのなかでも、江夏豊は異彩を放つ存在として今なお敬愛されています。
- 投手として3球団で歴史を築き、オールスターや日本シリーズで記憶に残る活躍を続けた江夏は、多くの野球ファンにとって特別なヒーローです。
- 「江夏の21球」で見せた胆力、冷静さ、野球愛は、「名場面」としてだけでなく「心を打つ物語」となって語り継がれています。
まとめ:江夏豊の「21球」は、時代を超えた魂の物語
いま「江夏の21球」が再び注目されるその理由は、単なるプレーの美しさや日本一の快挙だけではありません。失敗やピンチに向き合い、仲間を信じ、最後までぶれずに勝負することの大切さ、そして全力で生きる一瞬一瞬の価値を、私たちに教えてくれるからです。
新しい世代の野球ファンはもちろん、当時の記憶を持つファンも、「江夏の21球」をきっかけに、ふたたび熱い瞬間と魂の震えを共に味わってみてはいかがでしょうか。