クレイトン・カーショー、引退と家族の時間へ――“球速145キロ未満”でもドジャースを救った伝説左腕の素顔

ロサンゼルス・ドジャース一筋18年、メジャーリーグを代表する左腕として数々の歴史をつくってきた
クレイトン・カーショー投手(37)が、2025年シーズン限りでユニホームを脱ぎました。
最速が全盛期ほど出なくなり、「速球145キロ未満」と表現されるようになってもなお、チームの窮地を救い続けたその姿は、多くのファンと仲間の心に深く刻まれています。
この記事では、カーショーのラストイヤーの投球内容、引退裏話、仲間たちの言葉、そして家族と過ごす穏やかな時間までを、やさしい言葉で振り返ります。

「内容もひどくない」37歳でもドジャースを支えた投球

カーショーは2025年、37歳のシーズンを迎えました。
かつてのような圧倒的な球威こそ影を潜め、「速球145キロ未満」と評されるようになっていましたが、それでもドジャースにとっては欠かせない先発投手でした。

実際、このシーズン前半の最初の20先発で10勝2敗、防御率3.53という安定した成績を残し、先発陣にけが人が相次いだ中盤戦のローテーションを力強く支えました。
ドジャースは優勝争いを続ける中で、どうしても計算できるベテラン先発が必要でしたが、その役割をカーショーが見事に担っていたのです。

全盛期と比べると球速は明らかに落ちていましたが、「内容もひどくない」と評価されるように、
コントロール、配球、経験値で打者を打ち取るタイプへ、うまくスタイルを変化させていました。
かつては豪快なカーブと速球でねじ伏せるイメージが強かったカーショーですが、晩年には「打者との駆け引き」で勝負する投手へと進化していたのです。

自らのタイミングで決めた「引退」――「今は本当に心が穏やか」

カーショーが2025年を最後に引退する決断を下した背景には、「自分の意思で終わりを決めたい」という強い思いがありました。

2024年シーズンは負傷の影響で長く戦列を離れ、思うような投球ができない時期もありました。
それでも2025年春、ドジャースと再契約を結んだ際、彼は「ドジャースの一員として引退したい」とあらためて口にしました。
ケガでフェードアウトするようなやめ方ではなく、「まだ戦える」ことを証明した上で、自らのタイミングでマウンドを降りる――それが彼の理想だったのです。

地元紙の密着取材では、カーショーが何年も悩み続けた末に、「やめるよ」「引退する」と静かに決意を口にする場面も伝えられています。
長く心の中でもやもやしていた決断をようやく言葉にしたことで、「今は本当に心が穏やかだ」と語る様子も報じられました。

フリーマンの涙――「それでも史上最高だ」とたたえられた存在

カーショーの引退は、チームメートにとっても大きな出来事でした。
その中でも、とくに強い感情をあらわにしたのが、1歳年下の強打者フレディ・フリーマンです。

引退の発表の場で、カーショーは普段あまり好まない「自分が主役になる瞬間」を正面から受け止めていました。
そこには監督、コーチ、チームメート、球団関係者、スタッフ、そして妻のエレンさんと4人の子どもたちが集まり、彼のキャリアの幕引きを見届けていました。

そんな中でスピーチに立ったフリーマンは、カーショーの前で涙をこらえきれず、「それでも史上最高だ」という趣旨の言葉で、その功績と存在の大きさをたたえました。
球速が落ちても、成績が少しずつ“人間的な数字”に近づいてきても、彼に対するリスペクトはまったく揺らいでいなかったことがうかがえます。

別の場面でもカーショーは、「フレディに『今日は泣かない』と言ったけど、うまくできるか分からない」と語り、
ファン、家族、チームメートへの感謝を口にしながら、何度も言葉を詰まらせました。
「君たちは世界一のチームだ」とチームメートをねぎらう姿には、18年間ともに戦ってきた仲間への深い愛情がにじんでいました。

「俺は面倒くさい奴」それでも愛されたロッカールームのリーダー

カーショーは、マウンド上では冷静沈着なエースというイメージがありますが、ロッカールームでは時に自らを「俺は面倒くさい奴」と表現する一面もありました。
それでも、そんな彼を慕うチームメートは多く、みな口をそろえて「彼と一緒にプレーできたことに感謝している」と話していました。

ロサンゼルスの地元紙が報じた引退裏話のひとつとして、
妊娠中の妻と子どもたち、そしてドジャースの仲間たちへのカーショーの感謝の言葉が紹介されています。
家庭を大切にしながらも、チームに対して常に高い基準を求め、勝利への執念を見せ続ける――。
時にそのストイックさが「面倒くさい」と自嘲気味に語られることもありましたが、
それこそが、長くチームの柱であり続けたエースの責任感でもありました。

チームメートのマックス・マンシーは、「彼にもう1つリングを」と語り、
カーショーが最後のシーズンを終える前から、「彼はもう1度ワールドシリーズを制覇して引退するだろう」と“予言”していたことも伝えられています。
その言葉どおり、カーショーはドジャースの一員として、ワールドシリーズ連覇を果たした後に現役生活に幕を下ろしました。

「来年、彼らは再び優勝する」ファンへの別れのメッセージ

シーズン終了後、カーショーは本拠地でのセレモニーで、18年間支えてくれたファンへ別れのスピーチを行いました。

昨年、私は生涯ドジャースだと言った。そして今日、それが真実になった
カーショーはそう胸を張り、「そして今日、私は生涯チャンピオンだと言える。それは決して消えない」と語りました。
ワールドシリーズ制覇という最高の形でキャリアを締めくくった左腕らしい、力強い言葉でした。

さらに彼は、来季以降もドジャースを信じる気持ちをこう表現しました。
来年、彼らは再び優勝するだろう。私も皆さんと同じように見届けるつもりだ
引退後はマウンドではなく、スタンドやテレビの前からチームを応援する立場になりますが、その視線は変わらずドジャースに注がれています。

今後の役割についてはまだ正式には決まっていませんが、
現代では珍しい「一球団一筋」のレジェンドとして、球団が何らかのポジションを用意する見込みとも報じられています。
指導者、フロント、スペシャルアドバイザーなど、どのような形になるにせよ、カーショーがドジャースという組織にとって特別な存在であり続けることは間違いありません。

歴史に刻まれた成績――サイ・ヤング賞3度、通算223勝、3000奪三振超え

カーショーのキャリアを語るうえで、数字のインパクトも欠かせません。

  • ドジャース一筋18年
  • サイ・ヤング賞3回
  • ナ・リーグMVP1回(2014年)
  • ワールドシリーズ優勝2度(うち連覇での引退)
  • 通算223勝96敗
  • 通算3052奪三振
  • 通算防御率2.54(歴代上位の数字)
  • ロベルト・クレメンテ賞受賞(2012年)
  • 通算3000奪三振達成20人目、左腕として史上4人目

この成績で現役を退く投手は、メジャーリーグの長い歴史を振り返ってもごくわずかです。
SNS上では「カーショー本当に引退なんだね」「来年から見られないのか、悲しい」といった声に加え、
「21世紀で史上初のWS連覇を達成して引退する投手になった」「本当に特別な野球人生だ」と、称賛と感謝のコメントが相次ぎました。

ドジャースのエースとして長く君臨しながら、チームの看板を背負う重圧と、ポストシーズンでの悔しい経験も数多く味わってきたカーショー。
それでもキャリア晩年には、若い投手たちを支え、ローテーションの“柱のひとり”として、自らの役割を冷静に受け入れながらチームに貢献していました。

「生涯ドジャース」――一つの球団でキャリアを終える意味

カーショーがこだわったのは、「一つの球団でキャリアを終えること」でした。

シーズン開幕前、彼はこう語っています。
「時に自分自身が、一つの球団でキャリアを過ごすことの意味をちゃんと評価できていなかったと思う。
他のスポーツにもそれを成し遂げた選手がいて、すごく特別なことだと感じる。
キャリアの長さにかかわらず、ここで最後までプレーし続けることが目標だった」

FA市場が活発で、選手の移籍が当たり前になっている現代において、
ドラフトで指名された球団で18年間を過ごし、その球団のユニホームのまま引退する――。
それは、数字には表れない大きな価値を持つ出来事です。

「自分をドラフト指名し、育ててくれた球団で最後までプレーできたこと」
それこそが、数々のタイトルや記録以上に、カーショーにとって最大の誇りなのかもしれません。

家族と過ごす新しい時間――「Merry Christmas!」の笑顔

現役引退後、カーショーは妻エレンさんと4人の子どもたち、そして間もなく生まれる5人目の子どもと過ごす時間を増やしたいと語っています。
長年つづいた移動続きの生活や、登板前後の緊張から離れ、家族とゆっくり向き合う日々が始まります。

シーズン後には、カーショーが家族とともにクリスマスを満喫する様子も日本のメディアで紹介されました。
Merry Christmas!」というメッセージとともに、リラックスした表情で家族と過ごす姿からは、
激しい競争の世界から一歩離れた、穏やかな時間を楽しんでいる様子が伝わってきます。

また、ある番組では、大谷翔平選手らの日本への帰国に同行するという話題を振られ、
「まるでビートルズやテイラー・スウィフトと旅行するようなものだよ」と笑いながら「大賛成だよ」と答える一幕もありました。
エースとしての厳しい表情だけでなく、ユーモアを交えた“素顔のカーショー”も、これからはファンの前に登場する機会が増えていくかもしれません。

カーショーが残したもの――数字以上の「安心感」と「誇り」

クレイトン・カーショーの引退は、たしかに寂しいニュースです。
しかしその歩みを振り返ると、悲しみだけでなく、多くの誇り感謝が胸に残ります。

全盛期には、カーショーが先発するとわかっただけで、ファンは「今日は勝てる」と感じるほどの圧倒的な安心感がありました。
晩年になっても、その安心感は形を変えながら続きました。
球速が落ちても、「内容はひどくない」と評価されるような技術と工夫で試合をつくり、
若い先発陣が不安定なときには、ローテーションの「軸」としてチームを救い続けました。

そして何より、カーショーはドジャースファンにとって「誇り」そのものでした。
サイ・ヤング賞、MVP、ワールドシリーズ制覇、3000奪三振――
どの数字を取っても殿堂入り級の成績ですが、それ以上に、
苦しいときも逃げずにマウンドに立ち続けた姿勢こそが、レジェンドと呼ばれる理由なのでしょう。

「来年、彼らは再び優勝するだろう」と語ったカーショーは、これからは一人のファンとして、
そしておそらくは球団の一員として、ドジャースの新しい歴史を見守っていきます。
マウンドに立つ姿はもう見られなくなっても、彼が築いた文化や価値観は、これからもロサンゼルスのクラブハウスに息づき続けるはずです。

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